平成17年12月26日放送
  日産婦医会組織の重要課題(今年をふりかえって)
  日本産婦人科医会副会長 佐々木 繁


 年末を迎え本年を振り返ってみますと、産婦人科医療の根幹を揺るがすような大きな問題が幾つかありましたので報告させていただきます。その内、看護師の内診問題につきましては石渡茨城県支部長より報告がありますので省略いたします。

I.妊娠・分娩費用の保険給付化について

 2月2日、衆議院予算委員会において公明党議員が妊娠・分娩費用の保険給付化について質問したのに対しまして、尾辻厚生労働大臣は「保険財政は厳しいが、2006年の医療保険制度改革の中で検討する」と答弁しました。医会では3月15日に現物給付反対、現金給付の維持についての要望書を植松治雄日医会長に提出しご協力をお願いしました。7月22日、自民党厚生労働部会の子育て支援対策小委員会(委員長=金田勝年参議院議員)は、出産費用負担の軽減策として、分娩費や妊産婦健診等の費用を医療保険から給付するとする中間まとめを公表しました。医会では直ちに8月3日、「妊娠・分娩の給付のあり方に関する要望書」を厚生労働省の大臣並びに関係各局長、審議官、金田勝年、武見敬三、西島英利各参議院議員、植松日医会長に提出し、理解を求めました。要望の内容は、現在、妊産婦健診や正常分娩は医療保険の給付対象となっておらず、妊娠・分娩の経過中に異常が発生し疾病として取り扱われた場合には、その部分について療養の給付が行われており、日本産婦人科医会、日本産科婦人科学会両会で会員にも運用上誤りのないように指導してまいりました。周産期医学のめまぐるしい発展には、正常妊娠・正常分娩費用の保険給付は不適当、不合理であり、出産育児一時金の支給による現金給付の形態を堅持すべきと主張してまいりました。その理由として

  1. 正常妊娠・正常分娩は高レベルの包括的医学管理が必要であり、妊娠・分娩の経過は個々の妊産婦でそれぞれ異なり、正常な経過に導くための技術や体制を一律に包括的な診療報酬点数で評価することは不可能であります。
  2. 正常妊娠・正常分娩の保険給付化で、多様化している妊産婦のニーズやアメニティーへの期待に応えることができなくなります。
    以上が要望の内容ですが、現在この問題は沈静化している状況です。

II.産婦人科有床診療所の方向性について(日本産婦人科医会の考え方)

 7月8日のメディファクスで、厚生労働省は「その他病床」を持つ有床診療所を、病院並みの高機能を持つタイプ、一時緊急入院を目的にした従来のタイプ、産科の3類型に分け、さらに療養病床を持つ療養型の有床診療所を合わせた4類型に区分する方針で検討に入ったと報道されました。これを契機として全国有床診療所連絡協議会、日医の有床診療所検討委員会でこの4類型化についての議論が始まり、その中で産科有床診療所のあり方も取上げられました。医会の各支部からは医会本部としての考え方を示して欲しいとの要望があり、現在並びに将来の産婦人科医療を考慮しながら、産婦人科有床診療所の方向性について、現時点における考え方をまとめました。
産科類型の設定そのものには不確定な部分も多いとはいえ、産婦人科を一つの標榜科として類型化することは適当であり、類型化が施行される場合、どのような条件であれば受け入れ可能かについて検討しました。

  1. 一人有床診療所の分娩取扱いを堅持しますが、その場合医療安全に対する十分な配慮がなされていることが最低条件となります。
  2. 48時間規制撤廃を原則とします。
  3. 医療安全については、分娩は医師の管理下で行い、地域における周産期医療システムの充実を図り、診診連携や病診連携を積極的に推進することや、24時間オンコール体制整備を必須要件とします。
  4. 産科ではなく産婦人科有床診療所とします。現在産婦人科有床診療所は婦人科疾患を取り扱っている施設が多く、また妊娠時に婦人科疾患を合併するケースも多いため、産科と婦人科を切り離すことは困難であります。
  5. 基準病床には算定しません。算定されますと、新規開業医師の地域医療への参入が妨げられ、分娩取扱い施設の減少に拍車をかける可能性が強いことがその理由です。
  6. 入院基本料は施設基準に応じて設定し、診療報酬上で差別化します。
  7. 許認可制でなく、届出制を堅持します。

 現在、医療法が大幅に改正されるかどうかは微妙な段階です。

III.少子化対策並びに産科医療安全確保対策に関する要望書について

 産科医療を取り巻く環境は極めて深刻な状態であり、このままでは数年を待たずして危機的状況に陥ることが予想されます。とくに基幹病院における産科勤務医の不足は顕著であり、その結果として全国的に一般病院における産科医師の不足や不在が多発しており、地域産科医療の崩壊などとマスコミにも取上げられて社会問題化しております。産科医が不足する理由としましては過重労働、低収入、医療事故の多発などが挙げられており、将来を託すべき医学生の産婦人科希望者も年々減少しております。
 このような状況下にありまして、少子化対策並びに特に基幹病院における産科医療の支援を通じて産科医療安全確保対策の視点から以下の3項目を医会坂元会長、学会武谷理事長の連名で6月15日に厚生労働省関係各課長あてに要望書として提出いたしました。

  1. ハイリスク分娩管理料の新設
    基幹病院と一次医療施設の役割分担を明確にして、ハイリスク分娩を基幹病院が管理した場合は、「ハイリスク分娩管理料」を国が支給するよう要望します。適用疾患については
    (1)妊娠22週より妊娠28週未満の切迫早産、
    (2)40歳以上の初産婦,
    (3)BMI35以上の初産婦,
    (4)妊娠高血圧症候群
    など13疾患を考えております。また、施設基準については
    (1)厚生労働省認定の臨床研修病院(協力型臨床研修病院も含みます)及び産婦人科部門において同等以上の機能を有する施設,
    (2)日本産科婦人科学会の指定する産婦人科専門医研修指導施設とします。
  2. ハイリスク妊産婦共同(管理)指導料(附:退院時共同指導加算)の新設
    ハイリスク妊産婦の継続的安全管理、病・病並びに病・診連携の立場から新設を要望します。
  3. 出産育児一時金の増額
    出産育児一時金は平成6年に30万円とされて以来、これまで据え置かれており、増額を要望します。

 以上の3項目については、日産婦医会報10月号に掲載されておりますのでご覧下さい。

IV.産婦人科関連診療報酬に関する要望書について

 厚生労働省は11月2日の中医協・調査実施小委員会に、平成17年6月実施の医療経済実態調査結果の速報を報告しております。その中で、産婦人科は一般診療所全体の1施設当たり収支で平成15年6月と平成17年6月の収支差額が、金額の伸び率でマイナス54.0%となっております。(因みに有床診療所はマイナス58.5%、逆に無床診療所はプラス36.6%でした。)厚生労働、文部科学、総務3省は本年8月に産婦人科等医師不足の診療科対策として「診療報酬での適切な評価」を提案しており、来年4月の診療報酬改定の際は格段の配慮をお願いするとして具体的な12要望項目を付した要望書を保険局医療課に11月11日に提出致しました。
 要望項目は

  1. ハイリスク分娩管理料並びにハイリスク妊産婦共同(管理)指導料の新設,
  2. 緊急帝王切開と選択帝王切開における文言の変更及び点数の増額,
  3. 特定疾患療養指導料の拡大として卵巣機能不全と更年期障害,
  4. 膣洗など処置料の改定,
  5. 産科手術点数の改定として流産手術と骨盤位娩出術,
  6. 外陰・膣血腫除去術の新設,
  7. 生体検査判断料の適応拡大として分娩監視装置と超音波検査、
  8. NSTの外来使用、
  9. 子宮卵管造影時の腔内注入手技料の改定,
  10. エストロジェンレセプターとプロジェステロンレセプターの個別算定、
  11. 子宮内膜症診断のためのCA125精密測定など,
  12. 複数手術の術式追加として子宮筋腫核出術と子宮附属器腫瘍摘出術の膣式及び腹腔鏡下手術。

    なお詳細は日産婦医会報12月号に掲載されておりますのでご覧下さい。