平成17年11月7日放送
  小規模事業所における母性健康管理電話相談事業について
  日本産婦人科医会常務理事 朝倉 啓文


 いわゆる産業医のいない従業員50人以下の小規模事業所における妊産婦や女性を対象とした電話相談により母性健康管理を行おうという事業です。平成13年度以降、日本産婦人科医会が厚生労働省から委託を受けて今まで4年間にわたり行っています。

 具体的な事業内容は、産業医がいない従業員50人以下の事業所で働く女性が妊娠して労働を続ける上で分からないことを、地域における電話相談体制に質問を投げかけ、医師が電話で対応し、母性の健康管理を行っていいこうという事業です。例えば、女性が 「おやもしかして妊娠かな?」と思った時でも病院に行く時間もないとか、あるいは、つわりで苦しんでいる妊婦や、切迫流産や切迫早産徴候に苦しんでいる妊婦などが電話で相談することで、仕事を休まなければならのか、あるいは診察をすぐ受ける必要があるのかどうかなどについて産婦人科医師に電話で直接相談するわけです。
 事業主に関しては、労働する女性の健康管理についての質問や、妊娠中や出産後の働く女性の健康管理などについて、会社にはいない産業医の変わりに、電話相談体制を利用して相談医に相談をする。つまり働いている女性が妊婦したけれども今の部署でそのまま働いてよいのか、あるいいは具体的な症状に基づいて、職務をどうすればいいのかなどを相談するわけです。 男女雇用均等法によると「医師などの指導に基づいて母子健康管理の措置を講じることが事業主の義務」とされています。第22条には「事業主は、女性労働者が妊産婦のための保健指導または、健康診査を受診するための必要な時間を確保しなければならない」と規定されており、また、第23条には「妊婦あるいは出産後の女性が健康診査により主治医から指導を受けた場合には、その女性労働者がその指導を守ることができるように、事業主は勤務時間の変更や勤務の軽減などの措置を講じなければならない」と規定されています。
 つまり、小規模事業所であっても、適切な母子管理を行われないと法律違反になるのです。
このような相談を地域にある電話相談の受付に電話すると、産婦人科専門医が無料で相談に応じてくれるという体制です。電話である理由は、プライバシーが保護されるという利点もあるかもしれません。これが当初より考えられている本事業の青写真です。

 当初は事業所に働く、妊産婦が対象であったのですが、最近では相談体制自体が「働く女性の心と体の電話相談」と名前を変え、月経異常や更年期女性に特有な健康問題にかかわることでも相談対象とするように変化し、働く女性全般を対象として拡大しています。その理由は、女性の労働者が非常に多くなってきていることもあるでしょうが、電話相談体制の利用者の伸びが思わしくないといった理由もあるのかもしれません。

 日本産婦人科医会では全国47都道府県支部にお願いをしてすでに電話相談窓口を作ってもらっています。殆どが各県の産婦人科医会が窓口になっているようです。各県支部にコーディネーターがおかれ電話相談があると母性健康管理相談医のもとにバトンタッチすることになっています。

 最も多い東京でも60件前後で、決して、本事業が円滑に行われているわけではないことが分かります。
 実績アップのための方策が考えられなければならないのですが、今年からはまず電話相談だけではなく、妊婦や事業主が実際に面接することも本事業に付け加えられてきています。各都道府県支部に確認したところ面談も可能であるということでしたので、希望があれば事業主や妊産婦や女性労働者が医師と直接面談の上で相談することも本システムに加えました。
 また、事業主の認知度が低い点も、当初より問題であり、このことに対しては、コーディネーターが事業所を訪問し、趣旨説明を行い、パンフレットを配布することなどが、新しく平成17年度から本事業に組み込まれました。
 しかし、実際には、コーディネーターの多くは地域の医師会などの事務員が兼務していることも多く、訪問して説明するまでの時間を割くことは、なかなか容易ではないとも考えられますので、具体的には支部役員の知り合いの企業先などを、コーディネーターが訪ねるとか、地域産業保健センターを訪れ、パンフレットの配布をお願いするなどを医会として考え、各県支部にお願いをいたしました。
 実績から解析しても、平成13年度には雇用主からの電話件数は8件、平成14年度と15年度には12件、平成16年度になっても13件と、事業主の認知度が低い点が問題であることは明らかです。
 一方では委託費は平成13年度には41267千円であったものが徐々に減額され、緊縮財政を反映したようですが、平成17年度には3051万6000円と、事業開始当初より1000万円の減少になっています。つまり、予算は少なくなったが、コーディネーターの働きに期待をかけるというのが本年度の本事業の特徴になります。

 なぜ広まらないか?
 平成16年度の実績をみてみますと東京が60件と最も多く、ついで千葉県の24件、大阪の22件が20件以上です。10件以上あるのは福島、神奈川、静岡、愛知、滋賀、岡山、愛媛の7件支部です。0報告は15都道府県になります。0報告の都道府県は毎年あります。なぜ0なのかに関しては調査、検討しようと考えています。
 成績アップを阻む点は、各県支部の相談体制は殆どが週1回のみで、半日間の相談受付になっています。実際に相談医やコーディネーターが設置できるかどうかの問題は確かに大きいと思いますが、相談可能日が多ければ受けつられる相談も多くなるのではと考えています。
 また、昨年度来、お願いをしていることですが、メールによる相談もOKですので、広報を行って欲しい点です。

 当初は広報に回せる予算が少なかったのですが、平成14年度から、広報用の予算もついています。よく見られるパターンは、新聞に事業が掲載されると突然、電話が多くなるという傾向はあります。いかに、マスコミに広報するか、そして認知を継続するかを思慮するところです。
 新聞社などからの問いあわせ件数を見ると、平成13年度には68件、14年には112件、15年も112件でしたが、平成16年にはわずか33件であります。それぞれの支部で機会ある毎に、広報をお願いしたいと思います。

 実際の相談内容をみてみますと、平成16年度には、妊娠出産に関する質問が45%と多く、育児に関する相談は非常に少なく4件。事業主からが4%。その他が38%でした。
 卵巣嚢腫や担当医の説明不足に対する相談、生理不順など、なんでも女性健康相談のような風です。妊娠出産に関する相談と、それ以外の相談がほぼ1/2ずつです。

 しかし、国家予算があり、産婦人科医師が、電話という媒体ではあっても、健康を心配する女性と話し合える。あるいいは、これらの女性の健康を守るため事業主と話し合うという機会は、多すぎるということはないと考えます。
 資金面での運用が難しいというお話もよく聞きます。しかし、このようなシステムをお膳立てくれているのに、我々、産婦人科医が本事業を放棄するという選択肢はないと考えています。有効に、効率よいシステムを考えるべきです。少子化対策にそして、産婦人科医師不足の時代、われわれ産婦人科医師の社会に対するアピールと考えることで本事業の意義は高まりこそしても、目減りすることはありえないと考えます。ただお話ししましたように本事業がなかなかうまく進まない現状もあります。広く会員の先生からの意見やideaをお寄せいただいて、よりよい事業展開を考えたいと思っています。よろしくご協力の程、お願いいたします。