平成17年7月18日放送
  産婦人科医の学校医・学校協力医への参加推進について
  社団法人日本産婦人科医会常務理事 田邊 清男


 皆様、今晩は。

 私は日本産婦人科医会の常務理事で、女性保健部を担当しておりました田邊でございます。本日私に与えられましたテーマは「産婦人科医の学校医・学校協力医への推進について」でございますが、私が女性保健部を担当致しておりました間、ずっとこの問題に取り組んで参りました関係から、本日はこのテーマでお話するようにとの事かと存じます。

 日本産婦人科医会の性教育指導セミナーは本年で第28回目となりました。産婦人科医会はこのように若者の性教育には長年関心を持ち、産婦人科医は積極的に学校等における性教育に関与して頂きたいと医会会員にお願いすると同時に、各種調査や資料作成を行って参りました。さらには、厚生労働省はもちろんのこと文部科学省や都道府県等へも産婦人科医による学校等における性教育が実現するよう働きかけをして参りました。

 その甲斐があってか、昨年4月より文部科学省による「学校・地域保健連携推進事業」が始まっております。昨年度の事業費は約2億1千万円でしたが、財務省への概算要求の際に提出された説明書によれば、この事業は「児童生徒の様々な心身の健康問題に対応するため、学校と地域保健が連携し、健康相談活動について円滑な運営ができるよう、専門医を学校へ派遣し、健康相談活動の体制整備を図る」ことが目的とされています。また本年度の説明書には「近年の社会環境や生活様式の急激な変化に伴い、精神的ストレスの増大、運動不足、生活習慣病の兆候など、児童生徒の心身の健康に様々な影響をもたらしている。とりわけ、心の健康問題と関連していると考えられるいじめ、保健室登校、性の逸脱行動、アレルギー疾患及び感染症等の増加・深刻化が問題となっている。このようなことから、児童生徒が一日の大半を過ごす学校生活を心身ともに健康で安全に送ることのできるよう、児童生徒の様々な健康問題に対応できる地域の専門医を学校に派遣し、日常的に児童生徒の心身の健康管理を行う必要がある。学校の要請により各診療科の専門医の派遣を行う等、地域保健等と連携し、児童生徒の心身の健康相談や健康教育を行うモデル的な事業を実施する」とより具体的に表現しています。このように、文部科学省も我々産婦人科医による学校等における性教育の重要性をやっと認識して来たものと推測しております。具体的には、本事業は都道府県教育委員会の中に設置された専門委員会が医療機関や保健所の協力を得て、学校の要請などに応じて専門医を派遣するもので、相談医は主に精神科、整形外科、産婦人科、皮膚科(あるいはアレルギー科)となりますが、その選択や具体的な協力体制などは各都道府県が決めることになっております。

 本事業は47都道府県すべてが対象ではありますが、各都道府県教育委員会から文部科学省への手上げ方式であって、希望する都道府県へのみ補助金が交付されることになっております。昨年は初年度のため、この手上げの締め切りが5月31日であることを5月21日に我々が知るところとなり、急遽各支部長へ、平成16年から当該事業が始まること、そして各教育委員会からの手上げ方式であること、さらにはその締め切りが5月31日であることを通知させて頂きました。そして我々の待ちに待った本事業に各支部とも積極的に参加するよう要請したところです。

 この事業が開始されてから約2ヶ月後の6月24日には、各支部における当該事業の進捗状況を調査する目的で、各支部宛にアンケート調査をさせて頂きました。その結果をここでご報告させて頂きますと、まず今回の事業に参画することができたかどうかを聞いた質問には、参画できたが19支部約40%、参画できなかったが14支部約30%であり、今回の事業には参画しなかったという回答が13支部約23%でした。なお、今回の事業には参画しなかったという支部には、もう既に学校等における性教育に参画している支部も含まれています。ところで、参画できた支部はさておきまして、参画できなかった支部からの回答の中には、県も県教育委員会も本事業をまったく知らない、県も県教育委員会もこの事業に全く乗り気でない、県教育委員会が勝手に本事業を行わないことに決めた、県医師会が産婦人科医会へ相談無く勝手に断った、あるいは産婦人科は本事業の対象外、といった回答がありました。これをみてみますと、日ごろより県の医師会は無論教育委員会などと密接な関係を築いている支部は、相互の意思疎通が容易であり、また今回の事業にも参画できたように見受けられました。

 次に、我々が5月21日に各支部長宛に出しました通知を受けて、各支部でどのような行動を起こしたかを聞いた質問には、都道府県教育委員会へアプローチした、あるいは都道府県医師会へアプローチしたが、複数回答ではありますが、各々25支部約53%及び14支部約30%ありました。なお、まったくアプローチしていないという支部も14支部30%ありましたが、無論これにはアプローチする必要の無い支部も含まれております。アプローチする必要のない支部を除いて、殆どの支部が何らかのアプローチをされていることが分かりました。ただ、支部によっては会員個人がアプローチをしたような支部も見受けられます。支部が一丸となって県の教育委員会や医師会へ、当該事業をその県でも行うべき事を説明し、産婦人科医も参画する用意ができていることを、積極的に表明すべきと思われます。

 次に本事業を行うに際しての問題点は何かを質問したところ、性教育に対応できる産婦人科医会会員が少ない、高校が主な対象で小学校や中学校が欠けている、さらには報酬が安い、などが出されています。

 最後に要望を聞いたところ、性をタブー視せず学校内でもっと積極的に取り組みをすべきである、小学校や中学校でも性教育ができるようにすべきである、あるいは専門医ではなく学校医にすべきである、予算をもっと付けて欲しい、さらには文部科学省に予算が十分無いなら文部科学省から都道府県教育委員会へもっと予算を付けるよう働きかけをすべきである、といった要望が出されている一方、低学年から行き過ぎた性教育をするのは問題だ、などの意見もありました。

 いずれにしろ、産婦人科医会本部・支部を問わず、学校における性教育の重要性を我々産婦人科医は誰もが認めています。我々の日々の臨床から、若者の性を一番よく知っているのが産婦人科医であり、若者の性を憂えているのもまた我々産婦人科医です。従いまして、我々産婦人科医会会員は常日頃より性教育には十分興味を持ち、要請があればいつでも性教育を行えるように研鑽すると共に、支部単位で性教育用スライドなど資料を準備しておくことが重要です。そして、会員の誰が行ってもほぼ同じ水準で、同じような内容の性教育を行えるよう、皆が切磋琢磨しておくことが重要と考えております。いくつかの支部では支部単位でスライド等の資料を用意しております。無論本部も平成14年3月には性教育用のスライドとCD−ROMを作成し、各支部へ配布致しましたし、また本年度はその改訂版を出す予定にしております。

 「学校・地域保健連携推進事業」は平成17年度も継続して行われます。本年度の事業費は約1億7千万円と昨年度より減少していますが、本年もまた手上げ方式で去る2月末日に締め切られております。本年もまた各支部における本事業の推進状況をお教え頂きたいと考えております。

 産婦人科医会支部における学校医等に関するアンケート調査を過去2回行いましたが、その結果から、徐々にではありますが産婦人科医が学校等における性教育に関与できて来ていることが明らかになっていました。そして今度の文部科学省による「学校・地域保健連携推進事業」は100%満足のいくものではありませんが、我々の主張してきた学校等における性教育の道がいよいよ開けて来たものと考えています。産婦人科医会本部は産婦人科医会会員による学校等における性教育を積極的に推進しております。従いまして、この事業を各支部で積極的に推進して頂き、是非とも将来へつなげて頂きたいと希望致しております。

 先程のアンケート調査結果には予算が少ない、性教育を行った際の報酬をもっと出して欲しいという意見も散見されました。もとより過重な負担を医会会員へお願いするものではありませんが、会員一人一人が可能な範囲で、是非ともボランティアー精神を発揮して頂き、次世代を担う若者のために、学校医、学校協力医あるいは専門医等の肩書きにはこだわらず、学校等における性教育に積極的に参加して頂くことを、心より希望致しまして、私の本日の話を終わらせて頂きます。

 ご静聴有難うございました。