平成17年6月20日放送
  第28回日産婦医会性教育指導セミナー全国大会のご案内
  社団法人日本産婦人科医会理事 片瀬 高


性教育指導セミナー全国大会のご案内をさせていただきます。
来る7月10日(日)九州大学の百年講堂において開催されます。

産婦人科臨床医の立場からみた性教育指導セミナーの意義

 私たち産婦人科医は日々の診療活動の中で性を扱い、月経に関すること、避妊、性感染症や妊娠出産育児の大切さなどを学識や臨床経験より指導をおこなえる専門医です。性教育指導セミナーでは私たちが中心となり、他の医療関係者(助産師、看護師、保健師や他科の医師など)や学校とともに、次世代を担う若年者に有効な性教育を検討します。

過去のセミナーの果たした役割

 過去のセミナーでは講演会形式でしたが、平成15年の第26回セミナーでは性教育指導能力のスキルアップを図るための勉強会、平成16年の第27回セミナーでは中学生を中心にした性教育の取り組みについてのシンポジウムがおこなわれました。今年はシンポジウムIとして若年出産の問題提起、およびシンポジウムIIとして「HIV感染爆発前夜」より、若年者の危機的現状を再認識し今の性教育に必要なものを考え、今後の課題と新しい形態の性教育についても提示していきたいと思います。
 今回のセミナーは、午前と午後にそれぞれのシンポジウムをおこないます。お昼休みにはランチョンセミナーが2つおこなわれます。

シンポジウムI
 
テーマ 若年出産の裏にあるもの、その背景と今後の取り組み

1)目的
 性教育の中で若年出産は表だって議論されることはあまり多くはありませんでした。その理由として1つには,子どもを産むということは(とくに少子化の現在では)善であると考えるべきだと言われているうえに若年出産が減れば,中絶が増えると考えられているからです。2つには、10代の妊娠のうち,出産に至るのはその中の約3割程度と見積もられており,人工妊娠中絶の数には及びません。3つには,学校現場においては,妊娠継続が判明した場合には,就学をあきらめざるをえない状況になる場合が多く,結果として,学校性教育・性指導の対象とならないからです。
 ふだんは人工妊娠中絶の陰にかくれがちな「出産」というものに対する性教育を中心とした今後の対応をさぐるためのシンポジウムです。これからシンポジウムの内容について順を追って説明致します。

福岡県の若年出産の現状
 福岡県内の医療機関を対象にした過去3年間における250例以上の若年出産例に関するデータを解析し、15歳以下の出産と16歳・17歳における出産との違いを発表していただきます。その2群については生理的なことがらについては差がありませんでしたが、養育に関連する社会環境的なことがらについては15歳以下の群にはかなり厳しい状況が見いだされています。
幼すぎた出産
 出産時12歳の少女の症例報告です。
大分県の現状と取り組み
 大分県における74例の若年出産の現状について,1ヶ月健診時における就学状況や養育状況,婚姻状況などの調査結果および大分市でのペリネイタル・ビジット導入後の産婦人科ならびに小児科医療現場での成果について紹介していただきます。
高校生の性教育
 福岡県医師会は(福岡県)教育庁との連携のもと、全日制県立高校に産婦人科医が出向し生徒の性に関する悩みについて指導助言をおこなってきました。この事業の15年経過を機に福岡県教育庁と福岡県産婦人科医会ではよりよい連携のための実践例集作成と全学校対象にアンケート調査を施行しましたので、そのアンケート調査の結果を中心に発表していただきます。
ドメスティック・バイオレンスと若年出産
 全国的な妊産婦へのDV実態調査の結果の発表です。わが国でも若年妊産婦へのDV被害は際だって高く存在することが明らかになり,また同時にそれらDVの要因は,その後の児童虐待の要因と結びついていることなども明らかになりました。

 最後に、コーディネーターを福岡県立大学の松浦(賢長)教授にお願いしていまして、これら5人の発表を受けるかたちで、福岡県の産婦人科医会にて企画された新しいかたちの高校生性教育について,その実践例を中心に発表していただきます。今回の性教育は、県立W高校の全日制と定時制スタッフ、および産婦人科医会、泌尿器科医会の連携のもとにおこなわれました。この性教育の目的は、専門医の学校へのかかわり方を再考するためにおこなわれたものです。
 総合討論では会場の皆様と若年出産への見方と今後の性教育のあり方について議論し、若年妊娠自体を減少させることのできる性教育アプローチを考えていきたいと思います。

シンポジウムII
 テーマ HIV感染爆発前夜」というショッキングなテーマです。

 「HIV感染爆発前夜」というショッキングなテーマです。AIDSがわが国で問題視されて以来20年以上が経過しますが、STDとくにHIVに対する性教育戦略について議論していきたいと思います。

HIV感染の実態
 九州ブロックのHIV・AIDS最先端の臨床現場より現状と流行阻止のための予防行動や性行動へのアプローチ、検診行動へのアプローチの重要性についての発表です。
福岡県のSTIの実態
 全国の9モデル県において調査がなされた、STI動向調査の結果についての発表です。
婦人科クリニックにおける思春期患者の現状
 ピルは性交を促すとして性教育には不適当とされてきましたが、専門医としてピルを適切に処方するということが望まない妊娠の減少だけではなくSTDの減少にもつながることが示されます。
若年世代に対する警告
 HIVに対する認識を新たにするため、国際的な観点での議論,そして,現代での日本の若者の行動と現状からみたリスクについての議論をしていただく予定です。
新しい世代への性教育の実践
 学校と専門医の連携で性教育の場合には、主に産婦人科医が担当してまいりましたが、県立定時制高校の生徒を対象にした泌尿器専門医の性教育の経験より、問題点、展望そして今後の新しい世代、特に男子を対象にしたあるべき性教育についての発表です。
指定発言
 フリーライターの高崎真規子氏に、「少女たちはなぜHを急ぐのか」という著書や様々な取材より現代の少女達の性の実態についての発言をいただきたいと思います。

 このシンポジウムの総合討論では性についての知識を与えることが、自己を守る行動に結びつくためにはどのような工夫が必要なのか、今まで,避妊教育と混在化してきた対STD教育を整理した上で、HIVに焦点を絞ってエビデンスに基づいた有効な対策を性教育にどのように取り込むのかを討論して、会場の皆様からは臨床現場での危機感を如何にして一般に共有されうるかのご意見をいただきたいと思います。