平成17年3月28日放送
  平成16年度社保の動き
  社団法人日本産婦人科医会幹事 秋山 敏夫


 本日は平成16年度社保の動きと題し、本年度の社会保険の重要事項について報告する。

 平成16年度の診療報酬点数改定は、改定率±0%で決着した。改定内容は「医療の安全・質の確保」との趣旨を踏まえた新設や変更であり、検査や画像診断等が0.4%程度引き下げられ、医療機関の経営に大きな影響を及ぼした。

 まず、平成16年度社保部の行った事業

  1. 産婦人科診療報酬の適正化に向けての検討
  2. 診療報酬点数早見表の作成と配布
  3. 診療報酬点数改定に伴う医療保険必携の作成と配布
  4. 診療動態調査
  5. 疑義解釈についての解説と会員への伝達
  6. ブロックならびに支部との連絡および会員への研修・伝達の徹底
  7. 日産婦医会報による会員への伝達の徹底
  8. ICD-10に基づく病名オーダリングシステム調査
  9. 関連諸方面との連絡折衝
  10. 社会保険委員会の存置と社会保険小委員会の開催

1.診療報酬点数改定に関する産婦人科の要望

 診療報酬点数改定に向けて、全国支部社会保険担当者、社会保険委員より広く要望事項を募り、産婦人科の適正化を図るべく、要望事項を整理し、関係諸団体とも連携をとりながら、当局へ実現に向けて働きかけた。

 今回の要望は、全科とも採択条件は悪く、産婦人科も次の2項目が採択されたのみであった。
1) 赤血球不規則抗体検査の対象手術に、子宮悪性腫瘍手術、子宮全摘術、子宮外妊娠手術、子宮附属器悪性腫瘍手術が追加された。
2) 静脈麻酔時に経皮的動脈血酸素飽和度測定の算定ができることとなった。

2.日本産科婦人科学会と共同で行っている項目について

  1. 内科系学会社会保険連合、所謂内保連、外科系学会社会保険委員会連合、所謂外保連への委員の選出
  2. 供給停止予定品目の検討および回答
  3. 混合診療に関する検討
  4. 疑いを含む風疹罹患妊娠女性における風疹抗体価測定に関する要望

3.社会保険委員会における質疑事項

  1. 次の手術の同時(同日施行)請求の可否
    1)病名が子宮頸癌、体部浸潤疑いで、子宮頸部円錐切除術と子宮内膜掻爬術の算定の可否は、同一病巣であるため不可。
    2)子宮筋腫で腹腔鏡下子宮筋腫核出術と子宮鏡下子宮筋腫核出術の算定はこれも同一臓器、同一病巣であるため不可。
  2. 自律神経失調症、更年期障害の病名で星状神経節ブロックの算定は適応病名がないので不可。
  3. 「肺血栓塞栓症予防管理料」の産婦人科領域における運用について
    (1)産科領域ではどのようなところまで請求できるか
     1)高度肥満妊婦が分娩する際に弾性ストッキングをはかせて分娩したとき
     2)切迫早産で長期安静を要した妊婦が分娩する際の弾性ストッキングの着用
     3)産科手術はどこまで認められるか
    (2)婦人科領域ではどこまで請求できるか
     1)開腹手術、腹腔鏡下手術、腟式手術では
      2)手術の種類に関わらず、高齢者、高度肥満患者では
      3)長期入院患者に深部静脈血栓症が見つかった時に何か治療をした場合
    (3)請求の際に注記する必要性は
    (4)ヘパリンを注射した際の請求方法
    (5)請求は1入院1回か。入院中2回以上手術をした時は
    (6)肺血栓塞栓症予防の処置が1ヶ月を超えた場合月ごとに請求できるか。
     以上に対する回答は、保険入院でなければならない。自費の分娩入院では不可。 
     手術がなくてもよく、入院中1回の算定。
     注記は特に必要ない。ヘパリン投与のみでは算定ができない。弾性ストッキング等使用しないと不可。すでに血栓症があり治療が行われている場合は不可。血栓予防 のガイドラインが出ており、それに沿って運用する必要がある。この中で中リスク以 上を対象とするのが原則。弾性包帯は患者がストッキングを使用できない状況であれば可。
     入院基本料が通算されるような入院であっても再入院時、再度予防管理をすれば算定が可能。特定入院料を算定している場合も可。
  4. 「子宮頸癌」又は「子宮体癌」の病名で、動注化学療法施行時に血管塞栓術の併施
     血管塞栓術は産婦人科領域では分娩後弛緩出血や悪性腫瘍からの止血困難な大量出血例などに注記をつけて認められている。癌患者の動注化学療法例に血流を変え治療効率を上げるために行われるが、この場合は認められない。
  5. 静脈麻酔の手技料が認められる静脈麻酔剤の薬剤名
     チオペンタールナトリウムであるラボナール、チアミラールナトリウムであるイソゾール、塩酸ケタミンであるケタラール、ディプリバンであるプロポフォールが認め られる。
     麻酔前投薬及び麻酔補助剤であるペンタジンやソセゴン、麻酔前投薬であるジアゼパムであるセルシンやホリゾンを使用した麻酔等では静脈麻酔の手技料の120点は算定できない。
  6. 子宮脱根治術で赤血球不規則抗体検査の算定について
     赤血球不規則抗体検査の対象手術に子宮全摘術が追加された。子宮脱手術の腟壁形成手術及び子宮全摘術の場合は子宮を摘出しても手術の記号が、子宮全摘術はK877、子宮脱手術の子宮全摘術はK865-4と異なるため算定はできない。
  7. 胎盤の病理検査が算定できる疾患について
     妊娠中毒症、子宮内感染である前期破水、絨毛膜羊膜炎、常位胎盤早期剥離等、病理検査の結果がその後の治療に必要となる場合には算定可能。

4..社保ブロック協議会における質疑事項

  1. 腟壁血腫、腟壁のう腫で超音波検査(550点)の算定
      胸腹部以外のその他の350点で算定
  2. 多胎妊娠例に週2回のNST検査の可否
      否、週1回の算定
  3. 子宮頸部切除術後の多量出血に対する処置の請求方法
     創傷処理か子宮止血処置(分娩外)か創傷処理は手術料であり、切・刺・割創または挫創に対して切除または縫合を行う場合の1回目の治療であり、この場合は認められない。
     多量出血の処置は、創傷処置(42点)または子宮出血止血法(分娩外のもの)(42点)で算定。
  4. 子宮悪性腫瘍手術時の低血圧麻酔の適応の有無は
     可となるが、症状詳記を必要とする。
  5. 更年期障害の病名での選択的セロトニン取込み阻害剤であるパキシル錠の適応
     うつ病、うつ状態、パニック障害等に適応があるが、更年期障害には適応ない
  6. 通常の産婦人科開腹術後に対して、理学療法などのリハビリテーション料の算定
     リハビリが必要とされる症例にのみ可。婦人科疾患での該当は少ないと思われるので、傾向的な場合は査定の対象となる。
  7. 良性卵巣腫瘍の経過観察の目的で超音波断層検査を行う場合の検査回数
     3ヶ月に1回程度
  8. 癌治療後、経過観察の為の毎月の悪性腫瘍特異物質治療管理料の算定
     癌治療計画をもとに、月1回のみの算定は可能
  9. 腹腔鏡下手術、特に子宮外妊娠や筋腫核出術の止血目的で使用されるピトレシンの算定
     不可。このことは研修ノート71の82頁にも保険適応外と記載してある。
  10. クラミジア卵管炎に対するジスロマック錠算定の可否
     認められない。効能追加に伴う改訂で、尿道炎・子宮頸管炎が追加されたが、卵管 炎は含まれないため。