平成17年1月31日放送
  平成17年度税制改正要望書について
  日本産婦人科医会副会長 清川 尚


 今年は、あの阪神淡路大震災から10年目の節目の年です。昨年は、季節はずれの台風、新潟中越地震、年末にはスマトラ沖での大津波で10万人以上の死者が出ました。まさしく天変地異の年でした。
 10年前の阪神大震災の時は、当時私は幹事長をしていまして、地震発生と同時に神戸に緊急連絡を致しましたが、すぐに音信が途絶えてしまい、情報が錯乱してしまいました。坂元会長と相談し直ちに二人で現地に飛びました。芦屋まではなんとか電車や車を乗り継ぎ行きましたが、三宮からは徒歩で神戸大学病院にたどり着き、当時の病院長の望月産婦人科教授と小林正義支部長にお会いし、状況把握に務めました。坂元会長は現状を見て、直ちに出来ること、即ち「おぎゃー献金」の拠出でした。当時の支部献金担当の小国先生が献身的ご努力で心身障害児被災施設を回り、被害状況をつぶさにご報告していただき、おぎゃー献金を贈呈させて頂きました。有事のときの寸時の判断を会長の側でつぶさに見て大変勉強になったのと同時に、この会長だからこそ、我々日産婦医会の会員は安心して産婦人科医療に専念できることを身をもって感じました。
 10年が過ぎ、当時の私は幹事長から副会長になり日産婦医会活動に従事していますが、坂元会長の積極的初期対応の姿勢は10年経った今でも変わらず、私自身も享受し、自助、共助、公助の精神で日常生活も含めた行動をしています。

 さて、今年は戦後60年をわが国は迎えます。日本の歩むべき道をどこに求めるのか、幸いわが国のよりどころは経済の競争力があります。しかし、近年少子化が急速に進み、こどもを産むことが当たり前と言えなくなった国になりつつあります。このことは成長力、創造力が減退し、国力は衰退の瀬戸際に追い込まれています。戦後わが国は国士的指導者がいなくなり、平成2年のバブル経済崩壊後の不況から脱出することさえも出来ません。このような状況の中、医療界も不況の波をもろにかぶっています。来年は医療保険と介護保険が同時に改正になりますので、わが産婦人科も万全の体制で望まなくてはなりません。
昨年、国と自民党に対してそれぞれ平成17年度概算要求に関する要望書と税制改正要望書を提出しましたところ、昨年12月末に平成17年度厚生労働省の母子保健関係予算案の概要が示されましたので、すこし解説を加えてお話しさせて頂きます。

 国の主要施策の一つに医療安全対策の総合的推進が掲げられました。これは医療事故を未然に防止し、医療の安全を確保するため、「厚生労働大臣医療事故対策緊急アピール」を踏まえた医療安全対策の推進です。この中には周産期医療施設のオープン病院化モデル事業として、予算の計上が示されました。医療訴訟率の高い産科におけるオープンシステムを構築するため、ハイリスク分娩などを受け入れることが可能な産科オープン病院を中心とした周産期医療のモデル事業を実施することです。
 昨年新聞報道等で物議を醸し出した「よい産院の10ヶ条」や「妊婦健診は医院、分娩は病院」という間違ったタイトルで報道され、国民、医療関係者、とりわけ医会の会員に心配と迷惑をおかけした事を踏まえて厚生労働省も私ども産婦人科医会と十分協議し予算計上をしたものと解釈します。さらに周産期医療体制の充実、不妊治療に対する支援として、母子保健医療対策総合支援事業の創設がなされ、36億円強の予算案が示されました。内容は各自治体における子どもの健康の確保と母子保健医療体制等の一層の充実が図られるように、従来の周産期医療ネットワークの整備事業、不妊治療に対する支援事業等を再編・整理し、補助基準の緩和などを図ることにより、各自治体の主体的かつ弾力的な事業運営を可能とする統合補助金の創設です。事業内容としては母子保健強化推進特別事業、療育指導事業、生涯を通じた女性の健康支援事業、特定不妊治療費助成事業、周産期医療対策事業、総合周産期母子医療センター運営事業などです。さらに母子保健医療施設の設備整備、未熟児養育医療費、次世代育成支援対策交付金として母子保健関連では、乳幼児健康支援一時預かり事業、育児健康支援事業、食育などの推進事業があります。私ども産婦人科医会からの要望がほぼ組み入れられたかと思っていますが、実行するには会員の意思の統一、一致団結が必要です。税制改正への自民党への要望は自民党の政務調査会厚生労働部会長の田村憲久議員、組織本部厚生関係団体委員長の後藤田正純議員への直接の要望手渡しと説明を行いました。

 提出しました要望書を読ませて頂きます。

 平成17年度税制改正要望書
 少子高齢化対策は、わが国の最重要課題の一つでありますが、産婦人科医療は、引き続き進行している少子化の中で、女性の生涯に亘る健康の保持・増進並びに次世代を担う胎児・新生児の命運を預かる極めて重要な使命を有する医療であります。こうした重要な使命を遂行する医療の直接の担当者たる産婦人科医に対する関係税制については必ずしも十分な配慮がなされているとは言えない現状にあります。日本産婦人科医会は、常に国民に良質な医療を提供し、その生命と健康の保持・増進に務めるため、日本医師会と共に努力してきているところであり、今般の税制改正要望についても、当然、日本医師会の方針を全面的に支持するものであります。しかし、近年の産婦人科医療を取り巻く医療環境は少子化のため、特に厳しいものがあります。また、産婦人科医業は、その医療の特殊性から、医事紛争の多発や時間的にも厳しい条件下に置かれているため、産婦人科医師を始め産婦人科医療従事者の志望者は少なく年々減少しており、この状態が継続すると今後の産婦人科医療、特に、産科医療に深刻な影響を与えかねません。よって、我が国が今、最も力点を置かねばならない少子化対策の一環として、また産婦人科医師等医療従事者の長期安定確保等のためにも、女性医療、産婦人科医療に対する各種の施策について、税制面で特段のご配慮をお願いします。

 というのが要望書の趣旨です。
 その後の回答がありまして、社会保険診療報酬に対する事業税非課税の特例の存続、医療法人の社会保険診療報酬以外の事業税については、特別法人としての軽減措置の存続が確定しました。また医療用機器に係わる特別償却制度の適用期限延長が実現しました。このなかで医療の安全確保に資する医療用機器の適用期限延長(平成19年3月31日まで2年延長)では、産婦人科領域では、分娩監視装置、生体情報モニター、ナースコール連動システムなどかあります。しかし、毎回要望しています産婦人科医療承継時の相続税、贈与税制度の改善等の特例制度の創設は見送られました。しかし、産婦人科医がますます減少しつつある今現在、日本の産婦人科医療存続のためにも、今後も関係各位のご理解を求めて要望していく覚悟です。

 日本産婦人科医会報1月号に坂元会長以下役員の決意が述べられています。産婦人科の現状を存亡の危機と捉え、私どもの義務が遂行不能になれば人口は激減し、国の衰退につながることを、怒りをもって国、行政、マスコミ、その他ここまでわれわれの立場を追いつめた原因を誘った人々に訴えたいと思います。法にあっては政治的理由で遅れた母体保護法改正問題、時代に合わぬ保助看法の改正、医学教育、コメディカル教育のあり方改善に着手しなければなりません。産婦人科医会が百家争鳴ではなく、立派な意見の方々を中心に一団となって自浄より始めて理想の世界をつくる力を結集出来る体制作りが必要です。社団法人日本産婦人科医会の先生方のより一層のご理解とご協力をお願い申し上げます。


日産婦医会発第254号
平成16年11月10日

自由民主党
 政務調査会厚生労働部会長  田村 憲久 殿
 組織本部厚生関係団体委員長 後藤田正純 殿

社団法人日本産婦人科医会
会長 坂元 正一

 

平 成 1 7 年 度 税 制 改 正 要 望 書

 少子高齢化対策は我が国の最重要課題の一つでありますが、産婦人科医療は、引き続き進行している少子化の中で、女性の生涯に亘る健康の保持・増進並びに次世代を担う胎児・新生児の命運を預かる極めて重要な使命を有する医療であります。
 こうした重要な使命を遂行する医療の直接の担当者たる産婦人科医に対する関係税制については、必ずしも十分な配慮がなされているとは言えない現状にあります。
 日本産婦人科医会は、常に国民に良質な医療を提供し、その生命と健康の保持・増進に努めるため、日本医師会と共に努力してきているところであり、今般の税制改正要望についても、当然、日本医師会の方針を全面的に支持するものであります。
しかし、近年の産婦人科医療を取り巻く医療環境は少子化のため、特に厳しいものがあります。また、産婦人科医業は、その医療の特殊性から、医事紛争の多発や時間的にも厳しい条件下に置かれているため、産婦人科医師を始め医療従事者の志望者は少なく年々減少しており、この状態が継続すると今後の産婦人科診療、特に、産科医療に深刻な影響を与えかねません。
 よって、我が国が今、最も力点を置かねばならない少子化対策の一環として、また産婦人科医師等医療従事者の長期安定確保等のためにも、女性医療、産婦人科医療に対する各種の施策について、税制面で特段のご配慮をお願いします。



1 社会保険診療報酬等に対する消費税の非課税制度の改善を

 社会保険診療報酬等に対する消費税が非課税とされていることから、社会保険診療報酬等に対応する消費税分は、仕入税額控除が適用されないため、医療機関が一旦負担し、その分は社会保険診療報酬等に反映して回収されることとされています。
 しかし、消費税導入時、その後の消費税率引き上げの際においても、社会保険診療報酬に十分反映されたとはいえず、消費税の一部は医療機関が負担したままの「損税」となっております。
 これを解消するため、社会保険診療報酬等に対する消費税を非課税制度からゼロ税率ないし軽減税率による課税制度に改めるようお願いします。

2 少子化対策への積極的支援と関連事業等への減税措置等の実施を

 我が国は、急速に世界的にも稀な少子社会に突入しております。日本産婦人科医会は、この対策の医療を担当する直接の関係団体として日本医師会等と協調し積極的に取り組んでおりますが、かかる少子化対策関係事業等については非課税対象とするとともに、不妊夫婦が治療を受け易くする施策をとる等につき全面的支援をお願いします。

3 産婦人科医業承継時の相続税、贈与税制度の更なる改善を

 産婦人科医療は、その医療の特殊性、医事紛争の多発、労働の苛烈さから、事業を継承するものが暫減しております。地域医療を確保する上でも、医療水準の維持向上が期待できる産婦人科診療機関の円滑な事業継承は極めて重要であります。
このため、産婦人科医業承継資産の課税特例制度の創設をお願いします。

4 救急医療用機器に係る固定資産税の特例措置の適用期限の延長と対象機器の追加を

 産婦人科医療の分野では、周産期救急医療システム作りが喫緊の課題となっており、そのための機器として、例えば、呼吸心拍血圧モニター、分娩監視装置、NICU用保育器、聴覚スクリーニング装置、救急用自動車等の整備は、救急医療時の安全確保上からも必需のものであります。固定資産税の特例措置の適用期限を延長するとともに、これらの医療機器を新たに追加することをお願いします。