平成16年8月16日放送
 第27回日本産婦人科医会性教育指導セミナー全国大会
 日本産婦人科医会秋田県支部副支部長 後藤 薫
 


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 みなさま、おはようございます。日産婦医会秋田県支部の後藤です。
 去る、8月1日に、「第27回日本産婦人科医会性教育指導セミナー全国大会」を、秋田県支部が担当して、秋田市で開催させていただきました。村田純治支部長を大会会長に、副支部長の私が実行委員長を、常任理事の大山が事務局長を務めさせていただき、準備してまいりましたが、多々、不十分な点があったことと思います。御容赦ください。
 幸い、全国から103名の会員に参加していただき、県内からは、多数の教育関係者や看護系学生の参加を得て、参加総数414名で、盛会のもとに終了することができました。これもひとえに、みなさまのご協力とご指導のおかげと、心から感謝申し上げます。
 本日は、このセミナーの内容について、少し解説させていただきたいと存じます。

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 開会宣言に引き続き、村田純治大会会長、坂元正一日産婦医会会長、寺田典城秋田県知事、小野寺 清秋田県教育委員会教育長に歓迎の挨拶をいただき、講演に移りました。

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 今や、若者の性行動の活発化、低年齢化は歯止めがきかない状態になっており、妊娠や人工妊娠中絶の増加、性感染症の増加、売春・買春はもとより、犯罪行為に巻き込まれる危険性も増しています。特に、先進国で唯一HIV感染者が増加しているわが国において、男性同性愛者間の感染の増加とともに、若年女性でのHIV感染の増加が危惧されています。少年の、児童や幼児に対する暴力行為も、性的発達の歪みが、大きな要因となっています。
 こうした中で、こどもたちに対する性教育の重要性は、大部認知されてきていると思いますが、その内容については、東京都知事や議会の一部の非難を皮切りに、憂慮すべき状況になっています。こどもの成長には個体差があり、行きすぎた性教育は、成長の遅い子にはトラウマとなる恐れがあります。しかし、それだからといって、性教育が闇に葬られ、性の現状が改善されなければ、国が滅びるのではないかとさえ懸念されのです。
 幸い、秋田県では、日産婦医会と教育行政を司る県教育庁、学校現場が密に連絡をとりあい、毎年、実施した性教育に反省を加えながら、改善して進めてまいりました。性教育は、いろいろな形で実施されていますが、大部分を占めるのは学校で行われる性教育です。それを、こどもたちにとって、最も良い形で進めて行くには、どうすればいいのだろうか、いつ、誰が、どのような内容を担当すればよいのだろうか、という疑問の答えに近づこうと、「今求められる性教育とは?ー性教育担当者の役割分担と相互理解ー」というテーマを設定させていただきました。私たち産婦人科医にとってのテーマは、医師の介入が必要か否か、必要なら、いつ、どういう形で介入するのか、学校現場(すなわち、生徒や教師)のみならず、保護者の理解をどう得るのか、性教育を拡大・発展させていくにはどうすべきなのか、であります。
 そこで、午前中は教育講演1として、教育論やその方法論を持たない産婦人科医が、最も苦手とする、小学生への性教育が、どのような考え方で、どのようになされているのかを、中野区立北原小学校の庄子晶子先生に、教育講演2では、今、主体となっている、講義形式の性教育の効果が低いことから、ピアカウンセリングについて、わが国の第一人者である、自治医科大学看護学部教授の高村寿子先生にご講演いただきました。特別講演では、教師の置かれている立場を知る上からも、文部科学省がどのような方向性で性教育に取り組もうとしているのかを、スポーツ・青少年局健康教育課専門官の岩崎容子先生にご講演いただきました。

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 午後からは、ランチョンセミナーとして、日本家族計画協会クリニック所長の北村邦夫先生に、若年者の性行動の最新情報と、厚労省科学研究班と家族計画協会が共同で実施した「男女の生活と意識に関する調査」の結果をもとにして、どうしたらよりよい性教育が実施できるか、についてご講演いただきました。シンポジウムでは、今年から、性教育の重点を高校生から中学生に移した秋田県の、教員、PTA代表、マスコミ、県教育庁、そして医会からは私がシンポジストとなり、中学生に対する性教育のあり方について討論しました。最後に、千葉大学名誉教授の武田 敏先生に「脳科学と認知行動科学に基づいた新性教育論」と題して指定発言をしていただき、シンポジウムを締めくくりました。

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 教育講演1は、医会東北ブロック長の永井 宏先生を座長に進められ、庄子先生は、東京都教育委員会が使用を禁止した、「性交」の意味を知ることは、小さなこどもたちから、「私は生まれてきてよかった」という感想を引き出すには、必要な授業であることを強調され、それをどのように理解させていくのかを、実践をまじえて講演されました。

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 教育講演2は医会常務理事の田邊清男先生が座長を努めました。高村先生は、自分の人生のゴールを見出し、実行していくための力をつける、エンパワーメント教育の重要性、その一環として、学ぶ人が主体となった健康教育としての、ピアカウンセリングの有用性を示されました。実施にあたっては、カウンセリングの場の確保、カウンセラーの養成など、費用がかかることから、行政をはじめとする関連機関との連携の重要性や、カウンセリング参加者の自己負担の必要性についても述べられました。

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 特別講演は村田純治会長が座長を務め、岩崎先生は、文部科学省の考え方として、学校における性教育の基本的な目標は、児童・生徒の人格の完成と豊かな人間形成であり、人間の性を人格の基本的な部分として、生理、心理、社会的側面から総合的にとらえ、科学的知識を与えることと共に、児童・生徒が生命尊重、人間尊重、男女平等の精神に基づく異性観を持つことによって、自ら考え、判断し、意志決定ができる能力を身につけ、望ましい行動をとれるようにすることである、と述べられました。医師の関与については、ただ集会で講演するだけではなく、地域のデータを、地域の学校の課題として提起することも重要であり、資金面については、学校・地域保健連携推進事業などを活用するのも一法であろう、と述べられました。

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 ランチョンセミナーは、秋田大学医学部生殖発達医学分野産科婦人科学教授 田中俊誠先生を座長に進められ、北村先生は、初交開始年齢を早める要因や、親と子のコミュニケーションの重要性を指摘されました。また、今後の取り組みとして、家庭機能の強化、すなわち、親がある程度の知識を持ち、厳しさとともに愛情のある家庭をつくり、子どもと、よいコミュニケーションを保つこと、学校や地域の役割としては、発達段階に応じた科学的・具体的な教育を行うこと、本人の生きる力の強化、すなわち、自立的に、人生に前向きに取り組む姿勢に導くこと、が重要であると述べられました。

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 シンポジウムは、医会女性保健委員会の古賀詔子委員長と医会青森県支部副支部長の蓮尾 豊先生が座長を務められました。
 男鹿北中学校の後藤秀司先生は、1年生と3年生では成長の程度や興味が大きく異なることを指摘し、子どもたちの日常の状況を把握している保健体育の教師が、主に性教育を担当するのがよいのではないか、と述べられ、科学的知識に積み上げられた、実践力すなわち自己決定力、意志決定すなわち予知力、行動選択すなわち交渉力を身につけさせる教育が重要であることを強調されました。
 能勢智子さんは、秋田県内の中学生を持つ保護者、中学生、小学6年生にアンケート調査を実施し、性教育について、保護者は道徳的なことを教えて欲しいと思っていること、自分の娘が妊娠したらどうしよう、あるいは息子が妊娠させたらどうしよう、と心配していること、中学生の半数、小学生の大部分は、性教育の内容を理解しておらず、その必要性も感じていないことを示されました。その上で、保護者は、学校で性教育をしてくれることに期待はしているが、その内容が保護者に伝わらないことが問題であり、保護者をまじえた形にするなどの工夫が必要であると述べられました。

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 秋田魁新報編集局長の小笠原氏は、妊娠中絶や性感染症について教えることも必要なのであろうが、生命の神秘性、命の尊さを、年齢に合わせて強調して説き、特定の異性に、特別な感情を抱いて大切に思い、愛おしく思うことができれば、子どもの人間性は大いに高まるのではなかろうか、と述べられました。

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 教育庁の猿橋先生は、高校生を対象とした医会会員による性教育講座が、多くの生徒、教師に肯定的に受け入れられていること、今後、秋田県では、中学生を対象とした性教育講座に重点を移すこと、その他、直接的に問題解決にあたる方法として、産婦人科医相談事業を立ち上げたこと、教師等を対象とした各種研修会を継続し、最終的には、教師自身が性教育を実施できるようにして行くことなど、積極的に学校における性教育を進める姿勢を示されました。

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 私、後藤は、秋田県の10代の妊娠率、人工妊娠中絶率を全国と対比して示すとともに、淋病とクラミジアの10代女性での増加をとりあげ、さらに累積性交経験率の推移から、高校受験終了後の春休みから、高校1年の1年間が、特に女子生徒が性交に踏み出す踏切板的な時期であること、性に絡んだ問題を起こしているのは、高校生よりも未就学者が多いことを示し、このまま問題のある性交を容認するのではなく、心を伴った性交に導き、現状に歯止めをかけるには、

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 義務教育での性教育、すなわち、中学生に対する性教育が重要であることを強調しました。

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 武田先生は、カエルやネコにはない脳の3階部分、すなわち、大脳新皮質を持ち、情報の統合や判断ができる人間では、いかにこの理性を司る部分を働かせ、「何をして良いか、いけないか」を判断できるようにする教育が重要であること、セルフエスティーム(自己肯定感)を育成するスキルを強化すること、やればできるという自己効力感を持たせることにより、知的快(すなわち知的快さ)を大きくし、現時点の快だけではなく、自己の人生のトータルな快を大切にすること、さらに、自己の快だけではなく、相手と相互の快を大切にし、その上に、皆の快をも大切にする、共生、共栄を喜びとする人間関係をつくりだすことが重要であると述べられました。
 総合討論では、性教育を担当するのは、保健体育の教師がよいのか、担任がよいのか、養護教諭がよいのか、行政としては、ピアカウンセリングや親も参加したロールプレイなどの参加型の教育を進める気はないのか、産婦人科医の教育力のレベルアップのためにどのようなことを実施しているか、などが論議されましたが、当然、最終結論はでませんでした。しかし、こうした形で、学校(教師)、行政(教育庁)、産婦人科医が常に情報を交換し、議論しながら進めているのが、性教育の秋田方式であることを、全国に発信できたのではないかと考えております。今後は保護者の参加を積極的に進めてまいりたいと思います。
 このセミナーが、会員のみなさまにとって、少しでも有意義であったならば幸いです。

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 平成17年度の、第28回日本産婦人科医会性教育指導セミナー全国大会は、7月10日、日曜日に、福岡市、九大百年講堂で、福嶋恒彦福岡県支部長を会長に開催されます。
福岡での大会の成功をご祈念申し上げます。
 ありがとうございました。