平成16年6月7日放送
 乳がん検診のあり方
 日本産婦人科医会常務理事 永井 宏


 子宮がん、乳がんを対象にこれからの婦人科がん検診に対するあり方を検討する班会議を設け、3月いっぱいで論議を終え、それを基として新しいがん検診指針をまとめた。これを4月27日の都道府県がん検診担当者会議で説明公示した。今後のがん検診は、この指針に沿って各市町村で実情に合わせ組み立てられ、推進される事と思われる。この新しいがん検診の指針を紹介し、産婦人科医が今後どのような方法で乳がん検診に取り組むべきかに触れてみたい。
 今回の指針により注目されるのは、乳がん検診においてこれまで主な目的として死亡率減少を基本理念としてあげていたが、新しい指針では検診目標に乳房の温存による生活の質の向上をあげている。

 また、我が国では40歳代の女性に乳がんの罹患率が高い状況にある事を踏まえ、働く女性に対する健康教育を実施する事が強調されている。このためには産業保険即ち産業医とも緊密な連携を有した実施体制を整備する事が不可欠となってくる。
 新しいガイドラインに沿った乳がん検診について述べる。まず、乳がんの罹患率、死亡率が年々増加している事をまず認識する。その上で乳がんは早期に発見し治療を行えば予後は良好であり乳房温存による生活の質の維持向上が期待されるという疾患である事を理解する。そして効果的な検診を行いこの目的に沿うように努める事が検診の重大なポイントである。この目的を遂行するための検診の実施であるが、まず検診項目は問診、乳房エックス線撮影ならびに視診及び触診としている。さらに乳房エックス線写真の読影と視触診は両者を同時に実施する事を原則とすることを強調している。これは従来までの指針において併用検診の実施体制にあたり、体制の整わないところでは暫定的にマンモグラフィ読影と視触診を別の施設で行う分離併用検診が選択肢の一つに入っていたものを、今回の指針において同時併用検診を強調しているところに注目いただきたい。

 次に、注目すべきは従来50歳以上であったマンモグラフィと視触診の同時併用検診が50歳以下、40歳以上に年齢の対象が拡大された事である。ただ、この40歳台は50歳台に比べて検診受診者の乳房がややもすると乳腺が多いという組織学的背景があるために、50歳以上が内外斜位方向撮影(MLO)一方向であったのに対し40歳台は内外斜位方向撮影とともに頭尾方向撮影も併せて行う事が明記されている。また、この年齢においては超音波も重要な選択肢と思われるが十分な有効性の評価が得られない事から指針には明記されていない。また、検診の実施体制として、乳房エックス線撮影時では適切な方法管理下のに実施する事が不可欠である事から、市町村は保健所、地域医師会、委託実施機関等関係者と十分会議を行い地域における実施体制の整備に努める事を強く呼びかけている。  
 次に実施回数であるが、併用検診の導入で2年に1度となされた。従来視触診で行われていた30代の検診は併用検診においても十分な効果が証明出来ない事から、検診の枠から外し健康教育の充実で行っていく方針が出された。 

 乳癌検診の自己予防についての指導もまた重要視されている。乳がんは日常の健康管理の一環として行われている自己触診によって、しこり、腫瘤が触れるなど自覚症状を認める事により発見される事が多い事は従来より知られている。したがって検診の場で検診を受診する事の重要性だけではなく乳がんの自己触診方法、しこりに触れた場合の速やかな医療機関の受診をするように自己触診を普及、啓発する事が関係医師機関に求められる。
以上が今回出されたガイドラインである。次に実際の検診の進め方について述べる。

 マンモグラフィ、視触診の併用検診にあたっては読影をしながら視触診を行う同時併用検診と、読影と視触診を別の施設で行う分離検診とに分けられる。また、同時検診、分離検診もそれぞれ患者の訪れ方から細分化される。しかし、今回のガイドラインによって診断精度の関係が強調され、同時検診が望ましいと強調されているので、今後は同時併用検診が主流となろう。
 同時検診のやり方にもマンモグラフィと読影を同一施設でやる方法とマンモグラフィの撮影を他施設でやり、撮影されたフィルムを持って受診者は施設を訪れ、そこで読影と視触診を受ける2つの方式に分けられる。一つの施設で撮影、読影、視触診が行われるのは精度管理の関係からは最も望ましいとはされるが、設備、マンパワーの関係から大きな検診施設、検診センター等に限られ、現在胃がん、子宮がん検診より始まり地域に広く普及している施設検診システム、即ち「かかりつけ医」による検診体制を損なう事になる。そこで日本医師会や日本産婦人科医会は二施設併用検診を主体とした検診体制を推奨し、各市町村、医師会で広く採用され全国的な展開が期待される。
 二施設併用同時検診は、認定施設で撮影されたフィルムを持参した患者を各施設でフィルムを読影しながら視触診を行うものである。さらに、第一次機関で読影されたフィルムは読影センターでダブルチェックを受け、そこで精検群と次回集検群に分けられる。読影センターでの結果は第一次機関に連絡され、第一次機関の担当医師より受診者が指導を受ける。この方式で行くと、第一次機関で検診を担当する医師は最終診断を行うわけではないので精中委の読影資格規定を幅広く適応することも不可能ではない。即ち、従来、視触診検診を行っていた医師は併用検診にも参加可能である。しかし読影と視触診を行い効果を挙げ、より精度の高い検診を組み立てるためには視触診の技術向上と同時にマンモグラフィの読影技術の向上も避けて通れない道である。

 将来は、併用検診に携わる医師が制度管理中央委員会認定の読影資格、少なくともC以上の取得が望まれ、将来的にはB以上の資格保有者で検診が成り立つことが理想と思われる。おそらく、各市町村で検診医の参加資格が論議される場合、その地域地域の実情に合わせクリアーする事になると思われるが、読影医の数が足りないなど十分に体制が整わない時はダブルチェック体制を整備して対応することが望ましい。将来を見越しては、各地で検診参加医の全員が精中委公式研修会、またはそれに準ずる研修会の参加が必要で、多くの医師が十分な読影力を持って行うことが望まれる。


 日本産婦人科医会の会員が各地で展開する乳癌検診の方法としては、二施設同時併用方式が基準になると思われる。この方式によると、仮に一次読影と視触診により見落としがあった場合でも必ず専門医による二次読影が行われることで異常が発見されることになる。即ち、従来の視触診単独による検診に比べて、患者さんにとっても検診医にとっても安全な方法とも考えられる。繰り返すが、最終的には一定の資格を有する読影医により二次読影が行われるので、検診には必ずしもマンモグラフィの読影に習熟していなくても検診医として参加は可能であろう。しかし、将来的には検診医の読影資格が問われる可能性があり、検診に参加する際には最低資格C以上が要求される場合が多いと思われるが出来るだけB以上の読影資格を得る事が望まれる。
 また、乳がん一般知識を深めるために、各種学会や講習会に参加する事が必要で、特に日本産婦人科乳癌研究会への参加は必須である。新しい指針が出され戸惑いもあるかとは思うが、従来までの経験を生かし新しい検診体制に臨みたい。

 現在行われているがん検診において、今回は乳がんと子宮がんにおいての検討が行われたが、今後引き続き市町村で実施されているがん検診や新しい検診に対しての検討もされることになると思われる。この目的は近年増加を続けるがんの死亡率の激減を目指すために、有効ながん検診を行う事が目的の第一である。そのために、国や都道府県、市町村においてはこの中間報告を踏まえた上で乳がん検診や子宮がん検診の方法、体制、実施体制の見直しや整備が行われることになると思う。
 特に乳がん、子宮がん検診においては産婦人科医が実施の重要な役割を務める事が必須で、国民が希望する効果のあるがん検診が実施できるようあらゆる努力を図る事が期待されている。国民の一人一人ががんの予防についての知識を高め、自らがんを予防する活動を実践することに対しても産婦人科医は重要な役割を果たしていかなくてはならない。