平成16年5月24日放送
 平成15年人口動態調査結果
 日本産婦人科医会広報委員会副委員長 加来 隆一


  今年の初めに、厚生労働省の大臣官房統計情報部から平成15年の人口動態統計の年間推移が発表されました。これは各種の届け出から、各々の市町村で作成された人口動態調査票をもとにして集計されたものです。一部はすでに日本産婦人科医会報の2月号に掲載されております。

 この推計は平成15年1月から10月分を基礎資料として日本在住の日本人について、1年間の推計をしたことが、特徴です。
 この日本人の推計とは別に、3月の初めに総務省が人口推計を発表しておりますが、これには外国人が含まれております。従いまして日本人に限った厚生労働省の推計とは微妙に数値が違う部分があり、注意を要します。また、総務省の統計は平成14年の10月から平成15年の9月までの1年間の確定値で、時期もまた違います。
 今回は主として厚生労働省の推計についてご説明いたします。この厚生労働省の年間推計は出生、死亡、婚姻、離婚及び死産、さらに死亡の3大死因について推計したものです。

 それではまず出生数について説明をいたします。昨年の出生数は減少傾向が止まらず、112万1000人と推計されました。これは戦後最低の出生数です。同じく戦後最低の記録だった平成14年の115万3855人から、さらに3万3000人の減少と報告されています。これは平均28秒に1人の赤ちゃんが生まれている計算になります。
 ちなみに戦後すぐの第一次ベビーブームの頃の昭和22年から24年の出生数は毎年約270万人近くあり、昨年の出生数の112万人という数字はそのわずかに4割にしかすぎません。いかに出生数が減少しているかがわかります。
 この第一次ベビーブームでは、昭和27年まで毎年200万人以上の出生数が保たれていました。まだそれから約20年後に起きた第二次ベビーブームの昭和48年には約209万人が出生しております。昭和46年から49年までの4年間は毎年200万人以上が生まれています。しかし以後は減少傾向が止まらず、現在まで続いております。

 出生率は、人口1000対で表しますが、昨年度は8.9でした。平成14年は9.2で したので、さらに減少しております。第一次ベビーブームの昭和24年には、33.0とこの4倍もの出生率がありました。
 昨年の日本の出生率8.9を諸外国と比較してみますと、2001年の統計ですが、アメリカが14.5、フランスは13.1、イギリスが11.2と日本より高めです。ドイツは8.9、イタリアが9.2とほぼ日本と同様の率です。暫定値ですが、ロシアも8.8とかなり低い出生率です。日本は世界でも最も出生率の低い国の一つになってしまいました。
 欧米以外では、1997年の報告でエジプトが26.7と高く、1999年の報告でイスラエルが21.5、2000年の報告でシンガポールが11.3です。また、インドやバングラディシュ、南アメリカや中央アメリカのラテンアメリカ諸国が20から30くらいの高い出生率を示しています。

 合計特殊出生率は、この統計が推計ですので計算されておりません。平成14年では1.32でしたが、さらに低下するものと思われます。ちなみに昭和24年の合計特殊出生率は4.32もありました。

 次に死亡数の変化ですが、死亡数は年々少しずつ増加しており、昨年は102万5000人でした。これは平成14年の98万2379人より4万3000人の増加と推計されています。特筆すべき点は、死亡数が100万人を超えたのは昭和22年以来約60年ぶりだということです。
 平成15年には平均31秒に1人の日本人が死亡しています。出生の間隔が平均28秒ですから、この間はわずか3秒です。
 1年で死亡の平均間隔は1秒短くなり、出生の平均間隔は1秒長くなりました。つまりこの差は平成14年には5秒だったのですが、昨年はわずか3秒になっています。もうすぐ逆転が起こりそうです。そうなると人口が減り始めます。
 死亡数は今後、人口の高齢化により、毎年徐々に増加していくものと思われます。

 死亡率も人口1000対で平成14年の7.8から8.1に増加しています。

 次に死亡の原因ですが、三大死因の死亡数は第一位が悪性新生物の30万9000人で徐々に増加しております。第二位は心疾患で16万3000人です。心疾患も少しずつ増加しています。第三位が脳血管疾患で13万5000人と推計されます。脳血管疾患はゆっくりですが減る傾向にあります。
 死亡数でみますと最近の10年間では悪性新生物による死亡が著名に増加しております。今から25年前の昭和55年には死因の第一位は、現在第三位の脳血管疾患で、第二位が悪性新生物、第三位が心疾患でした。
 また死産数は、3万3000胎で、平成14年の3万6978胎より約2000胎の減少となりました。死産率は30.3でした。

 次に日本の人口に関係する人口の自然増を説明いたします。出生数から死亡数を引いた人口の自然増は、9万6000人で、平成14年の17万1476人より7万5000人減少しております。このペースでいきいますと2年後くらいには日本人の人口は減少の段階にはいるかもしれません。昨年の人口の自然増は、10万人を初めて割りましたが、第一次ベビーブームの昭和24年の自然増加数は約175万人もありました。その後、昭和54年には自然増が100万人を切り、その後徐々に減少して、ついに年に10万人以下の増加になってしまいました。

 続きまして、婚姻の推計についてご説明します。婚姻件数は73万7000組でした。これは平成14年の75万7331組より2万組の減少でした。将来のさらなる出生数の減少が危惧されます。
 婚姻率は平成14年が6.0でしたが、昨年は5.8と推測されます。婚姻数は減りましたが、婚姻率は昭和59年頃より6.0前後が続いており、大きな変化はありません。ちなみに昭和23年の婚姻数は、95万3999組で、婚姻率は11.9と今の2倍です。35年前の昭和50年で婚姻数は94万1628組で、婚姻率は8.5でした。昨年の婚姻率の5.8という数値を諸外国と比較しますと、2001年の統計で、アメリカは7.8と高く、フランスが5.1、イギリスも5.1で、ドイツが4.7、イタリアが4.5です。日本の婚姻率は、西欧諸国に近くなりつつあるのが現状です。1999年の報告では、ロシアが6.3です。ただし、欧米では婚姻届を出さずに結婚する、いわゆる事実婚も多いので、単純な比較はできないと思われます。

 続いて離婚についての推計を説明します。平成15年の推計では増加傾向にあった離婚件数がやや減少したのも特徴です。離婚件数は28万6000組で、過去最高の平成14年の28万9836組より4000組の減少と推計されました。離婚件数は、平成8年に初めて20万組を超えてからも徐々に増加していき、30万組を超えるのも時間の問題と思われていました。今後の推計をみなければなりませんが、昨年、初めて増加の抑制傾向が認められたわけで、これからの離婚数の変化が注目されます。
 離婚率は2.27で、平成14年の2.30よりわずかに減りました。ちなみに離婚率は昭和24年には1.01で今の半分以下でした。4年前の平成11年に初めて2.0を超えてからは一貫して増加傾向でした。
 諸外国との比較では、2002年の統計ですが、アメリカが4.0と日本の2.27よりかなり高くなっています。2000年の統計では、イギリスが2.6、ドイツが2.4と日本とほぼ同様で、フランスが1.9とやや低く、特にイタリアが0.7と著しく低い離婚率です。各国の宗教や文化的な要因の影響が考えられます。

 日本の人口は平成16年4月1日現在の概算値で1億2771万人です。今後出生数が減少し、死亡数が増加していくことが予想されますので、2年後くらいから人口は減少に転ずる可能性が大です。

 以上の統計は、インターネット上で厚生労働省総務省のホームページでみることができます。また6月頃には平成15年の正確な数値が厚生労働省より発表される予定です。