平成16年5月3日放送
 日本産科婦人科学会総会並びに学術講演会を終えて
 慶應義塾大学医学部産婦人科学教室 塚崎 克己、野澤 志朗


 第56回日本産科婦人科学会総会・学術講演会は、慶應義塾大学医学部産婦人科学教室の担当で本年4月10日土曜日から13日火曜日まで、東京お台場のホテルグランパシフィックメリディアンならびにホテル日航東京にて開催させていただきました。

 学会開催中は天候にもめぐまれたためか、5138人と大勢の会員ならびに非会員の皆様にご参加いただきました。本総会・学術講演会が大きなトラブルもなく無事終了したことに対し、関係者一同安堵の胸をなでおろすとともに、ご参加いただきました大勢の皆様方にこの場をお借りいたしまして心より御礼申し上げます。

 本総会ならびに学術講演会は、産婦人科医療、医学における「継承と連携」(Continuation and Collaboration)をメインテーマといたしました。私たち産婦人科医が、先人から受け継いできた技術や知識、守るべき伝統・モラルをどのように後輩に伝えていくべきなのかを模索すると同時に、新たに日本産科婦人科学会に芽吹いてきた改革の精神を、どのように引き継いでいくのかがメインテーマのひとつである「継承」の目指すものでした。
 そこで、今回は、今年度専門医試験に合格した新専門医の先生方を、先輩の先生方に紹介させていただくことを目的として、学会会場に新専門医296名全員のお名前を掲示いたしました。更に、所属する日本産科婦人科学会に対する認識を深めていただくために、本総会にお呼びいたしましたところ、38名の先生方にご出席を賜り、総会場で代表者に認定書の授与を行いました。
 また、今、日本産科婦人科学会の学術講演会に求められているものは、一部の会員のためだけの学術講演会ではなく、時代の継承者である若い会員から、ベテランの会員まで幅広い層の視点にたった学術講演会の運営であり、プログラムの作成であるとの立場から、本学術講演会では、一般応募演題の採用率を90%に上げ、若手の先生方により多くの発表の場を提供させていただきました。その結果多数の演題が集まりましたが、示説会場が窮屈になってしまい、皆様にご迷惑をおかけしたのではないかと心苦しく思っております。その他、従来日曜日に集中的に行われていた4題のシンポジウムを、臨床的な要素の多い周産期や、手術に関するシンポジウムについては、開業の先生方が出席しやすい日曜日の午後に、また、基礎的な要素の多い内分泌、腫瘍のシンポジウムについては月曜日、火曜日にそれぞれ分散させ、充分な討論時間を確保するとともに、会員が多くのシンポジウムに参加できるよう工夫してみました。この試みに関しては、後日の事後評価を待ちたいと考えております。今回の学術講演会におけるその他の新しい試みとしては、事前登録をインターネットで24時間行えるようにいたしましたが、その結果、従来の約倍にあたる1886名の先生方からの事前登録をいただきました。更に、診療などにより、学術講演会にどうしても参加できない会員のために、学術講演会終了後に講演の一部をインターネットで配信する予定でおります。日程については後日またご連絡させていただきますが、お時間がございましたらご覧いただければ幸甚でございます。今回のこれらの新たな試みによって、学術講演会が会員の皆様にとって、すこしでも身近なものになったとすればこれに優る喜びはございません。

 一方のメインテーマである「連携」に関してですが、現在産婦人科医療をとりまく現状は大変厳しいものがあり、日本産科婦人科学会単独で、または、産婦人科の分野だけで考えることがもはやできなくなってきていることから、他の学会や団体、産婦人科医療・研究をとりまくさまざまな分野の人々と、どのように連携すべきか、その道筋を参加者の皆様とともに探っていければと考え、プログラムの中にとりこんだ次第です。そのひとつは、日本産婦人科医会との共同企画による研修ノートレビューというコーナーを、生涯研修プログラムの中に初めて設けました。産婦人科医会で会員の皆様に毎年配布している研修ノートのテーマの中から、今回は感染症と内視鏡下手術をとりあげ、すでに研修ノートにて充分勉強なさった先生が聞かれても、新しい発見が得られるように内容をさらにグレードアップし、明日の臨床に直接役立つ内容でのご発表をお願いいたしました。これを契機に日本産科婦人科学会と産婦人科医会との学術連携がますます活発になればと考えております。座長をつとめられた副会長の佐々木繁先生はじめ、企画の段階から参与くださいました日本産婦人科医会の先生方に心より感謝申し上げます。

 その他にも、最先端の基礎医学研究の成果が、聴衆者にとって、今行っている研究へのヒントや、これから始めようとしている研究のアイデアへの手助けになればと企画した「医学研究の最前線」。実地の産婦人科医療と密接に関連している医療過誤の問題や、臨床や研究へのITの運用の問題をとりあげた「医療・医学のサポートの最前線」。更に、医療における経済の問題や、人間の生と死に関わる医と宗教の問題、またまったくおもむきを変えて、万物の命の源である宇宙への挑戦、宇宙旅行のしくみについても話していただいた「お台場トーク」など、産婦人科医療・医学と直接、間接に関わるさまざまな問題をとりあげ、その分野におけるスペシャリストに講演していただきました。今回の生涯研修プログラムを聞いていただいて、産婦人科医療・医学と関連を有する他分野との連携のあり方や、その重要性について考えていただければ担当校として幸甚でございます。
 もっとも、プログラムによっては総会の時間帯とぶつかってしまい、会場に行けなかった先生方から「聞きたかったのに残念だ」とのクレームもいただいてしまいました。時間的な制約からとはいえ、誠に申し訳なく思っておりますが、この生涯研修プログラムはごく一部を除き、ビデオテープに撮っておりますので、ご希望がございますれば日本産科婦人科学会事務局までお問い合わせいただければと存じます。

 今回の学術講演会には、外国からも大勢のご参加をいただきました。インターナショナルセッションへの参加者が88名であり、またインターナショナルワークショップなどのご講演に、ご招待した方を含めると、外国からの参加者は、123名になります。月曜日にはアメリカ産婦人科医会のプレジデントをなさっていらっしゃるDr. Gibbons、Executive vice presidentであるDr. Hale、ならびに台湾のNational Taiwan Universityの産婦人科教授であるDr. Huang、韓国のSeoul National Universityの産婦人科教授であるDr. Leeの4氏による「Meet the Professor」と題したSponsored Satellite Conferenceを開き、それぞれの国におけるリクルートの問題や、トレーニングの問題についてお話をいただきました。驚くことに3カ国がかかえる共通の問題として挙げられたのは、産婦人科医師の減少です。今、日本でも産婦人科の医師の減少が問題となっておりますが、このことは日本だけの問題ではなく、国際レベルで検討すべき深刻な問題であるということが判明いたしました。多い医療訴訟、少子化傾向、過重労働など、日本とほぼ同様の点が減少の理由として挙げられていました。また、女性医師の割合が増えつつあることもアジアにおける特徴のひとつかもしれません。このSatellite Conferenceから導かれてくることは、先ず、産婦人科医師を増やすこと。そのためには、社会として、子どもを産んで育てるのにやさしい環境を造りあげることであり、われわれ日本産科婦人科学会や産婦人科医会としては、女性の産婦人科医師が結婚、出産後も職場に復帰できる環境を整備していくことではないかと痛感いたしました。今回の学術講演会では、利用者の3割負担で託児所を設けましたが、学会期間中4日間通してののべ利用者数は、私共の予想を大きく上回り、51名に達しました。

 また、手前味噌になって誠に恐縮ではございますが、今回の学会期間中4月10日に行いました市民公開講座では、「産婦人科医は女性のライフパートナー」と題して、産婦人科医が単にお産に携わる医者ではなくて、女性の一生を通じての相談相手であることをアピールさせていただきました。今後このようなサイドからの宣伝も産婦人科のイメージつくりには大切ではないかと感じました。

 さて、事前の医会報に載せていただきました第56回日本産科婦人科学会総会・学術講演会のご案内の文末に、桜咲くお台場でお待ちいたしますと書きましたが、昨年、一昨年の様子から、内心桜はもう咲いていないのではないかと危惧しておりました。しかしながら、今年は、桜の開花が早いにもかかわらず、学会期間中にもホテルから桜が遠望でき、本当に桜咲くお台場で皆様を迎えられたことを心からうれしく思っております。放送の最後にあたり、本総会・学術講演会に関与してくださいました皆様、ならびに、ご参加いただきました皆様に心よりの深謝をささげたいと存じます。本当にありがとうございました。