平成16年3月22日放送
 新卒後研修制度について
 横浜市立大学医学部教授
 日本産科婦人科学会中央専門医制度委員会研修小委員長 平原 史樹


 皆さんこんにちは.今回は新たな制度のもとで予定されている産婦人科専門医研修制度についてお話させていただきます.

 平成16年4月より医師臨床研修制度が改定され,医師の卒後研修は必須となり,産婦人科も必修科目として位置付けられました.これは,すべての医師にとって,産婦人科の知識を有することが女性患者の診療に際して必要不可欠と認識されたことになります.これに伴い,日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会は産婦人科としての卒後研修制度の見直しを行うと同時に,初期2年間の必修研修,さらには産婦人科専門医としての制度に到るまでのカリキュラムの改定をしております.現在までのところ,専門医全体として5年間の研修課程のうち,初期2年間はスーパーローテート形式の必修研修期間を組み込むことでその基本設計が計画されております.それではその要点をいくつかにわけてお話しましょう.

 まず初期2年間の必修期間の研修についてですが,その理念は女性を全人的に診療し,女性特有のプライマリーケアー,救急医療に習熟すること.また妊産婦の診療,新生児の医療に必要な基本知識を研修することが一般目標としてかかげられております.産婦人科の必修研修期間は最低1ヶ月以上と位置付けられておりますが,日本産科婦人科学会としてはすでに平成15年1月に会員宛3ヶ月を基本研修期間としてのカリキュラム案がホームページ,学会誌等で通知されております.この初期必修研修は内科,外科,救急を1年目に,2年目に産婦人科,小児科,精神科,地域医療を各々1ヶ月以上研修することが義務付けられており,日本産科婦人科学会中央専門医制度委員会で全国の特定機能病院を調査した結果では,設定している研修期間としては1ヶ月の施設,3ヶ月の施設が概ね同数をしめておりました.いずれにしましてもこの期間,成長・加齢とともに変化する女性特有の現象を理解し,将来いずれの診療科に進んでも女性の患者さんと接した折にプライマリーケア-の窓口として上手に対応,できるかを学ぶことが重要なポイントであります.また逆に,将来産婦人科を専攻するものにとっては産婦人科の1ヶ月以上の必修研修はその基本を学ぶ重要な時期でもありますが,他の科すなわち内科外科救急等の必修研修科目は産婦人科医師として患者さんを全人的に診療するためには必須の事項を学ぶことにもなり,産婦人科専門医のトータルのカリキュラムにおいても重要な骨格部分と位置付けられております.

 次に初期2年間の必修研修が終わった後のことについてお話しましょう.現在,日本専門医認定機構が認めた基本診療科の専門医制度があり,内科,外科をはじめ18診療科においてその専門医制度が存在します.日本産科婦人科学会としては,この専門医制度を今回の初期必修研修制度にあわせた形に整える作業をすすめております.その重要な点は、先ほども申し上げましたとおり,その初期研修は産婦人科医師として基本を学ぶ重要な項目がその2年間の全期間にわたって認められることから,この2年間をふくめたトータル5年間を専門医研修カリキュラム期間として設計いたしました.すでに日本産科婦人科学会では卒後研修すなわち5年間のカリキュラムが作成実施されてきておりましたが,今般,初期研修制度の必修化にともない,改定し,作業が進められております.

 今回新たに加わった研修項目としては,従来にもまして医療安全を目指した研修規定を加え,さらにより全人的な診療を骨子としたものになっております.患者ならびに医療従事者にとって、安全な医療を遂行するために、安全管理の方策を身につけ、危機管理に参画し,医療現場での安全確認を実施でき、さらに 医療事故防止及び事故後の対処についてマニュアルなどに沿って行動できる。という項目が明示されております.また,女性の健康を預かる総合診療医としての視点から,あらゆる年代の女性の、すべての健康問題に関心を持ち、管理できる能力を身につけることも重要な項目に掲げられております.各論的な部分では抗がん剤・化学療法の取り扱い,更年期診療の領域,不育症,生殖補助医療などの項目が新たに加えられております.さらに婦人科医師として乳がん診療に関して具備すべき基本的知識,診断,等に関してもカリキュラムに盛り込まれるなど,医療上の進歩に準じた改定を含め,全面的に改定作業が実施されております.

 専門医制度に基づく試験・審査制度についてのべます.すでに専門医制度は社会に定着しつつあり,広告規制も解除されつつあり,より患者さんから信頼のおける資格として位置付ける必要があります.産婦人科を専攻する医師は,現在,さまざまな理由で減少傾向を示しています.しかしながら,社会に対して明示できる制度として認識していただくことが重要であり,このカリキュラムに即した指導・研修が履行され,知識・態度・行動,いずれにおいても太鼓判の押せる専門医を審査して世に送り出すことが大切であり,日本産科婦人科学会中央専門医制度委員会では日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会の両輪が轍をあわせて,さらにより質の高い試験・審査制度をめざして協議,審査がおこなわれております.

 問題点をのべます
 本年4月すなわち平成16年度からスタートする新研修医は各大学の新卒医師を対象に昨年7-8月には研修病院をめざして採用試験を受け,秋にはマッチングといわれる採用者側の順位づけと応募者側の希望順位のすりあわせがおこなわれました.マスコミでも報道されたとおり,都会の一部の病院に集中するなど国全体の医師配置を考えると偏在の傾向が出ております.また,その指導医師をふくめた人的資源,その医療経済的裏付けは脆弱なものが露呈しております.

 今後はこの研修規定にのっとった研修指導研修がおこなわれ,この規定に準じた形での専門医試験が履行されることになっております.
 したがって全国の各研修施設におかれましては十分留意されるようお願いするとともに,すでに専門医としてご活躍の先生方におかれましても,新たな時代の要請に基づいた新カリキュラムを十分ご理解いただき,さらなる研鑚を詰まれますようお願いもうしあげます.