平成16年2月23日放送
  医道審議会の処分について
  日本産婦人科医会常務理事 川端 正清


 今年の2月3日に医道審議会が開催され、医師・歯科医師の処分が発表されました。対象となったのは、医師21名、歯科医師13名の計34名です。
 本日は、最近の医道審議会処分とその傾向を中心に、さらに日本産婦人科医会としての取り組みについて簡単に触れさせて頂きます。

 医道審議会は医師法に規定されており、昭和48年に設立されています。厚生労働大臣の諮問機関として行政処分を提言する所で、医道審議会分科会がこれに当たっています。今までの処分内容を見ますと、刑事事件で有罪となった医師・歯科医師に対して行政処分がなされ、免許剥奪から医業停止まであります。内訳は、わいせつ罪などの破廉恥罪、覚醒剤、贈収賄、脱税や診療報酬不正請求、業務上過失致死傷、などが主なものです。

 医道審議会分科会に出席者している委員の構成を見ますと、平成14年12月では、9名の出席者の内、医療関係者は厚生省関係の2名を含む7名、その他の2名は刑事学者1名、弁護士1名でした。医療関係者が大部分を占めており、この構成に対して非難がおきました。
 そこで、委員の改編が行われまして、平成16年2月、今回の分科会出席委員は、8名の内、医療関係者は日医坪井会長を含む3名のみとなり、刑事学・法学から2名、マスコミ関係から2名、弁護士1名となっています。

 平成14年12月23日に医道審議会が「医師・歯科医師に対する行政処分の考え方について」の見解を発表しました。
 その内容は、「刑事事件とならなかった医療過誤についても、医療の水準などに照らして、明白な注意義務違反が認められる場合などについては、処分の対象として取り扱う。」、さらに、行政処分の程度は「基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、明らかな過失による医療過誤や繰り返し行われた過失など、通常求められる注意義務が欠けているという事案については、重めの処分とする。」、そして「生涯学習に努めていたかなどの事項も考慮する。」として、研修の必要性を強調していました。その他、生命を預かる医師として高い倫理性を求め、「ひき逃げ事件」や「医療における脱税」には「通常より重めの処分とする」としています。
実際の運用について注目していました。

 見解公表後、初めての医道審議会が、平成15年7月30日に開かれ、処分が発表されました。この時は、「刑事事件とならなかった医療過誤についても処分の対象として取り扱う。」としたことについて、運用基準が決まっていませんでしたため、実際には適用されませんでした。
 ちなみに、その処分内容は、38名が対象となり、医師が29名、歯科医師が9名でした。医師の内、医療ミスによるものは4件で、その内容は、1件目は抗癌剤を誤って大量投与し死亡した事例で、異状死の届け出でをしなかったためです。2件目は内視鏡検査で腸内洗浄のためにサンプチューブを設置する際、誤って気管内に挿入したことによるミスです。3件目と4件目は同じ事例で異型輸血によるものです。処分された者は、すべて刑事裁判で業務上過失致死で有罪が確定しているものでした。刑事事件とならなかった医療事故を複数回起こしている、所謂リピーターについては、処分されたものはありませんでした。

 昨年の7月21日にこの放送で「医師・歯科医師の行政処分について」をお話ししましたが、この医道審議会の見解が実施された場合の行政処分について注目して参りました。
 昨年7月の処分発表以降、次の医道審議会は今年2月3日でした。処分の対象となったのは医師・歯科医師34人で、医師21人、歯科医師13人でした。
 医師の処分を見ますと、免許取消が2名いまして、覚せい剤取締法違反1名、「わいせつ罪」が1名でした。
 医療ミスによるものは、3名でした。その内訳は、1件目は急性循環不全改善剤プレドパの大量点滴による死亡で1年6月の業務停止、2件目はオーダリングシステムでサクシゾンを投与するつもりがサクシンを投与し傷害を負わせたとして6ヶ月の業務停止、3件目は研修医でして、2歳児の心臓手術後に心室細動を見逃し、処置が遅れたため低酸素脳症の傷害を負わせたとして2ヶ月の業務停止となっています。前回も、今回も単純な、しかも重篤な傷害を与えた医療過誤に対して、処分がなされています。

 その他は、診療報酬不正請求5名、贈収賄3名、詐欺2名などとなっています。

 産婦人科医では、虚偽診断書作成、医師法違反で2名、無資格の看護助手に点滴の針を抜かせたとして保助看法違反で1名が処分されました。

 全体を見渡しますと、診療報酬不正請求で保険医取消となっているものの他は、すべて刑事裁判で有罪の判決を受けています。民事で有責となったものの、刑事で訴追されなかった例はありませんでした。また、個々の処分内容は重めになってきているという印象を受けます。
 今回も、医療事故のリピーターは処分の対象にはなりませんでした。
 今回の処分で、民事裁判を活かした医師の行政処分がなされなかった事については、「民事の判決は事実認定の濃淡がかなりある。裁判官の心証で判決が書かれている面もあり、医師に事実関係を尋ねて、『判決は違う。』と否認されれば処分の材料には使えない。」との判断があったようです。

 一方、「医道審議会医道分科会資料」として、「被処分者に対する再教育について」が審議されました。その内容は、医道審議会で処分がなされた医師は処分があければ復帰できますが、その間、「再教育や研修をしなくて良いものか。」というものです。さらに、再教育の内容は、停止処分の理由に応じたものであるべきで、医師としての知識・技量の未熟さに起因する医療過誤事件には知識・技量に関する再研修と医療安全に関する研修をすべきであり、医師としての倫理観の欠如に起因する事件には「倫理に関する研修」をすべきではないか、という事が協議された模様です。行政処分の大きな目的は、「処分することより、再教育、研修を促し、医療の質の向上に資する。」とする姿勢が伺えます。
 また、東京慈恵会医科大学附属青戸病院における事故について経過報告がなされました。

 医道審議会の処分発表後、2月6日には、閣議後坂口厚生労働大臣の記者会見がありました。
 医道審議会は、平成14年12月の「医師・歯科医師に対する行政処分の考え方について」の見解以降、刑事事件にはならないが、医療事故を繰り返す医師に対する処分の検討、基準作りをしてきたようです。しかし、その基準については今回提示されず、処分もなされなかったことについて、坂口厚生労働大臣は、「基準作りを急ぐ必要がある。そのために医道審議会の下部組織として検討会などを作るということはあるが、どんな形でするかも含めて検討したい。」と述べています。
 医療事故のリピーターについては、医道審議会、厚生労働省も重要課題として取り組む姿勢は明確に示されていますが、リピーターの定義を含め、処分の基準作りに難渋しているようですが、その内何等かの基準が示されると思います。今後、さらに厚生労働省、特に医道審議会の動向には注目していく必要があります。

 このような状況を踏まえ、産婦人科医の専門団体である日本産婦人科医会には、医療事故のリピーターに対する自浄作用が要求されています。そこで、医会として、昨年より医療事故のリピーター対策と医療事故防止のために検討を続けて参りました。当初は、リピーター対策が発端でした。医療事故の原因が過誤によるものか、そうでないかを詳細に検討する必要があること、事故事例の正確な情報を収集しなければならないこと、などから、「医療事故報告」の事業を開始することにしました。
 この目的は、医療事故が本当に過誤によるものか、過誤によるものであるならどこが問題であったか検討し、反省し、対策を練り、医療レベルを確保すると共に、医師の倫理感の向上を目指すために研修を行うことにあります。そのことにより全体としての医療レベルを上げ、安全で、安心な医療を国民に提供することです。
 この事業は本年4月から開始する予定です。
 以上、本日は医道審議会の動きと、さらに医会としての取り組みを簡単にご紹介しました。