平成16年2月16日放送
  平成16年度産婦人科専門医認定試験について
  中央専門医制度委員会委員長 武谷 雄二


 日本産科婦人科学会専門医制度の前身であります日本産科婦人科学会認定医制度は、昭和62年4月に発足以来本年をもって17年を経過しました。認定医制度そのものは、学会自らが社会の要請に応えるべく自己研修を通じ会員全員が一定の知識、技量を習得することを支援してきたもので、それなりの成果が得られたものと思われます。しかしながら、最近の医療内容の高度先進化に対応し、認定医をもう一歩押し進め、細分化された診療領域を責任をもって担当する能力を有する専門医を育成する必要があるとの認識のもとに、平成13年4月「日本産科婦人科学会認定医制度」を「日本産科婦人科学会専門医制度」に変更しました。専門医は厚生労働省が承認するもので、広告規制緩和の対象となりより一般の方々に対する開示性と、それに伴う責任を伴うことになります。また認定医よりもより選択的にならざるを得ません。本制度は、趣旨は産婦人科領域における広い知識、錬磨された技能と高い倫理性を備えた産婦人科医師を養成し、生涯にわたる研修を推進することにより、産婦人科医療の水準を高めて国民の福祉に貢献することであります。従来、日本産科婦人科学会は一定の水準に達した産婦人科医師を学会が認定するため、当時認定医制度規約第3章「認定医の審査と登録」の定めるところにより、平成5年度より認定医認定審査、すなわち研修記録や症例レポートなどの書類による一次審査と面接試験による二次審査を施行してきました。そして専門医制度に改変したことを契機に、より客観的で透明性の高い試験制度を確立し産婦人科医療の向上を目指して、平成12年度から3年間の試行期間をおき、二次審査の一部として筆記試験を導入することが決定され、平成15年度に初めて筆記試験が本格的に導入されました。

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 二次審査のために、年度ごとに試験実行委員会をおき、試験は「認定二次審査実施要領」により行います。受験者を北海道、東北、関東、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州の9ブロックに分け、北海道、東北、関東、北陸(新潟)に所属する者は東京で、北陸(富山、石川、福井)、東海、近畿、中国、四国、九州に所属する者は大阪で受験します。認定審査は卒後5年間の研修が卒後研修目標に沿って行われたかどうかを試験するものですが、研修到達目標は、専門医制度規約の「別添—卒後研修カリキュラム」、日産婦誌44巻6号に掲載された「卒後研修目標」および「研修手帳」に記載されています。平成16年度も、筆記試験問題は従来と同様に生殖腫瘍学、生殖・内分泌学、周産期医学および一般産婦人科の4分野から、各30題ずつ、合計120題が出題される予定です。なお、一般の問題には、社会保険制度に関するものも含まれます。解答はマークシート方式で、試験時間は180分とし、平成16年7月31日、東京・大阪の2会場において同時に施行されます。出題水準は、産婦人科専門医として必要とされる知識と技能を習得しているか否かを評価することを目的にしています。筆記試験の主旨は、受験者をふるい落とすためではなく、あくまでも専門医のレベルアップを図り、また、そのための研修システムを充実させ、産婦人科医療の水準を高めるためであります。筆記試験の成績は合否判定に使用します。面接試験は、翌8月1日、やはり東京・大阪の2会場において同時に施行されます。第1段階の面接試験は主に共通症例インタビューに時間をかけ、受験者の知識、技能、態度を評価します。また、研修内容を記入した研修手帳および症例レポートの記載法についても評価します。第1段階の結果が、3段階評価ですべて「良い」か「普通」であれば面接試験終了とし、1項目でも「悪い」という評価があれば、第2段階の審査を受けることになります。なお、筆記試験と面接試験は独立したものとして対応し、いずれかが不合格であった場合は不合格になります。

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 平成15年度専門医認定2次審査は、7月26日に筆記試験が、27日に面接試験が、東京会場(日本都市センター)および大阪会場(千里ライフサイエンスセンター)にて行われました。1次審査合格者323名中、筆記試験の欠席者は1名でした。筆記試験のみの不合格者は21名でした。面接試験で第2段階に回った受験者のうち5名が評価保留となり9月20日の専門医認定制度中央委員会で不合格の決定がなされました。筆記試験、面接試験のいずれも不合格の者は2名でした。最終的に、専門医認定審査の合格者は296名で、合格率は91.9%となりました。筆記試験の成績を分析すると、生殖腫瘍学、生殖・内分泌学、周産期医学および一般産婦人科の各4分野の成績はほぼ同等で、分野間で難易度の差は認められませんでした。また、興味深いことに、筆記試験の得点と面接試験の評価は必ずしも一致しておらず、この二つの試験は予期した通り別の要素を評価していることが明らかでした。
 専門医認定2次審査終了の後、学術企画委員会委員を中心に組織された筆記試験問題評価委員会が開かれ、専門医制度委員会と独立した立場で客観的評価が行われました。全体としては、正答率の高すぎる問題、あるいは低すぎる問題、さらには議論の余地を残す問題の存在など、いくつかの問題点のあることが指摘されました。この結果は、平成16年度以降の筆記試験問題作成の参考資料とする予定です。

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 次に面接試験に関することですが、専門医を標榜する産婦人科医師としての人格見識、適性度をみるために必須であるという観点から、日常臨床でよくみる症例問題を提示し、現実の医療の現場でのsituationを想定したrole play方式を平成15年度から取り入れています。例えば、面接試験官を患者または家族と想定し、診断・治療方針・予後の説明をし、治療法選択のインフォームド・コンセントを得るというような形式で評価します。この方式は主として人間性、倫理性、医師としての望ましい人格あるいは面接技能の評価も行われ、専門医としてのtotalな評価も可能です。基本的には面接は知識を評価するものではないとしていますが、上記の項目をcheckするに際し、当然ある程度の標準的な知識が要求されるものであることは申すまでもありません。従いまして面接で話題にする症例は余り特殊なものでなく、診断や治療方針は比較的明解なものであります。
 最後に、御承知のように、平成16年から卒後臨床研修としてスーパーローテイトが導入されます。現在、日本産科婦人科学会では専門医認定試験の受験資格としての研修期間は5年ですが、スーパーローテイト期間の2年間をこの中に含める方向で検討がなされています。しかしながら、これにより専門医取得に必要な項目を減らすことはなく、試験のレベルも少なくとも低下することはないと思われます。