平成15年11月3日放送
  コ・メディカル生涯研修会より(徳島)-大分県プレネイタル・ビジット事業
  日本産婦人科医会コ・メディカル対策委員会委員 岩永 成晃
 

こんにちは、大分県産婦人科医会の岩永です。

 「子育て支援のための産科医と小児科医の連携事業」については、全国でもさまざまな取組みが行われています。きょうは、その中でも、大分県ペリネイタルビジット事業として、最も先進的な展開を進めている大分県での取組みを中心にお話させていただきます。

 近年、子育て不安や子育て困難の状況が目立つようになり、さらには乳児虐待も大きな社会問題となっています。これは、さまざまな要因による子育て環境の悪化がその一因とされています。
とくに、お産後早期の育児不安を訴えるものは多く、その後の子育てに大きな影響を与えると考えられています。
そのため、この時期になんらかの有効な子育て支援策の必要性が求められています。

 さて、母と子にとって出産・育児は一つの流れですが、医療の領域は産科と小児科にわかれていて、母子を主体にした支援体制が十分に取れていないのが現状です。
 産後早期の育児不安を軽減するためにも、「子育て支援のための産科医と小児科医の連携事業」を推進する必要性と社会の要求が生じています。

 厚生労働省では、平成12年に健やか親子21のなかでプレネイタルビジット(出産前小児保健指導)による産科医と小児科医の連携を推進することをうたいました。
 これは、厚生省が平成4年度から行ってきたプレネイタルビジット事業が思うように進まず、その間にも育児不安や虐待などの多くの問題が生じてきたために、プレネイタルビジットによる産科医と小児科医との連携の促進にとりくみ、それによって母親の育児不安対策や児童虐待対策の強化を図る必要があるとの認識からです。

 この事業を推進する意義は、大きなものがありますが、現実には全国的に普及するにはいたっておりません。その原因の大きなものは、国の事業では、市町村を実施主体としてきたため現状に対応しにくいことがあります。具体的には、隣町の産科や小児科を利用するものも多く、また産科や小児科がない町村も多く存在するからです。さらに、小児科医と産科医がどのように連携をとったらいいのか、いまだに迷っている地域も多いようです。


 さて、大分県における取組みについてお話をすすめます。
 平成13年度から プレネイタルビジット(出産前小児保健指導)大分県モデル事業を開始しました。
実施に当たっては、大分県独自の方式をとりました。
 そのポイントは2つです。
 まず、実施主体を市町村ではなく大分県全域を対象とすることにしました。そのために、大分県健康対策課、大分県医師会、大分県小児科医会、大分県産婦人科医会の四者協議による事業推進委員会を設置しました。
 2つ目は、指導内容を統一して母親や家族に不安や混乱を与えないようにするためと、産科医が安心して小児科医を紹介できるようにするために産婦人科医会・小児科医会で検討を重ねて「小児科医の指導マニュアル」を作成したことです。

平成13年度のプレネイタルビジット大分県モデル事業は、平成13年9月から平成14年3月までの間に、産婦人科48施設、小児科67施設の参加で実施されました。産婦人科から小児科への紹介は357件、そのうち小児科医による保健指導が行われたのは290件でした。産婦人科とことなる他の市町村への紹介も26件と約10%にみられました。

 このモデル事業で、小児科医の保健指導を受けた母親の一ヶ月検診の時のアンケートでは、小児科の指導に満足したものが95%、育児に役立ちそうと感じたものが60%、育児不安が軽減したもの・かかりつけ小児科医が見つかってよかったと思ったものそれぞれ20%という結果で、このモデル事業が概ね良好な結果をもたらしたと考えています。

 さらに、一ヶ月検診以降の追跡調査では、8割強の母親が保健指導を受けた小児科医をかかりつけ医として受診しています。また半数以上の母親は次の出産のときにもこの保健指導を受けたいと思っており、さらに7割が後輩たちにこの制度を勧めたいと答えています。この事業の有効性を示す結果です。

 ついで平成14年度には、全県下の各自治体の事業参入を呼びかけ、平成15年度本事業化に向けて繋ぎの年としての事業を継続することとしました。対象は出産前の妊婦だけでなく出産後の母親にまで拡大し、名称もペリネイタルビジット(出産前後小児保健指導)事業と改変しました。
 なお、この事業では行政からの助成が得られないため、大分県産婦人科医会・大分県小児科医会・大分県医師会からの出資で事業資金を確保することとしました。
 これは、行政の動きを待っていたのでは、この事業は進まない。母子の健康のためには、産婦人科医会と小児科医会は自らの負担をもって行政を主導して事業の展開を導く必要がある。との考え方に基づいたものです。
 平成14年度のペリネイタルビジット事業は、平成14年9月から平成15年3月までの間実施され、産婦人科から小児科への紹介456件、小児科医による指導は337件行われ、前年度を上回る実績を得ました。これに啓発されて、別府市と大分市が平成15年度から正式事業として参加することを決定しました。

平成15年度は、別府市と大分市の2つの自治体が参加したことにより、新しい枠組みで事業を継続しています。
 事業の実施要綱やマニュアルは統一のものとして、県下全域を対象としています。その取り扱いは大分県医師会で取りまとめることとしています。
 また、行政からの助成がない、大分市と別府市以外の地区での事業に対しては、大分県産婦人科医会・大分県小児科医会・大分県医師会からの助成を継続して行なっています。この助成は全県下の自治体が参加するまで続ける予定です。
 行政が加わったことによって、平成15年度大分県ペリネイタルビジット事業からは保健師との連携も始まりました。産科医、小児科医、行政の保健師による専門部会を構成し、ハイリスク症例については、地域の保健師の力を得ながら子育て支援を行うという新しい試みを始めました。今後はさらに他の市町村の参加を呼びかけながら、全県下の自治体の参加を目標に、この事業を推進してゆく予定です。

 さて、これまでお話した大分県における子育て支援のための産科医と小児科医の連携事業を振り返ってみます。
 平成13年度には、大分県プレネイタルビジットモデル(出産前小児保健指導)モデル事業として、この事業の有用性を確認しました。
 続く平成14年度には、大分県ペリネイタルビジット(出産前後小児保健指導)事業として、県下の自治体のこの事業への参加を求めて、小児科医会・産婦人科医会・大分県医師会単独の事業として実施しました。
 平成15年度からは、別府市と大分市の2つの自治体の参加を得て新しい枠組みで大分県ペリネイタルビジット事業として継続しております。さらに、自治体が参加したことによって行政の保健師との連携も開始しました。

 大分県小児科医会会長は、最近の感想の中で、「少子化の今、小児科医が早いうちに母親の家族背景や気持ちを理解すれば、出産後に育児サークルや保健師などの必要な支援につなぐ、灯台のような役割が果たせる。」として今後のこの事業の方向性を示しています。

さいごに、大分県産婦人科医会と小児科医会では、「日本一母と子に優しい大分県」をめざして、産科医と小児科医の連携事業である大分県ペリネイタルビジット事業を第一歩に、大分県内での育児を支援する生活基盤の調整と、地域での総合的な子育て支援のシステム構築をめざしています。