平成15年7月14日放送
 有床診療所問題について
 日本産婦人科医会理事 小林 高
 日本医師会に昨秋有床診療所検討委員会が設置され、産婦人科から私が委員の一人として参加しております。日本産婦人科医会にも有床診療所検討委員会を急遽設置していただきました。
 産婦人科医会の中の勤務の先生方やベッドを持たないで開業しておられる先生方には殆ど関心のないことかもしれませんが、産婦人科の将来を考えると、決して他人事としておくことはできない問題であると思います。
 これから産婦人科を目指そうとする医学生や開業しようとする若手医師のためにも大切な問題だと考えます。
 なぜ今有床診療所の問題がクロ−ズアップされたのか。実は昨年長崎で全国の有床診療所協議会総会が開催されました。そこで坪井会長が約束したのです。
 10年以上にわたってこの問題を取り上げてくれるようにお願いしてきたのですが、日医はこれまで本気にしてくれなかった。それがここにきてやっと
 日医も本気でこの問題に取り組むことを約束したのです。協議会にとっては長年の悲願だったのです。有床診療所が抱える悩みを国も日医も取り上げてくれないことに憤りを感じていました。やっと委員会を作って対応してくれることになったわけです。
 有床診療所が抱える問題には大きく2つあります。昭和23年に制定された医療法13条の48時間規制が長い間手枷足枷になっておりました。すなわち診療所は療養型病床群以外は原則として48時間以上入院させてはならないという条項です。実態は診療報酬点数にも48時間以上の設定がされており、48時間以内に退院させているところはまずない現状です。現状にそぐわないにもかかわらず撤廃してくれない。いつこの規制を振りかざしてこないとも限らないわけです。常に不安を抱いて診療し続けてきたわけです。
 次に不当に低い入院基本料の問題があります。介護保険の点数にも及ばない、病院の約半分の点数です。入院患者を入れるほど赤字になってしまう。これではやって行けない。病棟を閉鎖する開業医がどんどん増えてきました。産婦人科でも大都会を中心に入院を扱わない開業医が増加しています。分娩数が減少したことも要因のひとつですが、いずれ入院が経営を圧迫したためであることは明白ですね。設備を整え、当直などの人員配置を整えてもペイ出来なくなってしまったわけです。
 この2つの問題を何とか解決してくれるように日医に要望してきたが、聞き入れられなかった。ここに来てやっと検討委員会を作って本気で対応してくれそうになったわけです。
有床診療所の存在意義
 このままでは、いずれ有床診療所は消滅してしまうのではないでしょうか。消滅することが国民にとって、国民の健康を守り、病気を治療するためにプラスの方向に働くのであればやむを得ないかもしれません。
 1999年の統計によりますと、病院での出産が63万4000、54%です。有床診療所での出産は52万9000、45%でした。あと1%の方が助産所や自宅分娩です。この割合はここ数年ほとんど変わっていません。その中で帝王切開が病院9万5000件、有床診療所6万3000件です。出産ということを取り上げてみますと、この数字でおわかりのように、有床診療所が国民のために果たしてきた役割は非常に大きいのです。妊婦さんの半分近くが有床診療所を選び、出産しておられるのです。その他にも母体保護法に関連する処置や手術で有床診療所は大きな役割を果たしてきました。
 私が住んでいる岩手県の盛岡地域には11市町村があります。病院1947、43%で診療所出生が2619、57%です。診療所で出産している方がはるかに多いです。
他科ではどうか
 外科系や整形外科では小手術はもちろんですが、消化器系の手術や骨折、交通外傷なども手がけています。眼科では白内障手術が代表的でしょう。その多くは48時間以内に退院していただくことは困難な病気や怪我です。そして自費入院が多い産婦人科に比較すると、極端に低い入院料は赤字を生み出しております。内科の多くは療養型病床に転換しており、転換できないところは無床診療所に変わってきています。
検討委員会の動き
 まず、48時間規制は実態が形骸化しており、撤廃すべきである。
 48時間以上の入院にも診療報酬が支払われ、療養型病床も制度化されており、この規制が続くことは整合性を欠いている。
 この問題が長期にわたって放置されたのは、有床診療所の役割とその実情を理解しようとしない国と日医に責任がある。
 有床診療所は多くの地域で重要な役割を担ってきた実績を踏まえた対応がなされるべぎある。
 最近、13条の48時間規制の適応で摘発された事例があり、これ以上放置することはできない。
 平成15年5月2日の委員会で「48時間規制を無条件で撤廃する」ように日医から厚生労働省に対して申し入れることになった。6月中には話し合いが持たれる予定である。
今後の課題
 48時間規制を廃止すれば、新たな規制が行われる可能性があるが、呑めるか。
病院に準じた要件が求められ、特に問題は複数医師の配置、外来患者の規制などが求められる可能性がある。
 二人常勤医師の配置などの要件は到底困難と思われる。
 産婦人科の先生方は特に母体保護法との関連があります。たとえ分娩や手術を扱わなくとも人工妊娠中絶を行う施設はたとえ1床でも有床診療所に限られています。規制が強くなれば人工中絶を行うことが出来なくなる危険性がありますので、関心を持っていただきたい。