平成15年3月31日放送
 平成14年度社保の動き
 日本産婦人科医会幹事 秋山 敏夫


 昨年4月に行われました診療報酬点数改定は、国民皆保険制度始まって以来の2.7%のマイナス改定となり、医療機関の経営に大きな影響を及ぼしました。産婦人科においても収入減は明らかであり、一層の経営努力が必要でありますが、医療の質の向上を併せ考えると容易ではありません。
 今回の改定では、単に、点数の引き下げばかりか、運用面でも大きな改革がありました。再診料・外来診療料の月内逓減制、主病名の記載、長期投薬制限の原則撤廃、手術における施設基準、長期入院に係わる給付の見直し等、過去、これほどの改定はありませんでした。

 診療報酬点数改定に関する産婦人科の要望について

 平成14年4月に改定が予定されていました診療報酬点数改定に向けて、全国支部社会保険担当者、社会保険委員より広く要望事項を募り、産婦人科の適正化を図るべく、要望事項を整理し、関係諸団体とも連携をとりながら、当局へ実現に向けて働きかけました。
 しかし、産婦人科の要望に対し、採択されたものは産科手術と婦人科手術の点数が改定されたのみでありました。
 手術料の大部介はアップしました。しかし、使用頻度の高い流産手術や腟ポリープ切除術、尖圭コンジローム切除術が減点されました。
 新たな項目では、施設基準が新設されました。施設基準は最終的に8月23日に見直しが行われました。それによれば、産婦人科領域では、手術に関し、10年以上の経験を有する医師が1名以上常勤していること。女子外性器悪性腫瘍手術、子宮附属器悪性腫瘍手術、卵管鏡下卵管形成術、腟壁悪性腫瘍手術、拡張器利用によるものを除く造腟術を「子宮附属器悪性腫瘍手術等」のグループにして、年間合計10例以上、平成14年度については7例以上に変更されました。
 通知の一部に追加がなされ、「緊急帝王切開術は、選択帝王切開以外であって、経腟分娩を予定していたが、母体及び胎児の状況により緊急に帝王切開になった場合に算定する」とされ、単に手術予定日が早まったなどでは算定できなくなりました。

 手術点数に含まれ、別途算定できなくなった項目

 手術当日に手術に関連して行う、注射の手技料は算定できなくなりました。しかし、手術に関連していない点滴の場合は算定が可能であります。例えば、切迫流産で入院になり当日進行流産で流産手術した場合、切迫流産治療に使用した点滴及び注射手技料は手術と別物であり、算定可能となります。

 衛生材料等の中に外皮用殺菌剤が追加され、イソジン等による術創に対する消毒楽が算定できなくなりました。しかし、麻酔の穿刺部に対する外皮用殺菌剤は含まれず別途算定できますが、おおよそ30ml程度しか認められないようです。

 205円ルールの見直し

 厚生労働省は平成14年5月21日、「低薬価薬剤の審査等の具体的取扱い方針」について「175円以下の薬剤の投与又は使用の原因となった傷病のうち健胃消化剤、鎮咳剤などの投与又は使用の原因となった傷病など、記載した傷病名から判断して、その発症が類推できる傷病については、傷病名を記載する必要はないものとすること。」としました。

 診療報酬動態調査結果

 4病院5診療所に依頼し、4月分について緊急動態調査を実施しました。診療所外来は8.9%のマイナス、入院は1%のプラス、病院外来は3.8%のマイナス、入院は16.2%のプラスとなりました。病院入院のプラスに関しては、手術料の点数アップよるものと考えられます。しかし、改定に早急に対応できなかった医療機関もみられ、調査医療機関も少数であり、1カ月分の調査のため正確な影響とみなすことはできません。

 厚生労働省からの問い合わせによる分娩介助料について

 分娩介助料とは保険給付に含まれない、自費分の用語です。
 分娩時に異常が発生し産科手術や処置が行われ、療養の給付になった場合の医師・助産師による介助、その他の費用の請求上の用語です。帝王切開時に多くの医療機関で徴収されていますが、分娩料を上回らないことが必要です。
 以上を厚生労働省に回答しました。
 平成14年9月号を参照して下さい。

 不妊治療の保険収載に関する委員会

 坂口厚生労働大臣の提案による不妊治療問題に関し、本会及び日本産科婦人科学会から委員を選出しました。厚生労働省の考えと委員会委員による討論会をもち、保険収載された場合、一時金とした場合、特定療養費とした場合等の各々のメリット・デメリットを検討しています。

 社保委員会・社保ブロック協議会における質疑事項

  1. 静脈麻酔の算定
     ラボナール、ケタラール使用の場合算定されます。セルシン、ペンタジン等使用によるNLA麻酔では算定できません
  2. 外来における子宮筋腫核出術の算定の可否
     子宮頸部筋腫で局麻のもと腟式筋腫核出術の算定は、子宮息肉様筋腫摘出術で算定して下さい
  3. 子宮頸管炎のみの病名でクラミジア抗原検査の算定
     算定できます
  4. 腹腔鏡下腟式子宮全摘術後の創処置の点数
     49点で算定して下さい
  5. 自費入院中の患者のNSTの算定(胎盤機能不全の病名あり)
     保険入院のみ可となります
  6. ミラクリッドの切迫早産への適応
     現在適応はありません
  7. 「AT−III低下に伴うDICの疑い」の病名でのAT−IIIの検査回数
     DICの疑いで1〜2回が妥当となります
     なお、ミラクリッドやAT−III製剤は生物材料であり、今後の適応拡大の可能性は少ないようです。使用に関しても十分な適応のもと使用して下さい。
     将来、問題になる可能性も考慮しておく必要があります。
  8. 内分泌負荷試験においては「負荷の前後に係わる血中、尿中ホルモン測定に関しては、測定回数、測定間隔等に係わらず一連のものとして取扱い、当該負荷試験の項により算定するものである」とされていますが、間隔が4週間程度あった場合(月の始めに生化学で算定し、月の終わりに負荷試験を行った場合の算定の可否)
     社保委員会では前後に係わるとは、負荷した同一日を指すと考えられ、検査が別日、診療日が2日以上あるのであれば算定可としたいとの方針としました。
  9. 検査日的が異なる場合は各々算定可と考えますが、同日に別項目を検査した場合の頸管粘液採取料の算定
     1.子宮頸管スメアと頸管粘液検査
     2.子宮頸管スメアとクラミジア抗原検査
     3.子宮頸管粘液中顆粒球エラスターゼと頸管腟分泌液中癌胎児性フィブロネクテン測定
     子宮頸管スメアと頸管粘液検査と子宮頸管粘液顆粒球エラスターゼと頸管腟分泌液中癌胎児性フィブロネクチン測定は2回算定可、「子宮頸管スメアとクラミジア抗原検査」はクラミジア検査は検査料にふくまれるため1回となります
  10. 超音波検査で胸腹部断層法とドップラー法を同月に行った場合、一方は90/100での算定か
     90/100で算定して下さい(断層法550点が算定されている場合その後のドップラー法は18点から始まります)
  11. 卵管鏡下卵管形成術を同一日に左右施行した場合の取扱い
     両側に実施した場合は23,800点×2で算定できます。
     なお、外来での算定も可能となります
  12. マイルス注射には「増減」がないが1日200mg2筒を認めているか
    1日200mgで週2〜3回を基準とします
  13. 卵巣機能不全の病名でエストラジオールの精密測定は何歳位までが適当か
     卵巣機能不全は原則40〜50歳、更年期障害は原則45〜60歳
     HRTが必要な年齢は、更年期障害では60歳頃まで、萎縮性腟炎ではその限りではありません
  14. 性感染症は病名として可能か
     不可、感染部位の記載、具体的な病名明記を。性感染症を全て施行するのはスクリーニングとなり、保険にはなじみません。
  15. 経皮的動脈血酸素飽和度測定および呼吸心拍監視について、検査必要な手術後の日数
     重篤な心機能障害や呼吸機能障害又はその恐れのある患者に対して酸素吸入を行っている場合に認め、日数は医師の裁量権であり、一概には決められません
  16. 血栓塞栓術の適応
     悪性腫瘍の治療、悪性腫瘍手術の出血時、弛緩出血、頸管妊娠の出血時等が保険適応となります

 以上、平成14年度、社保関係の事項についてお話致しました。