平成15年1月20日放送
 ブロックだより-北海道
 北海道ブロック会会長 兼元 敏隆


 日産婦医会アワーの番組で、北海道ブロックだよりとして話すようにとの企画委員よりのご依頼がありました。昨年、全国の支部長会議で若干のお時間を戴き“北海道ブロック”の特殊性といったものと、多岐にわたる医会活動に向けての弾力的、かつ機能的に対応できるための基盤構造を固める必要が生じてきていると考え、北海道の筑紫部といったものの再編成と強化対策を報告申し上げました。全国各ブロックには、それぞれの問題もおありかと存じますが、一部でもご参考になればと思い、今日はこの点を中心にお話しいたします。

 吾々の日本産婦人科医会の定款細則第1章第1条と第2条は全国を9ブロックと定め、その中に県単位の支部が設けられております。“北海道ブロック”の特殊性といいますものは、ブロックと支部が重なって一つであるということであり、従来の行政区分の都道府県単位がそのまま導入されており、北海道開発庁のような機能が補填カバーしてきた歴史そのものといえるかもしれません。現在、予測できるものに2〜3の県の統合試案とか道州制の検討などもあり将来の方向を予感させるのですが、現実、今までの1ブロック1支部の北海道としては(例:東北6支部、九州8支部、関東10支部など)他の編成と比較して、時として、また場面場面で不利な点も意識されてきたわけです。1ブロック1支部は数の論議からみると不利であり、対外的には弱小とされがちではありますが、まとまりという点では有利な面もあるわけで、他のブロックの県単位の支部に似たものを北海道独自で考えられる基盤構造を平成7年より模索することを始めました。日本産婦人科医会の定款に抵触せず、かつ郡市医師会の存在を守るという姿勢で、従来の北母の10(医育機関3を加えると13)を4地区支部に拡大再編成することといたしました。広域、過疎と表現される北海道に小さい集合体を残すと、会員ゼロという地区も出現し、更に医育機関各々に所属する会員(いわゆる医局員)もおられるわけで、実際は地域医療に従事しながらも地区会員ではないといった形が作られ存続してきたわけです。

 他のブロックの県単位に似た地区支部として、道南、道央、道北、道東の4地区支部の集団を編成することで会員の平均的存在価値を確保し空白地帯を解消することができたわけです。平成14年度初めの北母医会総会で認められたこの編成は、母子医療、特に検診と教育指導、疾病の予防と啓蒙など、行政を始め他方面からの要望にも機能的に対応が可能となってきておりますし、医育機関の3地区支部を残すことで医会と学会との融和が計られ、それぞれの活動が連携し円滑に行われるようになってきました。今までの疾病を対象にした、疾病、或いは病診連携の各施設間の点と点を結ぶ線としての機能と4地区支部の面としての構造が重なり合って弾力的、かつ柔軟性を持った医療集団として、社会的にも信頼され会員にとっても生涯的な拠り所としての求心力が維持できればと期待しているわけでございます。

 従来から北海道支部では、医会本部指導型のブロック協議会、ブロック社保研修会、研修ノートと連動した学術研修会を一括した行事として、年毎の秋にもたれ継続されてきておりますが、テーマの選択と講師の派遣など本部のご配慮に感謝申し上げておりますが、他に北海道独自の工夫として、春には新人医師を対象にした医療制度に基づく各種資格取得の指導とサポートを背景に据えたウェルカム・ガイダンスを開催して参りました。平成16年から実施とされている新医師臨床研修制度の必修化とマッチングシステムなどの方向を踏まえ医会側として協力できるものがあるとすれば、魅力ある働く場の提供にも意識を持ち、医療界の再編も視野に入れた準備を整えることも必要で、従来からのガイダンスのみではなく個別の相談にも応ずる窓口なども開かれてあるべきかとも考えられます。また、平成14年10月に北海道産婦人科医会クリニカルアートカンファレンスの5回目が持たれました。

 生殖補助医療の潮流、いま癌を考える、子宮筋腫をめぐって、などなど、その都度主題を考えて実施されてきましたが、今回は「情報化社会とインフォームドコンセント」を選ばせて戴き、(1)情報化社会と人間関係の行方、(2)事例からみた医療訴訟の原点、(3)信頼の醸成へ向けて の3つの柱をそれぞれのエキスパートの講師を中心に話題が熱くもたれました。そのプログラムの扉に私の書いたものがありますので、それを読み、アートカンファレンスの底流にあるものを感じて戴ければ幸いです。

『ひたすら便利性と可能性を追求して、実現し得たものから派生する問題に思いを広げて、産婦人科医療と社会の接点にアートの存在を意識する方向で主題を拾ってきましたが、最近の医療現場に見られる気になる風で、時として蓄積された自信や優しさを持ち続ける努力が空しく思われてしまうことがあります。反省し、はじめの自分に戻るためには時間と発想の転換を必要とし、許す感覚でこれを乗り越えることすらあります。

 社会が信頼し、それを享受していると感ずることの出来る「あるもの」と表現して来たものは、すべての社会機構の分野に重ねて考えられるわけですが、医療に内包されている問題を今の段階で話題にのせ、失うものの貴重さを考えるときではないかと主題が選ばれたと思われます。残り少なくなった人生を知り、夕映えの残照の美しさを社会に願う個人の感情ではないつもりですが、人間として何を幸福と感ずることが出来るかを問うことを含んでのこととお許し願います。

 人は病を得たときに健康であることが幸福であったと気付くほどに、幸福とは平坦な静かな漠然としたものの中にある筈で、生まれそして死ぬことが決定されている存在にとっては、医療の援助により自然死への完結に結びつくことを当然に希求するのが人生かと思います。

 人間の努力を忘れ、恥を知らぬ心情と行動の結果は、現在の情報化社会の波に乗り、燃え上がる怨嗟の声の前に信頼を失い、歴史的な思考の積み重ねや存在する恩恵をすら否定しかねない感情を煽ることがみられて残念なことです。

 人間社会にとって医療は貴重な財産であると考える故に、それへの信頼の醸成と永続を願い今日の講演から共感をもって学べることに期待しております。』

 坂元会長は支部長会で“show the flag”の言葉を呈示されました。更にJAOGニュース年頭号で存在として旗幟を鮮明にすることを合わせたものとしてとらえ、吾々の努力する方向の原点をお示し戴いたものと、今後の活動の柱としてのお言葉を想い出しております。この北海道の内情を伝えるブロック便りから、少しでも皆様のご参考になるものがあるとすれば幸いでございます。