平成14年12月30日放送
 日本産婦人科医会組織の重要課題(本年を振り返って)
 日本産婦人科医会副会長 新家 薫

 


 本年度の日本産婦人科医会の主な事業についてお話致します。

 わが国の経済状況の悪化、それに伴う医療経済の悪化は、本年4月に行われた社会保険診療報酬点数でマイナス改定となり、日本産婦人科医会会員の医業経営に甚大な悪影響を与え、更に、少子化、産婦人科医師数の減少など種々な因子により日本産婦人科医会の運営も大変厳しい状況になっております。日本産婦人科医会では、現在、平成15年度の事業計画について計画・立案中でありますが、日本産科婦人科学会とのワーキンググループによる改革案を基に組織の強化を図り、日本産婦人科医会の会員のためにお役に立てるよう努力したいと考えております。

 まず、学会と医会のワーキンググループについてお話致します。この会の目標は、両会会員のほとんどが一致しており、お互いに協力して、業務の連携と分担を行って、両会の一層の活動強化と、重複して行っている業務を一本化して両会の経費削減を行うものであります。検討項目として考えられているのが研修、出版、専門医制度、更に社会保険、医事紛争、倫理問題など両会の会員に共通する問題であります。これらを整理して、会員の先生方に分かりやすく、利用しやすい方法に変え、かつ両会の経費を減らそうというものであります。
 まず、郵送業務の連携についてでありますが、ご承知のように学会から学会誌、医会からは医会報が別々に郵送されており、その他の両会からの刊行物も含めて両会共同に行うことができれば、両会の経費の節減になるのではないかとの提言がありました。事務局も含めて検討を行った結果、年間両会にとってそれぞれ500万円程度の節約になることがわかり、平成15年1月よりテスト稼働を開始して、結果が良好であれば平成15年4月より本格的な共同発送を行う予定です。
 次に研修事業についてですが、従来生涯研修は医会、卒後研修は学会が担当してきました。しかし、この連携・分担については具体的な方向性は示されていないし、両会で同じような研修を重複して行っています。同じテーマをくり返しても会員にとっては無駄ではありませんが、研修業務はそもそも独立した存在ではなく、専門医認定制度や編集・出版事業とも密接に関連しているものであります。即ち、学会の総会や医会の学術集会(従来の日母大会)でも生涯研修に属するものや専門分野の研修が混在していることなど、なかなかうまく線引きができないのが現状であります。この研修事業の連携に関する今後の方向性については引き続き検討を行う予定となっておりますが、両会一緒に各年度の研修計画をたてて、お互いに重複や抜けのないよう努力するべきであります。
 社会保険事業については、現在学会の社会保険学術委員会で行っている学術的事項を医会の社会保険委員会の中に移して検討を行うこととしました。
 また、学会の専門委員会や倫理委員会は学会が行うことし、医会の倫理委員会は廃止します。しかし、会員の倫理問題等は総務部で検討し、従来の法制委員会は、存続します。
 医事紛争対策部では、既に鑑定人のリストアップを終わっています。この「鑑定人候補者リスト」は今後学会と協議しますが、鑑定人の推薦窓口は学会で行い、「鑑定人推薦委員会」を学会の「運営企画委員会」内に設置していく予定です。
 これらの方針に伴い医会の来年度における事業計画の基本方針も変更する必要性が生じてきました。前にお話しましたように、社会保険委員会は5〜7名程度の社保学術担当委員を学会から加え、社会保険事業については医会の社会保険部が中心になって運営することになりました。倫理問題は従来通り、学会の倫理委員会に委員を加えることで、総務部の「法制・倫理」は「法制」のみとします。また、会員の倫理問題については、総務部で一括して担当し、「中央産婦人科医療強化委員会」の名称を変更して、倫理問題を審議する委員会を設置することになりました。

 医療対策部の「産科看護」は、将来、看護要員対策が現在以上に必要となることから、産科看護研修学院の管理だけではなく、産婦人科に勤務する全てのコ・メディカルへの教育研修を担当する部に変更し、産科看護は発展的に解消します。産科看護の廃止に伴い、医会の直接的な統制はなくなりますが、各支部における産科看護研修学院を廃止するということではなく、存続している学院に対しては、従来通り補助金は交付致します。医会の対外広報は、今後ますます重要性が増してくると思われます。従来、「中央情報室」は会員向けホームぺ−ジやメーリングリストの管理を担当してきましたが、更に対国民向けホームぺ−ジの充実や対マスコミ等対外広報の重要性が指摘されており、医会のスポークスマン的な役割を担うこととなります。従って、責任ある体制がなければ対応が不可能であるため、「対外広報」の部門を総務部に設置します。従って、総務部は「庶務」・「対外広報・渉外」・「法制」の三つの部名に分かれることになります。また、「中央情報室」は、「情報システム部」と名称を変更し、従来の事業を継続します。また「献金連絡室」は、財団法人おぎゃー献金基金の独立性を考え縮小し、献金委員会は基金の運営で行うこととしました。女性保健部では、母子保健部と先天異常部を統合する案がありましたが、それぞれの事業内宮が異質であり、先天異常は日母時代から継続してきた事業であり、独立して残し、財団法人おぎゃー献金基金と関連し、委託事業として運営する予定であります。従って、女性保健部は、「母子保健」・「女性保健」・「先天異常」・「がん対策」の四つの部名に分かれることになります。お話をしてもこの構成が分かりにくいとおもいますので、いずれ医会報等で図によってお示しするつもりです。学会には、1.周産期委員会、2.腫瘍委員会、3.生殖内分泌委員会があり、医会にも、1.母子保健委員会、2.がん対策委員会、3.女性保健委員会があり、それぞれの委員会の業務内容を整理しながら、役割分担をはっきりさせて、協力できるところはお互いに協力しあうことも今後の課題であります。
 新医師臨床制度が始まりますと、2年間は両会共に入会者が減ると推測されます。来年度中には、役割分担を明確にする必要があります。

 最後に本年度の主な事業を振り返ってみますと、法制部では、厚生労働省で検討中の「生殖補助医療部会」について日本産婦人科医会案を協議し、研修記録手帳の配布方法、人工妊娠中絶年報の変更、プレグランディン膣坐剤報告書の変更等を行いました。医療対策部では、「周産期医療の病診連携」、「開業女性医師と患者の意識調査」、「妊婦への家庭内暴力」、「開業助産婦の調査」、「十代の人工妊娠中絶者の調査」などいろいろなアンケート調査を実施し、興味ある結果が数多く報告されています。結果は1月の医会報の特集号でお知らせ致します。更に日本医師会の有床診療所検討委員会に対応して、「産婦人科有床診療所の将来構想」を検討するため委員会を立ち上げ、検討に入っています。学術研修部では、平成15年度の研修テーマとして「妊娠と感染症」と「内視鏡下手術」を現在作成中であり、また、平成16年度の研修テーマとして「婦人科感染症とリスクマネジメント」と婦人科外来診療を中心として「不正出血」を選んでいます。社会保険部では、厚生労働大臣の発言に対応して「不妊治療に関する保険収載」についての委員会を発足させ検討に入りました。母子保健部では「健やか親子21」の目標達成のために関連する他会と連絡を蜜にし、新生児聴覚検査事業、妊産婦死亡登録調査の集計、母性健康管理指導事項連絡カードの一層の普及に努力し、小規模事業所・母性健康管理電話相談事業の発展に対応しています。十代の薬物乱用、性の逸脱行動、性感染症の問題に対して学校保健に産婦人科医師がどのように関わっていくか検討を進めています。

 短い時間で本会の事業を全てお話することはできませんでしたが、来年度も重要なテーマに絞って、会員の先生方に有益な情報を提供できるよう努力してまいります。