平成14年11月25日放送
第21回(平成14年度)全国支部がん対策担当者連絡会
 - 子宮がん検診を30歳未満の若年層へ拡大するために
日本産婦人科医会幹事 宇津野 栄

 

 例年通り標記連絡会が 婦人科がん検診学会の翌日に 本部役員、担当者、委員など計68名の出席者のもと開催された。本会は出席者のほとんどが前述の学会に参加していることより 情報収集が確実に行われた上で充実した協議ができる事を期待してこの時期に開催されるようになった。

 高橋副会長から『一般財源化のあおりを受けてがん検診事業に対する各自治体の補助には温度差がある事は否めない。各支部間で足並を揃えて円滑に事業を行うためにも本会は重要である。』との開会の辞があり、それを受けて永井担当常務理事、長谷川委員長からも情報交換、情報提供の場として是非本会を有意義な討論の場としてほしいと挨拶があった。

報告事項、連絡協議 

『婦人科がんを取り巻く諸情勢』(永井常務理事)

 子宮頚がん検診、50歳以上のMMG併用乳がん検診の有効性については今さら論ずるべきものではなく さらなる普及における問題点を検討すべきであると述べた。子宮頚がん検診では 検診開始年令の引き下げと初回検診者の積極的な取込みによる検診受診率増加、精度管理向上のためのサンプリングエラーの防止、液状検体の開発による企業検診の台頭に対する懸念等を、乳がん検診ではMMG併用乳がん検診の流れを止めないためにも経験者が地域の核となって読影力強化に勤めることや本部としても読影試験受講の機会を増やすよう次年度事業計画を検討していることなどを強調した。子宮体がん、卵巣がん検診に関しては有効性評価の点で独立した検診事業としての成立は困難であると説明した。

 

『妊婦に対するがん検診』(今野子宮頚がん小委員長)

 先ず、本年度事業である『子宮頚がん検診を30才未満の若年層へ拡大するために』のマニュアル作成の経緯について解説した 

 そのなかで 現行の子宮頚がん検診は確実に普及し死亡率減少に明らかな効果を発揮してきたが、最近各地で死亡率の再上昇が報告されており今後の全国的な傾向となることが懸念されている。その理由としては高齢者のリピーターが多く 30、40才代の検診離れなどもありその対策も必要だが、30歳未満では検診発見癌が臨床発見癌に比較して極端に少ないなど国内外のevidenceをもとに若年層の子宮頚がん罹患率の増加を指摘したうえで 若年層への検診対象の拡大が最重要課題であると述べた。25歳以下の進行癌患者がまだ多く無いと予想されることより、現時点では少なくとも25歳からの検診開始を提言したいが 将来的には欧米並みに性行動のあるものまたは18歳からと検診開始年令の引き下げが求められるかも知れないとした。

 また若年層への子宮がん検診のさらなる普及をはかる方法として、妊婦のルーチン検査化も有用であるとし各支部での取り組み状況を把握するためにアンケートを行いその結果を報告した。妊婦に対する検診の取り組みは 大学を中心に13支部(27.7%)で行っていたが自治体として制度化している支部はごく僅かであった。妊婦に対する子宮頚がん検診は若年層検診受信の動機付けとしても重要であると述べた。なお検診対象を25歳以上かつ妊婦とすることで大部分の若年層が網羅され これまで30歳以上の浸潤癌として発見されてきたものが、異形成または上皮内癌として管理されることより妊孕生の維持ひては少子化対策にもつながると結んだ。 

『婦人科がん検診料金アンケート調査結果』  (宇津野幹事)  

 平成14年度の料金を調査し、併せて

  1. 各支部の妊婦に対する子宮がん検診の取り組みについて
  2. 妊婦の子宮がん検診を制度化している自治体の有無
  3. 支部内で発表された妊婦の子宮がん検診の成績に関する文献の有無
  4. 30歳未満の子宮がん検診の実施自治体の有無
  5. 成人病検診管理指導協議会子宮がん部会の開催の有無似ついて調査報告。

 がん検診料金は子宮頚がん、体がんに関しては自己負担額、補助金額に大きな変動はなくほぼ平年並みで 懸念された一般財源化の影響はでていない。MMG併用検診を施行している地区では乳がん検診料金の自己負担金に多少の上乗せがあった。

 妊婦および30歳未満の子宮がん検診に取り組んでいる支部はそれぞれ27.7%(13支部)、23.4%(11支部)であったが、さらなる普及が期待される。成人病検診管理指導協議会子宮がん部会の開催は80.9%(38支部)となっているが、殆どが年に1回の開催であった。事業の拡大のための行政との折衝の際にはこの部会の積極的な活動が重要である。                    

特別講演

1. 最近のがん検診の動向〜とくに婦人科を中心に〜
  厚生労働省老健局老人保健課  椎葉課長補佐

 これまでのがん対策の歴史と現在の老人保健事業についてまた今後のがん対策の展開について説明。先ず、平成10年度の一般財源化迄は順調であった事業も 今後は各地方自治体と医師会(医会)の努力に期待するところが大きい。本年度事業としては がん検診に関しての大きな動きはなくC型肝炎ウイルス検査の導入がトピックスであると現況を述べた。

 今後のがん対策の展開は 1次予防の強化が重要として、健康日本21の法的根拠として成立した健康増進法に基ずく生活習慣病対策および健やか親子21に唱われるHPVなどの感染予防を強調し また国民に対してはひろく自治体、保健所、教育、マスコミを通しての正確で有益な情報公開が必要であるとした。2次予防としては子宮がん、乳がんを中心とする検診事業の継続は勿論のことだが、メデイカルフロンテイア戦略に基ずく地域がん拠点病院等の医療基盤の整備に力をいれると述べた。

2. 厚生労働省研究班がん検診の有効性に関する報告書の概要
  〜婦人科がん検診を中心に〜
  東北大学大学院医学系研究科 坪野助教授 

 公的施策として行われるがん検診の有効性評価とは、検査精度、費用対効果、臨床発見癌と検診発見癌の生存率の比較、そして何よりも死亡率の減少が重要であるとした上で、現行のがん検診の手法について評価した。

 現時点で有効性評価が得られたがん検診は、細胞診による子宮頚がん検診と50歳以上のMMG併用乳がん検診だけで、細胞診または超音波による子宮対がん、腫瘍マーカーと超音波による卵巣がん等は未だ有効性評価は得られておらず検討中との報告であった。

支部提出議題

 埼玉、東京、神奈川、群馬、山梨の各支部より提出された議題について協議した。

  1. 子宮体がんを中心とした細胞診判定保留または不能例の対応には 先ず原因の追求が第1であるが ほとんどがサンプリングエラーであるので個別に指導していただくことまたラボラトリーエラーが考える場合は検査側での検討会等で確認していただきたい。
  2. 自己採取法と液状検体によるがん検診に関しては 自己採取法でもPAPスメアーで行っている場合はその精度において言語同断だが 企業がサービスで行っている例に関しては文句が言えないのが現状。採取法の違いとは関係なく現行のPAPスメアーに替わる液状検体による癌検診が 精度、簡易性、クラミジア等のSTD検査も同時にチェックできるとの理由で将来主流となる可能性が有る。
  3. MMG併用乳がん検診の実施状況は 支部単位での解答をみると大都市、基幹病院を持つ地区ではある程度の実施状況と考えられがちだが市町村のレベルでは浸透していないのが現状。対策としては、基幹病院、読影試験経験者等が核になって地道に普及していくことが重要。
  4. 乳がん、体がん検診における超音波検査の併用に関しては 有効性評価のところでも触れたがそれぞれ独立しての検診としては評価をえていない。ただし、補助的な検査法として活用する意味は有る。

以上、時間を超過して熱心な協議がおこなわれたが、最後は大村常務理事の閉会の挨拶で予定のプログラムを無事終了した。