平成14年7月29日放送
 小規模事業所相談事業の活動について
 日本産婦人科医会幹事 鈴木 俊治 

 小規模事業所の母性健康管理に関する電話相談事業は、産業医の選任義務のない労働者数50人未満の事業所の事業主および女性労働者を対象として、産婦人科医による母性健康管理に関する電話相談事業を実施して、母性健康管理の推進に努めることを目的としております。

 男女雇用機会均等法の改正によって、事業主に義務化された母性健康管理の措置が、事業所内において適正に運用されるためには、産業医の選任義務のない労働者50人未満の事業所においても、母性健康管理に相談体制を整備していくことは重要であります。このため、日本産婦人科医会では、平成13年度より、厚生労働省雇用均等・児童家庭局長より委託依頼を受け、本事業を実施して参りました。

 具体的には、日本産婦人科医会の各都道府県支部ごとに、コーディネーターおよび産婦人科医の母性健康管理相談医を設置し、電話による相談体制網を整備し、小規模事業所の事業主および女性労働者を対象とした母性健康管理に関する電話相談事業を実施しております。活動は平成13年4月より開始し、本年度も理事会にて受諾を決定し、女性保健部・母子保健委員会の継続事業として実施しております。

 コーディネーターの設置場所、電話番号、相談受付日、およびその時間についての登録、また広報活動については各都道府県の労働局雇用均等室が担当しますので、各支部は都道府県労働局雇用均等室・母性健康管理担当者および報道機関との綿密な連携を図り、電話相談事業の周知活動を展開しております。そして、その実施状況報告を各四半期ごとに本部に対して行なっておりますが、本日は平成13年度の活動状況についてのまとめを簡単に報告させていただきます。

 まず、平成13年度、すなわち平成13年4月から1年間のコーディネーターの受付総数は224件でした。期別の推移でみますと、初めの2期あわせて95件から、平成13年度第3期で61件、第4期で68件と若干数ではありますが、増えてきております。質問事項の内訳としては、妊娠に関連したものが136件で約60%をしめておりました。

 実施状況を地区別にみますと、北海道ブロックでは、昨年度は受付件数は0件でした。東北ブロックでは、妊娠に関連した問い合わせが青森県で4件、宮城県で3件あった他に、乳児に関して青森県で2件の相談がありました。

 関東ブロックにおいては、例えば東京都では昨年度74件の電話相談があり、そのうち52件、約70%が妊娠に関連した質問でした。質問の内容についてですが、まず、母性健康管理指導事項連絡カードについての質問が散見されました。これは、皆様もご存知のように、事業主が、妊娠中および出産後の女性労働者に対して、母性健康管理の措置を適切に講じるためには、主治医等による指導事項の内容が事業主に適切に伝達され、講ずべき措置の内容が的確にされるべきであることを趣旨として利用されるものであります。よって、女性労働者からこのカードが提出された場合、事業主はカードの記載内容に応じた適切な措置を講じる必要があります。勿論、カードはあくまでも主治医等の指導事項を事業主に的確に伝えるものであるため、カードの提出がなくても事業主には状況によって適切な対応をとることが必要とされております。主治医等は、妊娠中または出産後の働く女性に対して、健康診査等の結果、通勤緩和や勤務時間短縮等の措置が必要であると認められる程度の指導事項がある場合、このカードに必要事項を記入して渡します。平成11年度に厚生労働省から女性労働協会に委託しておこなった実態調査では、医療機関の60%以上で連絡カードの常備がなされており、また、平成14年度からほとんどの母子手帳に様式が記載されており、これをコピーして使用することも可能であるとのことです。

 話はそれましたが、その他の東京での妊娠に関する質問事項としては、妊娠初期の悪阻・切迫症状への対処について、職場環境、たとえば上司や同僚の喫煙やコンピュータの影響などについて、帰省分娩の時期や医療施設の選択方法についてなどが散見されました。これらの質問に対しては、適宜、支部の母性保健管理相談医と相談時間の調節をおこなって、直接相談医が対応しております。対応の内容としては、主治医等への受診・相談などをすすめたケースもあれば、電話の中で直接診断や方針について指導したケースもありました。また、かかりつけの産婦人科医の方針や処置に対してセカンド・オピニオンをもとめられるケースもあり、たとえば、骨盤位で経膣分娩を希望したが帝王切開分娩となったことが納得できないケースや緊急帝王切開にいたった経緯について担当医の対応に不満が残ったケースなどもありました。これらの電話相談記録を見直してみますと、電話相談の時間が1−2時間におよんでおり、そのなかで相談者のメンタル・ケア等において良い方向の見えてきたケースもあれば、相談者の表情がわからないまま堂々巡りとなり、電話相談の限界なども推定されました。

 他の関東ブロックの県や、また、東海ブロックの支部でも、各県0から5件くらいの頻度で同様の相談がありましたが、妊娠以外の質問事項としては、家庭内暴力に対する相談、子宮筋腫の内視鏡手術について、ホルモン補充療法、ピルの使用方法や処方してくれる医療施設について、医療費についての質問が散見され、どれも相談医と時間調節をして、直接質問にお答えしていただきました。

 次に近畿ブロックですが、各府県とも15から30件ほどの電話相談件数があり、本事業の周知活動が展開されているようでした。主な質問事項としては、妊娠・分娩に関しては、体調管理・日常生活のすごし方・仕事の内容に関したものが散見されましたが、近畿ブロックでは他のブロックに比較して相談者の年齢層が幅広く、月経の調節や更年期に関するもの、また子宮癌検診に関するものが散見されました。

 中国ブロックや四国ブロックも岡山県、広島県、愛媛県などで数件ずつの相談があり、近畿ブロックと同様に、妊娠中の仕事や職場環境について、ホルモン補充療法についての質問が散見されました。

 九州ブロックでは、沖縄県で妊娠に関して数件の相談があった他は、宮崎県で母性健康管理指導事項連絡カードに関する相談が1件あったのみでした。また、宮崎県では、昨年9月に支部長よりテレビ中継にて事業説明を行なっているとの報告をいただいております。

 以上、平成13年度の小規模事業所の母性健康管理に関する電話相談事業活動の実際について報告させていただきました。

 厚生労働省の‘女性労働者の母性健康管理のために’というパンフレットにも記載がありますが、女性の職場進出がすすんでいるなか、職場において女性が母性を尊重され、働きながら安心して子供を産むことができる条件を整備することは重要であるとともに、母子保健・医療・福祉に関する情報を的確に、かつ容易にえられる環境を整備することは非常に重要なことといえます。平成13年度の実施状況から、まだ本事業の展開については不十分といえるところもございますが、日本産婦人科医会では、‘21世紀は母性の時代’という認識のもとに、小規模事業所の母性健康管理に関する相談事業の推進・継続を行なっていく所存でございます。