平成14年5月27日放送
乳がん視触診・マンモグラフィ併用検診開始後の問題点
日本産婦人科医会常務理事 永井 宏
 

 昭和58年から始まった老人保健法下のがん検診は第4次を迎え、本年度から平成16年度までの3年間行われるが、それに対して新しい指針が示されている。そのうち、がん検診実施の為の指針では、特に乳癌検診が大きく変わった。マンモグラフィの導入である。

 50歳以上の検診対象者に対し、2年に1回の検診、問診・視触診、に加えて乳房エックス線検査によるものを実施する事を原則とするという指針が示された。即ち、マンモグラフィ検査を原則的に導入する事が明記された。
 このことによって、いわゆる体制の整ったところから指針にのっとった検診が進められることになるのであるが、乳房X線検査を受けた後、写真の読影をしながら視触診を行うという方式が原則であるが、地域の実施体制が十分でない場合は、当分の間視触診と写真の読影を別の機関に置いても差し支えないという事が記されている。
 このような中で、平成13年度より既にいくつかの市町村がそれぞれの地域にあった併用検診を行い始めている。既に1年を経過して、その成果が今、まとめられている。各地の詳しい成績が報告されるのは今年の秋以降を待たねばならないが、併用検診が動き出した現状と、着手した市町村における問題点において、ガイドライン作成の班会議の班長であった東北大大内教授を擁する仙台市医師会の例を中心として述べる。
 新しい指針以来、マンモグラフィを導入する支部は増えつづけている。
 この傾向は、まず、バス検診において顕著となり、全国的には乳がん検診車は前年同期よりも、9台多い35台になったと日本対がん協会が報告している。
 また、富山県健康増進センターによると、マンモグラフィ導入の第一歩として平成12年5月から施設内検診にマンモグラフィを導入し、その結果、非触知や、微小乳がんが発見され、発見率が0.08%から0.25%に上昇したという。さらに、マンモグラフィ搭載車を2台追加し、従来のものと混ぜて計5台で乳がん検診を始め、また、その他のPRも積極的に行いその結果受診者は9月末で2万2千人を超え、既に昨年を約10%上回っている。これに平行して、子宮がんや、胃・大腸がん等、他の検診受診者の増加傾向の一助にもなっている。即ち、マンモグラフィの導入が全てのがん健診の活性化につながるとの報告がみられる。

 厚生省は、既に平成11年度にまとめたがん健診の有効性評価に加え、平成13年12月に「新たながん検診手法の有効性評価」をまとめ、マンモグラフィの更なる検診拡大を強調している。
 また、併用検診を有効に行う為の読影講習会、画像撮影講習会、また、画像評価委員会などが開かれ、着々と態勢が整えられている。マンモ併用検診は色々な条件より多くの自治体が検診車検診で行われている傾向があるが、やはり検診の基本は地域における施設検診にあるという事は言うまでもない。

 この度、仙台市においては従来の検診体制を壊すことなくマンモグラフィ併用検診に切り替えた体制作りをし、検診を実施しているのでその概要を述べる。
 検診の実施は仙台市医師会乳がん検診委員会で計画がなされた。
 検診方式はセンターでマンモ撮影をし、検診登録機関にフィルムを持参し視触診を受ける方式とした。
次医療機関の登録条件として、
 1. 仙台市医師会が主催する研修会に出席する事。
 2. 上記の基準を満たし、かつ、マンモグラフィ検診精度管理中央委員会
  共催の講習会を受講し、評価が「C」以上の医師とした。
次に、精密医療機関として、
 ・視触診
 ・精検マンモグラフィ(診療マンモグラフィ)2方向
 ・ 乳房超音波検査
 ・ 穿刺吸引細胞診  等の検査
実施可能で手術などの治療まで完結できる機関を選定委託した。
マンモグラフィ撮影施設はガイドラインに沿って選定委託した。
 仙台市医師会は、病診連携を推進している事から、撮影施設と一次医療機関、一次医療機関と精密医療機関を兼ねる事はできないという条件を設けた。
 このような条件のもと、併用検診の流れを上ると、実施主体である仙台市と仙台市医師会が委託契約を結び、医師会が申し込みデータを受理し、県の健康センターより受診券が発行される。受診券をもらった受診者は、マンモグラフィ撮影施設を訪問し、マンモ撮影を受ける。撮影済みのフィルムを持参し、登録医療機関を訪れ視触診とマンモ読影を受ける。
 検診医で、カテゴリー1、2の場合は、マンモフィルムを県医健康センター読影委員会で全症例に対してダブルチェックを受ける。カテゴリー3以上の者は、要精検として精密検査登録医療機関に送られる。その際、マンモグラフィを持参させる。精密医療機関では診察終了後、マンモフィルムは県医センターへ返却する。
 カテゴリー1、2は県医療センターにまわされダブルチェックを行い、その結果カテゴリー1、2の場合は結果は受診者に通知され、カテゴリー3以上のものは第1次登録医療機関に報告し、要精密医療機関を受診するように干渉する。県医健康センターでまとめられた結果報告は仙台市医師会を通じ、仙台市に報告されるという流れである。

 このような検診の下、平成13年4月より始められたが、平成14年3月31日までの中間報告の検査結果を述べる。

 仙台市における平成12年10月1日現在、30歳以上の女性は、25万180人で、検診申込者は6万4131人、申し込み率は25.6%であった。年齢により分けられ、視触診検査対象者48,202人、マンモグラフィ併用検診対象者が15,929人であった。このうち実際にマンモグラフィの撮影を受けた者は13,063人で、撮影受診率は82.0%であった。このうち13,022人が受診を行ったが、マンモグラフィの撮影が済んだにもかかわらず、視触診実施機関を受診しない者が若干見られ、現在なお受診干渉中であるが今後の問題点として残された。
 これらの結果、視触診検査群よりがんが31名、がんの疑いが15名、マンモグラフィ併用検診群よりがんが32名、疑いが12名。マンモグラフィ受診群では0.2%を越える高い発見率を示している。

 このようにして、一応ガイドラインに沿った検診が行われたが色々な問題が残っている。以下、色々な疑問点、問題点に関し、それぞれの立場別に述べてみたい。
受診者からのクレームの主なものを述べる。
 受診者より
 ・ なぜ、撮影と触診を同じ病院で受診できないのか。
 ・ マンモグラフィの必要性はあるのか。必要な人だけで十分ではないのか。
 ・ 日付、病院を指定されて行くのが本人を無視しているように感じられる。
 ・ 乳がん検診の受診方法が変更になったのが説明が不十分で理解できない。
 ・ フィルム、封筒を渡されるとは思っていなかった。
  封筒が大きすぎるため、どこにも寄れない。
 ・ 封筒に乳がん検診と記入しているので恥ずかしい。
 ・ 雨の日に濡らしてはいけないのでどのようにして持って帰るか困る。
等々の問題が挙げられた。
 これらは必ずしも実施以前に予想された問題ではないけれども、解決できないものは少ないと思われる。また、疑問としてはマンモグラフィ検診の受診の必要性についての質問が多く、今後一層の啓発の必要性が感じられた。
 また、体がん検診と乳がん検診の日程が近いことから、被曝の問題を心配している意見が多かった。要望としては、自分の知り合いと同じ日に同じ医療機関に行きたいという意見も見られた。また、胸が小さいので痛かったので受診したくない等、医療側が見逃しがちな意見もあった。
一方、登録医療機関は
 ・ マンモグラフィ併用受診者が集中しては困る。
というクレームがあった。
疑問点としては
 ・ いろいろな費用の徴収の仕方と、年度の変わり目に際して
  50歳を境として年齢が変わる受診者の取り扱いがあげられた。
また、要望として、
 ・ 精密医療機関へ紹介した時、専門の先生に診断して欲しいなど、
  精密医療機関の体制を問う者もあった。
撮影医療機関よりのクレームとしては、
 ・ 受診時間が徹底されていない。
 ・ 受診者が間違った日にちに来院した。
などがある。
精検医療機関よりは、
 ・ 疑問としてはフィルム、書類の返却等の流れが不明である。
 ・ 未受診者対策のために急に受診者が増えるが、その連絡の不徹底。
 ・ 撮影施設でマンモグラフィを撮影に行った際に視触診がない事で
  不平をもらす受診者の存在が指摘された。
実施主体である市町村の方よりは、
 ・ マンモグラフィのみを撮影して視触診を受診期間に受けなかった者に
  対する扱い方。
等が挙げられた。

 検診に関わるそれぞれの機関、色々な立場を変えて問題点は山積しているが、検診を今後進めるにあたった絶対的に不可能と思われる問題点はなく、回を重ねる事によって解決できると思う。
 併用検診は利点が多く、また、総合的にみると受診者側にとっても歓迎されており、今後、おおいな発展・拡大が期待される。ただ、検診の質を向上させていくためには検診に参加する医師の読影技術の向上が最大のポイントとなろう。また、精度管理システムの充実は不可避である。
 また、検診に関連する機関の医師はもちろんの事、関連する放射線技師、関連する医療関係者もこの併用検診の意義、システムを十分に理解しておく事が必要と思われる。
 併用検診は開始後間もない事もあり、今日述べた多くの問題点が各々の立場からあげられるが、これらを乗り越えてさらに発展する事を期待する。