平成14年3月25日放送

 平成13年度社保の動き 

 日本産婦人科医会幹事 秋山 敏夫


 平成13年度、わが国における最も重要な出来事は、小泉内閣の発足でありました。本内閣の掲げる「聖域なき構造改革」の第一番の改革は医療改革とされます。 

 医療費の抑制、保険診療の改訂、保険審査の変更等、医療体系が激変する可能性があり、社会保険部も情報収集に果敢に取り組んでいます。

 このような社会情勢の中、産婦人科を取り巻く環境も変化が予想され、新たな検討項目が続出しています。

1.診療報酬点数改定に関する産婦人科の要望

 この4月に改定されました診療報酬点数改定に向けて、全国支部社会保険担当者、社保委員より広く要望事項を募り、産婦人科の適正化を図るべく、要望事項を整理し、関係諸団体とも連携をとりながら、当局へ実現に向けて働きかけました。

内容は

  1. 産婦人科外来診療加算の新設
  2. 特定疾患療養指導料の適応疾患の拡大
  3. 処置料の改定
  4. 産科手術点数の改定
  5. 婦人科手術点数の改定と新設
  6. 検査点数改定と適応拡大
  7. 生体検査判断料の適応拡大
  8. NSTの外来使用
  9. 子宮卵管造影時の腔内注入手技料の点数改定
  10. 静脈麻酔時の経皮的動脈血酸素飽和度測定の算定

 今回は日本医師会から10項目を厳守するよう指示され、以上の10項目を提出しました。詳細は日本産婦人科医会報を参照して下さい。

2.診療報酬動態調査結果

 平成12年3月と平成13年3月を比較検討しました。

  1. 診療所外来では、総合計で3.7%の減となりました。薬剤・投薬料が減となったのが最大の要因であると考えます。
  2. 診療所入院では、総合計で7.6%の減となりました。薬剤・投薬料、注射料、処置・手術料が各々減となっており、これらが低下の要因であると考えます。
  3. 病院の外来では、総合計で0.1%の減となりました。注射料は増大しましたが、薬剤料や検査料が減となり、結果的に0.1%の減となりました。
  4. 病院の入院では、診察料は増、薬剤・投薬料が減となりましたが、結果的に14.3%の増となりました。

 平成12年に比較して13年は病院の入院を除いて減となり、4月に行われた診療報酬点数改定の影響が出たものと考えられ、経営上の対策を講じる必要が示唆されます。

3.妊娠・分娩における保険診療上の取り扱い

 産婦人科医療の適正化および現金給付制度を堅持するため、「医療保険必携」の内容をさらに理解しやすいよう図示した小冊子を作成し、全会員に配付しました。

 内容は現物給付を保険診療に、現金給付を自費診療とするなど平易な語句を使用し作成しました。保険診療と自費診療のカルテを明確に区別する、妊婦健診料と再診料の扱い方、分娩介助料の徴収などの基本的な考えを示しました。

 分娩費の考え方では、保険の運用に関し全てを想定し厳密に区別するのは困難であるので、例を用い解説し脚注に参考を加えました。

 保険入院の期間については主治医の判断とするという文言を入れました。細部については、今後Q&A方式で対応し、不足分を補完することとしました。

4.超音波パルスドップラ法の適応

 従来、超音波検査におけるパルスドップラ法は加算点数であったため、超音波断層法の適応がある疾患で、その上にパルスドップラの適応が必要でありました。

 このため適応疾患について日産婦学会に学術的検討を依頼してありましたが、同会より回答があり、8月より新たな適応症が決定しました。

  1. 子宮内胎児発育遅延
  2. 妊娠中毒症
  3. 多胎妊娠
  4. Rh不適合妊娠
  5. 羊水異常症

 この5疾患が適応症となりました。

 なお妊娠中毒症やRh不適合妊娠の単独病名では超音波検査の適応とはならず、パルスドップラ法を併施した場合に適応となり、超音波検査(550点)+パルスドップラ加算(200点)が請求できます。運用の条件としては、妊娠22週以降の入院患者に限り、週1回の検査であり、「疑い」病名では算定できません。

5.社保委員会・社保ブロック協議会における質疑事項

  1. 閉鎖循環式全身麻酔の適応
    療養担当規則によれば、麻酔は低い点数のものから使用することとあり、手術料を上回るような麻酔料の算定は原則不可となります。全身麻酔の適応の有る疾患があれば、認められることもあります。
  2. 深部静脈血栓症予防のためのAVインパルスの使用
    AVインパルスは下肢や上肢の術後の深部静脈血栓症予防のためのものであり、婦人科疾患術後肺塞栓の予防に対する請求は不可となります。
    これに関連したリハビリテーション管理料の算定も不可となります。
  3. 神経因性膀胱、膀胱脱、子宮頸部筋腫等による尿閉による女性の導尿
    子宮癌などによる術後の神経因性膀胱などで算定可となります。
  4. 子宮鏡下手術、前日のラミナリア桿による頸管拡張法の算定
    手術に伴って行った処置は手術の所定点数に含まれるとされますが、これは手術当日と解釈され、前日に行われる処置は算定可としました。
    しかし、流産手術では通知に「あらかじめ頸管拡張を行った場合であってもそれを別に算定することなく、本区分の所定点数のみで算定する」とされており、前日に頸管拡張を行っても別算定はできません。
  5. 腟断端肉芽腫切断、腟断端腫瘤切断の算定法
    腟ポリープ切断術(肛門ポリープ切除術の準用点数)で算定して下さい。
  6. 同日の乳房超音波検査と腹部超音波検査の算定
    同日の検査は一方のみの算定となります。
  7. 子宮筋腫に対する血管塞栓術の算定について
    子宮筋腫等の良性疾患に対するものは適応とはなりません。未だ先進医療の範疇になり、確立した治療法とはいえず、保険算定は時機尚早と考えます。
  8. プレグランジン腟坐剤使用時の流産手術の算定
    不可。ただし、プレグランジン無効又は不全流産となった場合は算定可となります。
  9. 絨毛羊膜炎と切迫早産の病名で入院中に毎週顆粒球エラスターゼと癌胎児性フィブロネクチン検査の併施
    検査目的が異なるので可となります。
  10. 切迫流産の病名でHCG注射の用量・回数
    1日投与量1,000〜5,000単位、回数に制限はありません。
  11. 人工羊水注入法に関する妊娠週数と回数
    妊娠週数に制限はありません。また、処置であるため回数制限もありません。
    但し、羊水過少症の病名を記載しなければなりません。
  12. 子宮脱手術「腟壁形成術および腟式子宮全摘術」と尿失禁術「恥骨式膀胱頸部吊上げ術を行うもの」は同一手術野の手術か
    同一手術野ではなく、両手術の算定は可となります。
  13. 早期破水に対し、羊水異常としてNSTを認めるか
    不可となります。
  14. 「萎縮性腟炎」病名での薬剤長期投与の可否
    「閉経期およびその他の閉経周辺期障害」として可となります。
  15. 子宮頸部切除術に全身麻酔の算定
    手術料より麻酔料の点数が高くなりますが、手術時間の関係で全身麻酔が必要な場合 算定可となります。

6.静脈麻酔時の経皮的静脈血酸素飽和度測定の算定に関する要望

 流産手術時の静脈麻酔による呼吸抑制や呼吸停止に対する検査法として、経皮的静脈血酸素飽和度測定は重要でありますが、現行では閉鎖循環式全身麻酔、脊椎麻酔および硬膜外麻酔時に算定できるのみであります。

これを静脈麻酔時においても算定できるよう、会長名で日本医師会坪井会長宛、要望書を提出しました。

7.抗悪性腫瘍剤タキソール使用時の呼吸心拍監視の算定に関する要望

 パクリタキセル注射液(タキソール)はシスプラチン耐性ヒト卵巣癌培養細胞株に対しても悪性腫瘍増殖抑制効果があるなど、今日の卵巣癌の化学療法においては重要な薬剤となっています。

 使用上の重要な基本的事項には、患者の状態を十分に観察することが義務づけされています。

 本剤は3時間かけて点滴静注することとなっており、この投与時間中、患者の観察を十分に行うには呼吸心拍監視装置による患者監視が最も有効であります。

 本剤使用時に際して呼吸心拍監視の算定ができるよう、会長名で日本医師会坪井会長宛、要望書を提出しました。

以上、平成13年度社保の動きと題しまして、述べさせて戴きました。