平成13年9月24日放送
 平成12年度外表奇形等調査結果より
 日母産婦人科医会常務理事 朝倉 啓文

 

 日母先天異常部では1972年以来、全国277ケ所の産科医療機関を対象として「全国外表奇形等調査」を毎年行い、全国の先天異常児の発生をモニターしている。日本では唯一の外表奇形児のモニタリング機構として機能している。さらに、国際クリアリングハウスの一環として、世界中のデータと照らし合わせ日本の現況を常に確認している。

 報告されたデータは横浜市立大学にあるモニタリングセンターで解析し、疫学的解析により先天異常発生の様々な現況が理解されている。近年明らかとなった主な傾向をあげてみると、まず、平成元年頃から経膣超音波の普及と共に、無脳児の発生が減少してきたことがある。この傾向は非常にはっきりとしたもので、子宮内で診断を受けた無脳児が出生前に流産していることが理解される。外表奇形児の出生と医療技術の進歩との関係が、確実に調査結果に反映しているものであった。

また、ここ数年間は、尿道下裂が多くなる傾向があり、ダイオキシンなどの環境汚染と胎児との関連性を反映している危惧がもたれ、監視の目が必要になってきた。

 昨年度から新たに心臓奇形を奇形マーカーに加えたが、その結果、最も多い奇形は心奇形であり、VSDが外表奇形中最多の疾患となったことも著明な傾向と考えられる。しかも近年では、心奇形は胎児のうちから診断されるようになってきている。

 モニタリングで重要なことは、単年度毎にこれらの発生頻度を観察して結論を出すのではなく、観察を毎年積み重ねることで、実際に私たちの産科医療の中でこれらの傾向が真実として現れてきているかどうかを把握することと考えている。このことは、データをみていくにあたり非常に重要なポイントと思われる。

 本年度の外表奇形等調査の結果をみると、全国197施設における平成12年1月1日から平成12年12月31日までの出産した90,688例の新生児中、奇形児は1,289例で、総出生数の1.42%であった。母親年齢が40歳以上からの外表奇形児の発生は2.2%と前年よりやや減少傾向であったが、19才以下の母親からは2.4%であり、やや増加傾向であった。初産、経産による違いや、児の性別の違いはなかった。奇形児の79%はasphyxiaがなく出生していた。43%の児は妊娠中に発見され、分娩中には29%、出生後には28%が発見されていた。

 奇形の種類ではVSDが最多で140例、ついで口唇口蓋裂79例、ダウン症72例、水頭症62例、横隔膜ヘルニア、ASD、耳介低位、多肢症などがそれぞれ50例ほど報告されていた。その他、二分脊椎が44例と続く。これら頻度の多い外表奇形のおもなものについて解説し、また、[International Clearing House for Birth Defects Monitoring Systemのannual report 2000]のデータを用いて他の国々の外表奇形発生との比較をしながら述べてみる。

 先述したように、日本で心臓奇形を奇形マーカーとして取り入れたのは昨年からで、単純に他の国々との比較対照はしにくが、それにしてもVSDが最多であることは、日本に特徴的であるよう思われる。ただ、心奇形診断には診断技術の違いなどもあり、この点を解析しない限り、日本の特徴なのか否かについて早急に結論づけることはできず、今後の課題としたい。

 以前から口唇口蓋裂は日本で多い奇形であった。国際クリアリングハウスの報告の中でも各国とも多い奇形の一つである。しかし、他の国と比較しても、なお、日本での発生は多い。年次推移をみても1980年から1998年まで日本ではその発生がやや増加している傾向であり、同様の傾向はフィンランドやフランスにも観察されている。しかし、他の多くの国では、徐々に減少傾向を示している。その相違の理由については不明である。

 ダウン症の報告は徐々に増加してきている。国際クリアリングハウスの報告で他の国々と比較すると、日本での頻度はけっして多い方ではない。しかし、日本の特徴は、35歳以下の妊婦から出生するダウン症児が増加していることである。フランスの一部に同様の傾向が見られるが、多くの国では一定、あるいは低下傾向が認められるのに比べ、日本では徐々に増加していることは、特徴的である。一方、35歳以上のダウン症児の発生は年次別にみるとやや低下しているようで、これは他の国と同様であった。

 今年の特徴としては、若年妊婦からの奇形発生が高率になってきたことがある。20年前には19歳以下の母親からの奇形児は0.46%であったものが、平成11年には1.37%と奇形児発生の頻度は約3倍高くなっており、本年度は2.4%とさらに増加する傾向が観察されている。19歳以下の母親から出生する外表奇形児は多くなってきているように考えられ、原因等に関して、早急に検討する必要性がある。

 またダイオキシンを始めとして、環境汚染による内分泌攪乱物質との関連性が疑われる尿道下裂は本年度は26例に認められ、近年の増加傾向は引き続き認められている。世界的にも同様の傾向を示す国は多く、今後の監視が必要な奇形となってきた感がある。尿道下裂の発生機序には様々なものがあり、必ずしも、環境汚染による環境ホルモンとの直接の関連があるものとはいえないが、今後、モニタリングを続ける必要性があると考えられる。その結果から原因が解明されれば、本来の意味でモニタリングの意味が明らかになるが、そのためにはもう少し時間が必要である。

 また二分脊椎は欧米に比べ、日本では少ないことが知られている外表奇形である。しかし、年間44例が報告されており、日本でも、奇形の中では比較的多い奇形といえる。現在、二分脊椎は葉酸を摂取することである程度予防可能な外表奇形と考えられている。1976年から98年までの年次推移では、その発生は日本ではやや増加傾向にある。欧米では殆どの国で減少しているのと対照的である。葉酸の摂取の有無が関係している可能性も否定できない。厚生労働省、児童家庭局母子保健課でも「先天異常予防に対する報告書」を平成12年12月にまとめ、葉酸摂取の有用性を認めるようになってきた。今後とも妊娠予定の妊婦における葉酸摂取の重要性を広めながら、二分脊椎の発生が減少することを期待したいと考えている。

今年になって、葉酸摂取によりダウン症児の発生が減少するという可能性を論ずる外国論文まで報告されており、本年からは先天奇形等調査用紙とともに葉酸摂取の有無を質問形式に入れて、葉酸と胎児奇形児との関連性をより詳細に検討する予定である。

 この「外表奇形等調査」は年々、集計結果を報告する施設が減少している現状である。目標は日本の分娩数の1割をモニターすることが一つの目的であったが、現状ではこのレベルを割ってきている。本年度からは、調査機関を277施設に、新たに54医療機関増に依頼して、総数331医療機関とし、対象を日本の分娩数の1割を確保しようとしている。協力機関の本モニタリングに対するご理解とご協力をお願いする次第である。