平成13年1月29日放送

 産科医療のインフォームドコンセント1 多胎妊娠

 日本赤十字社医療センター・産婦人科部長 杉本 充弘

 

 多胎妊娠に伴うさまざまな異常が知られています.妊婦さんや家族の方に多胎妊娠がわかったときからハイリスクであることを説明しておくことが大切です.以下に双胎と3胎のリスクについてポイントを述べます.

1.一般的頻度と卵性・膜性診断(表1)

 多胎妊娠の頻度は,分娩数あたり,双胎67分の1,3胎1,200分の1です.双胎は多排卵による二卵性双胎と多胚化による一卵性双胎に分けられます.一卵性双胎は分離の時期により膜性が異なり,二絨毛膜二羊膜双胎以下DD双胎,一絨毛膜二羊膜双胎以下MD双胎,一絨毛膜一羊膜双胎以下MM双胎の3つに分かれます.二卵性双胎はすべてDD双胎となります.全双胎での膜性の頻度は,DD双胎60%,MD双胎40%,MM双胎1%以下となります.

 膜性の診断は妊娠12週を過ぎると難しくなるため妊娠初期の超音波診断で胎嚢の数と胎嚢内部の羊膜嚢の数または隔膜を観察することが重要です.また,妊娠6週の早い時期に胎嚢が2個存在しても,一方の胎嚢内に胎芽が認められず枯死卵となり,その後単胎として経過することがあります.このようなこともあるので多胎の診断は心拍動を有する胎芽像の確認を待って行うことが望ましいと思われます.

2.分娩週数と出生体重(表2)

 多胎妊娠は早産になりやすく,平均分娩週数は双胎35.1週,3胎32.7週であり,胎児の数が増えるほど分娩週数は短縮し,早産率は高くなります.また,平均出生児体重は双胎2,153g,3胎1,673gであり,胎児の数が増えるほど低出生体重となります.したがって,児を安全に管理できるNICUを有する施設での母体管理が必要となります.

3.周産期死亡と後障害(表3)

 多胎妊娠の周産期死亡率は,出産1,000に対し双胎75.0,3胎75.4と単胎に比較してきわめて高く,また脳性麻痺,知能発達遅延などの後障害発生率は,双胎4.7%,3胎3.6%となっています.したがって,多胎妊娠では必要に応じて児の予後についての説明をしておくことが必要です.

 周産期死亡と重症後障害を合わせた予後不良の頻度は,二絨毛膜双胎の9%に対して,一絨毛膜双胎は20%と高率です.一絨毛膜双胎では,双胎間輸血症候群以下TTTSが発症することで二絨毛膜双胎に比較して児の予後が悪くなります.したがって,NICUのない施設では一絨毛膜双胎と診断した時点で高次施設への紹介・搬送を考慮することが必要です.

4.妊娠中のリスクと対策(表4)

 早産率は,双胎42%,3胎85%です.また,双胎妊娠における前期破水の頻度は,単胎妊娠の約4倍になります.

 早産予防としての頸管縫縮術の有用性は,双胎妊娠では明らかではありません.しかし,3胎以上では妊娠11週から16週に頸管縫縮術が行われることが多いようです.子宮収縮抑制剤の予防的投与については,投与による早産予防効果は明らかではありません.

 MD双胎では妊娠20週頃に羊水過多を発症し,早産・死産となることがあり注意を要します.多胎妊娠では,自宅安静,入院安静が妊娠期間の延長と児の予後改善に有効ですが,一方で妊婦とその家族に精神的ストレスを増加させることがあり,安静指示に際して十分な説明と精神的サポートが重要です.

 早産が多いこと,またdiscordant twinsの小さい児がIUGRとなることから低出生体重児が多くなります.児体重差が大きい児の25%以上を呈した時discordant twinsと診断します.成因として,TTTSのほか臍帯卵膜付着や胎盤形成不良など胎盤・臍帯因子の関与が考えられます.一絨毛膜双胎のdiscordant twinsでは羊水過多を合併することが多く,前期破水,早産,帝王切開分娩が高率であり,また周産期死亡,新生児死亡,新生児仮死も高率です.多くの場合,大きい児の予後が不良です.MD双胎では,妊娠の時期を問わず,急速にdiscordancyが生じることがあり注意が必要です.

 TTTSの一般的定義は,一絨毛膜双胎で,
  1.discordancyがある,
  2.両児間のヘモグロビン値の差が5g/dl以上である
  3.顕著な羊水過多と羊水過少である,
  4.両児が肉眼的に多血と貧血である,
  5.胎盤の占有部に顕著な多血と貧血がある
 以上の5つのうち1つ以上を呈する場合とされています.血管吻合のため胎児間に循環血液量の不均衡が生じ,受血児に多血・心拡大・羊水過多・胎児水腫,供血児に貧血・IUGR・羊水過少がおこると考えられています.ときに羊水量の不均衡のみの場合もあります.残念ながらまだ確立された治療法はありません.

 合併症として,妊娠中毒症の発症頻度は,単胎妊娠の約3倍です.また妊娠貧血は約70%に認められます.さらに尿路感染症の合併が単胎妊娠の約2倍と多くみられます.

 切迫早産,妊娠中毒症,母体合併症など母児管理のために長期入院が必要となる可能性が十分にあることを,妊娠の初期より説明しておくことが大切です.

5.分娩様式と経腟分娩のリスク(表5)

 多胎の分娩様式については,3胎以上では新生児蘇生体制を考慮し,帝王切開を行うことが多いようです.双胎では,先進児が頭位でない場合は,原則として帝王切開を行います.先進児が頭位でも,後続児が頭位でない場合は妊娠34週以前または推定児体重1,500g未満であれば,帝王切開を考慮します.

 双胎先進児経腟分娩後の問題として,横位,足位など後続児の胎位異常,臍帯下垂・脱出,胎盤早期剥離,胎児仮死,微弱陣痛などがあります.

6.児のリスク(表6)

 双胎の出生児の予後を分娩週数と膜性からみると,MD双胎,DD双胎ともに分娩28週未満で新生児死亡の割合が高く,早産による児の未熟性が予後に大きく反映しています.

 双胎分娩における周産期死亡または脳性麻痺の率は,TTTS群30.8%,TTTSではないMD群12.2%,DD群8.5%であり,TTTS群で明らかに予後不良です.

 妊娠22週以後にMD双胎の一児が子宮内で死亡した場合,他児の新生児死亡率は39%,神経学的後障害は30%です.一児死亡後3日以内に生存児が娩出された場合に予後は良好であったとの報告がありますが,すでに障害があったとの報告もあり,3日以内の娩出の是非に関して一致した見解は得られていません.生存児に双胎血栓塞栓症候群,DIC,虚血性ショックなどが発症することが考えられます.

7.母体の分娩後のリスク(表7)

 双胎分娩における1,000ml以上の出血の頻度は,経腟分娩3%,予定帝王切開10%,緊急帝王切開32%です.出血多量の原因の大部分は弛緩出血であり,経腟分娩,帝王切開いずれの場合も,過大に伸展した子宮,分娩遷延例,陣痛促進例,低位胎盤などの因子がある例は注意が必要です.また,多胎妊娠で切迫早産の治療として塩酸リトドリン持続点滴を行った例で,胎児肺成熟促進を目的として副腎皮質ステロイドを投与した場合に肺水腫,心不全をおこすことがあり注意が必要です.

 以上多胎妊娠のリスクについて述べました.個別的に事前の十分な説明をすることが大切ですが,いたずらに妊婦さんの不安を募らせないためには,医師が認識しておくべきことと妊婦さんに前もって説明しておくべきことをよく整理し説明することが必要と思われます.