平成12年12月11日放送
 第11回日母全国支部医事紛争対策担当者連絡会より 2 消費者契約法
 日母産婦人科医会常務理事 佐藤 仁
 

 PL法が平成7年に施行され、これに続き平成13年4月1日から消費者契約法が施行されます。

 消費者契約法は4章12条からなる法律に、衆議院 商工委員会、参議院 経済・産業委員会の付帯決議がついて成り立っています。

 消費者契約法の趣旨は、個人である消費者が、騙されたり脅かされたりして不利な契約を意に反して結ばされた事業者との契約を後から取り消したり、これらの内容が最初から無効なものとして取り扱うことができる法律です。

  医療機関における消費者契約は消費者である患者が窓口で診療を申し込み、受付が終了した時点で事業者である医療機関と契約が成立します。

医療において「患者が受け付けを終了した」ということは、患者と医療機関が、「現在の医学界の一般的水準に従って患者の疾患に最適の治療法を選択し実施する」ということを内容とした、包括的な準委任契約である診療契約が成立したことと解釈されています。

 この医療契約により医師と患者の間に権利と義務関係が発生するものと考えられています。従って、契約が成立した段階においては抽象的であり、それが診断や検査・治療の各段階で具体化していくと考えられています。手術や入院もその具体化と解釈されますが、入院に関しては施設利用関係が新たに発生し、入院契約がなされ、手術に関しては書面で患者の同意をとる場合、それが新たな契約の内容の一部となります。

 消費者契約法には契約過程の規定と契約条項に関する規定があります。

 契約過程の規定は、勧誘方法に関するものであって、受け付けまでに重要な部分について事実と異なることを告げたり、誤解させたりする不実告知など不適切な行動を問題としています。しかし、未だ具体化していない診療内容に関し事前に詳細な説明をする義務を医師に課するものではありません。

 契約条項に関する規定は、患者が事業者である医療者側に対して、損害賠償請求することを放棄、または制限する内容の同意書を提出させることや、契約を解除し,代金支払いが送れた場合に支払う賠償金,違約金等の金額あるいは利息が不当に高い場合を問題にしています。

 消費者契約法と関係がない部分は幾つかあり、通常の保険診療は関係ありません。保険診療は、実施する治療法にかかる費用などがあらかじめ公定されており、また料金については消費者である患者との契約ではなく、各種保険事業団との契約という解釈もあり問題になりません。次いで結核予防法に基づく命令入所や、精神保健、麻薬、感染症などの法律に基づく入院措置。労働安全衛生法上の健康診断。意識不明の患者を救急外来で診療する場合の事務管理などが除外されます。

 消費者契約法と関係する部分では、公的保険適用以外のもの、特に、料金等の契約内容が公定されていない、保険適用外の手術・治療、分娩などの料金、また施設利用に関する差額ベッド料、テレビ、冷蔵庫使用料といったものなどです。

 医療で消費者契約法に違反になる行為は、契約を結ぶまでの段階で、入院時の差額ベッド料、テレビ使用料金などについての説明が不充分であること。分娩や、美容整形手術など、特に保険適用外の料金や方法等について,予め明確な説明をしないこと。契約の内容に関しては、手術,検査などに際し患者から「万一,予期せぬ結果が生じても一切異議を申しません 」といった内容の証書を差し入れさせたり、診察予約のキャンセルや、診療費の支払遅延に対する違約金の額や利息を高額に設定することが対象になります。

 消費者契約法に違反しても罰則規定はありません。消費者契約法は民法の特別法と位置付けられているため,最終的には裁判所で判断されることになり、行政規制とは異なり行政罰を受けることはありません。

 消費者契約法では,消費者が自らなした申し込みの意思表示が取り消された場合、契約は初めからなかったことになり、双方に原状回復の義務が生じます。しかし、医療のような返還不可能な役務については、消費者である患者は、契約を取り消しても、それまでに行われた診断の為の検査や治療について、その客観的価値である、治療費相当分を事業者である医療機関に支払う義務があり、医療機関は診療保険請求も出来ます。そして契約が取り消された時点で医療機関は当該患者を診療する義務から免れます。手術終了後であっても手術自体をやり直して手術以前に戻す必要はありません。

 医療事故を含む医療紛争やインフォームドコンセント不足による種々の問題も契約を締結した後の医療行為そのものの問題なので、消費者契約法の規定とは関係ありません。これは民法の債務不履行、不法行為の問題であり従来どおりです。

 医師・医療機関が今後気をつけねばならぬことは、消費者契約法の第3条に、「消費者契約の条項を定めるに当たっては、内容が明確かつ平易なものになるよう配慮し、締結について勧誘をするに際し、理解を深めるために、内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならない。」と明示されていることです。

 この条項により、医療機関は、保険適用外の分娩、手術や治療の料金およびその方法、入院時の病室・ベッドの料金、テレビ使用料など施設利用料、診断書の料金等、患者向け「情報提供」を積極的に行わねばならず、そのために必要なパンフレットの作成や院内明示をする必要があります。

 今後、医療情報提供や診療録の開示に加えて消費者契約法が世間に普及浸透すると、消費者である患者や家族から診断や治療について各種の疑問や問題が医療機関に寄せられることがより多くなることでしょう。

 事故なくしての紛争が多くなることが予想されます。これらに対し、各医療機関に「苦情・相談窓口」の設置が望まれます。少なくとも担当者を決め窓口を一本に絞っておくことが必要でしょう、また地域医師会、都道府県医師会の「診療情報提供に関する窓口」を積極的に利用することも良いでしょう。

消費者である患者側の種々の申し立てに対して、我々医療側もこれらの法律をよく理解した上で準備して対応し、紛争が起こる前に対処する必要があります。