平成12年4月3日放送

 厚生省緊急母子保健情報から

 日母産婦人科医会常務理事 清川 尚

 

 日母・産婦人科アワーをお聞きの皆様こんばんは。

 日母産婦人科医会で母子保健を担当しています常務理事の清川です。

 母子保健・妊娠・分娩・育児相談等に便乗した不適切な商売が横行しています。昨年6月にいわゆる24時間風呂で水中出産した新生児がレジオネラ感染症で死亡した新聞報道はご存じと思います。この母親は一風変わった胎教と自然分娩を提唱する大阪・箕面市にある育児文化研究所のセミナーを受講し36週で自宅で水中分娩の希望を助産婦に伝えたそうです。セミナーでは「医師・助産婦を信用しないで、お産も夫婦二人で行うのがよく、妊娠中の健診も不要」と洗脳しているようで、芸能人や有名人も信奉者として名前を連ねていました。まあ芸能人はこの研究所の動く広告塔として利用されたのかも知れません。

 このセミナーを受講した妊婦さんが自宅であるいはお風呂で出産して母子共に危険に侵される事例が続出しました。ほとんどか開業助産婦が手助けしたか、出産時トラブルが発生し呼ばれた事例が多いようです。日本助産婦協会の調査ではセミナー受講者が自宅出産し少なくとも3例の死亡事故があったことが判明しました。日本助産婦協会ではこの育児文化研究所の会員の分娩には慎重に対応するように警告を発しています。

 厚生省・日母も直ちに調査・対応を行いました。厚生省は11月26日にレジオネラ症防止指針を全面的に改定し、給水・給湯設備、24時間風呂などの規制を強化しました。日母では日母医報12月号で会員への注意を呼びかけ、さらに厚生省母子保健課長と相談し、早急に対策を講じました。平成11年12月28日厚生省児童家庭局母子保健課長通知として各都道府県母子保健主管局長・部長あてに「不適切な妊娠中の健康管理及び分娩の危険性についての妊産婦に対する周知について」と題した通知がその対応です。同日付けで母子保健課長より日母に別添えの文章を都道府県に通知したので、通知の趣旨を日母会員にもご承知していただきたい旨の連絡を受けました。

 厚生省から出された通知を読み上げます。「不適切な妊娠中の健康管理及び分娩の危険性についての妊産婦に対する周知について」母子保健事業の推進については、かねてよりご高配を賜っているところであり深く感謝申し上げる。さて本年6月愛知県において、「育児文化研究所」(本部大阪箕面市)という健康診査の不受診や自宅等における医師又は助産婦が介助しない分娩を推奨する団体に通所していた妊産婦が自宅の循環式浴槽(いわゆる24時間風呂)において水中分娩し、出生児がレジオネラ菌が原因と疑われる肺膿症で死亡する事例があることが愛知県から報告された。また日本助産婦会により「育児文化研究所」の指導に従い夫婦のみで自宅において出産した事例において、適切な処置を受けられず、死産および乳児死亡に至った事例があることが報告された。こうした例にみられるように、健康診査の不受診や自宅等における医師又は助産婦が介助しない分娩について、母体及び胎児の異常の発見が遅れることや救急に対応ができないこと等により、母体の生命が著しく危険な状況におかれる可能性が高く、また、循環式浴槽において水中分娩が行われた場合には出生児がレジオネラ菌に感染する可能性がある。今後、このような事例を防止するため、貴職(各都道府県の母子保健主管部局長に当たります)におかれては、健康診査の不受診、自宅等における医師または助産婦の介助しない分娩、循環式浴槽における水中分娩等、不適切な健康管理及び分娩の危険性について、ご承知の上、管轄管下市町村、関係団体等に対し、妊娠届出の受理時や訪問指導の機会を通じて妊産婦に周知するとともに、健康診査を受けない者に対する健康診査の受診の勧奨を徹底するよう、指導方お願いする。また、本事例のように、母子保健に関し、死亡事例が生じる等、公衆衛生上の見地から、重大な問題のある事例を把握した場合には速やかに当方にご連絡下さるようお願いする。なお、厚生省においては、本件に関して厚生省ホームページにおいて周知する予定であるので、妊産婦等への周知にあたっては、これを参考にされるようお願いする。以上が厚生省児童家庭局母子保健課長通知です。

 日母医報2月号に通知文章と関連記事を掲載してありますので参考にして下さい。また日母ホームページにアクセスしますと「厚生省の緊急母子保健情報」はもちろん日母が進めている事業や産婦人科関連のあらゆる情報を目にすることができます。

 日母では厚生省児童家庭局母子保健課の指導協力のもとに、母子保健対策を推進していますが、平成12年度の厚生省の母子保健に関する事業目標をまとめてみます。

 昨年12月19日に国は重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画についての要旨を発表しました。これは新エンゼルプランと称して「少子化対策推進関係閣僚会議」で決定された「少子化対策推進基本方針」に基づく重点施策の具体的計画として(大蔵、文部、厚生、労働、建設、自治の6大臣の合意)で策定されました。この新エンゼルプランの主な内容ですが1として、保育サービスなど子育て支援サービスの充実……これは0〜2才児童の保育所受け入れの拡大や延長保育、休日保育や子育て支援センターの設置です。2として仕事と子育ての両立のための雇用環境の整備です。3として働き方についての固定的な性別役割分業や職場優先の企業風土の是正です。さらに母子保健医療体制の整備……これには国立成育医療センターの設立や、周産期医療ネットワークの整備が含まれています。また地域で子どもを育てる教育環境の整備、子どもたちがのびのび育っ教育環境の実現、教育に伴う経済的負担の軽減、住まい作りやまちづくりによる子育ての支援を挙げています。

 日母でも一昨年から少子化対策に積極的に取り組み、関係各省への陳情、日本医師会への協力依頼を行ってまいりました。その中で、日本医師会事業の一つに少子化対策委員会を設置し、日母の坂元会長が委員長に任命され、答申を行いました。その答申案を坪井日医会長が国に働きかけ、昨年12月末に発表された少子化対策閣僚会議の基本方針に盛り込まれました。そして今お話中し上げた新エンゼルフランの要旨として日母の考えも盛り込まれました。新エンゼルフランの目標値ですがゼロ才から2才までの低年齢児童の保育所受入れの拡大は平成11年度の58万人から平成16年度は68万人と増加させ、時間延長保育の推進は現在の7000ヶ所から平成16年度は1万ヶ所に設置し、休日保育では現在の100ヶ所から300ヶ所に増やし、また地域子育て支援センターの整備では現在の1500ヶ所から3000ヶ所に、また周産期医療ネットワークの整備は現在は10都道府県しかないが平成16年度には全国47都道府県すべてに整備し、さらに小児救急医療の支援体制を整える事となります。また不妊専門相談センターの整備も急務であります。このように新エンゼルフランでは出生前から思春期、成熟期に至る支援体制を盛り込んでいますが、机上の論に終わらないように日母としても厳しく対処していかなくてはなりません。この為には、現実を見極めた日母会員お一人お一人のご意見も賜り日母事業も推進していかなければなりません。

 今回は母子保健、妊婦出産にかかわる母子保健情報と厚生省、日母が取り組んでいるプランについてもお話しさせていただきました。この日母アワーが会員の皆様方のお役に少しでも立てば幸いです。