平成11年11月8日放送

 日母研修ノートNo.63「高齢女性のケア」より

 加納病院院長 加納 武夫

 

 本日は、日本母性保護医協会 研修ノート「高齢女性のケア」についてご紹介させていただきます。一般に高齢期は、65歳以上と定義されているようですが、今回の研修ノートの高齢女性とは、60歳以後の年令層を対象としました。

 はじめに、高齢女性の身体的特徴についてお話ししたいと思います。

 女性は加齢とともに、卵巣は退縮し、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌低下が生じてきます。こうした慢性的な低エストロゲン状態の持続と老人性の退行性変化とが重なり、まず生殖器では、子宮・卵巣・腟および外性器が萎縮していきます。それにともなう一般症状として萎縮性腟炎がしばしば発生します。外性器の萎縮は性機能、とくに性交渉の障害として夫婦生活の悩みのタネとなります。子宮および骨盤底の支持組織のゆるみにより子宮脱・膀胱瘤などの性器脱の症状を訴える患者も増えてきます。内科的には、糖尿病、高脂血症、動脈硬化などに起因する高血圧、虚血性心疾患、脳血管障害などが発生しやすくなります。泌尿器科系では、腎機能の低下、頻尿・尿失禁などの排尿障害の症状も目立ってきます。整形外科領域では、骨塩量の低下に伴う骨粗鬆症が進み、これが脊椎の圧迫骨折や大腿骨の頸部骨折などの原因となります。関節炎・関節症などによる痛みや運動障害を訴える患者さんも多くなります。中枢神経系における変化としては、加齢により物忘れ・健忘症をきたしますが、ほとんどが正常の老化の範囲内でとどまります。病的な変化としては、老年性痴呆、いわゆるアルツハイマー型痴呆があげられます。医学の進歩にともない脳卒中、心疾患で死亡する頻度が少なくなった一方で、悪性腫瘍に罹患する高齢者の数は近年増加する傾向にあります。産婦人科領域では、卵巣癌、子宮体癌の患者数が増えています。そこで高齢女性のがん検診に際しては、従来の子宮頸癌・乳癌検診に加えて卵巣癌、子宮体癌にも注意を払う必要があります。

 次に高齢女性の精神的特徴について述べたいと思います。

 子供を持つ女性の場合は、子供の自立により母親としての役割を終え、夫が健在である場合は妻としての役割は続きますが、最終的には夫の介護をした後、寡婦としてある期間を送り、生涯を終える場合が多いでしょう。勤労婦人であった場合も60歳を過ぎれば退職して、労働の場から遠ざかることになります。こうして社会的な役割を終えて、さてこれからの老後の人生をいかに生きるかが、高齢期を向かえた人たちの課題となります。老後の活動状況を国際的に比較すると、わが国の高齢者は男女とも、グループ活動への参加率が低く、テレビ・新聞などを見るといった個人的な生活を楽しむ傾向が強いようです。また時代的変化として、核家族化による高齢世帯の増加があります。二世代同居が敬遠されるのは、若者がそれを好まないという理由ばかりでなく、高齢者自らが「主体的に暮らしたい」という意識が強くなっており、寝込むまでは子供に頼りたくないという考えや、いざとなれば最近の老人介護システムの充実のもとに、老人ホーム、訪問看護、ヘルパーなどの公的介護に頼りたいとする人々の割合が多くなっています。

 次に老いの意識と死の受容について述べたいと思います。

 高齢者は、およそ60歳を過ぎる頃から、体力の衰え、物忘れなどにより徐々に老いを自覚するようになります。その自覚とともに、現実生活において積極性の喪失、幸福感の低下、長生きをしたいと言う願望があらわれます。老年期をどのように受け止めるかは、個人のパーソナリティーに依存しますが、老化をうまく受容し生き生きと暮らすパターンと不適応を起こしてしまい悲観的で孤独な生活を送るパターンにわけられます。

 死の受容については、多くの高齢者は、生命には限りがあり、死が避けられないものであることを中年期以降の人生の中で徐々に自覚し、受容して、一般には穏やかな形で死を迎えることが多いのですが、間近な死を意識させるような病気、たとえば癌をわずらった場合は、死に直面するあまり大きな心の葛藤を乗り越えなければならないでしょう。

 さて、実際の日常診療において、高齢者の診察を行う際、まずはじめに留意することは、老化に伴うさまざまな変化を念頭におくことです。問診においては、聴力、記憶力、理解力、表現力の低下により、十分な情報が得られない場合もありますので、付き添いの家族などに話を聞くのも大切です。疾患の症状が非定型的であったり、潜在的なことも少なくないので些細な症状も見落とさないようにします。加齢とともに多臓器の機能が低下し障害を受けており、慢性疾患として抱えているものが多くなります。これらの合併症あるいは他科で治療中の疾患に配慮するとともに、そこで処方されている薬剤の内容の詳細を把握しておく必要があります。薬剤の投与に際しては、既に他科で投与されている薬剤を調査し、薬が重ならないように注意すること、高齢に伴う薬剤の排泄機能の低下を考慮し、薬剤量を少なめにするようにします。

 次に婦人科外来における高齢女性に対する症状・訴えからみた診断の進め方についてお話しをします。

 外来診療において、訴えとして多いものは、帯下(おりもの)、性器出血、外陰違和感、頻尿、排尿障害、腟・子宮の下垂感、腹部違和感、腰痛などがあります。また婦人科がん検診を希望して来院する患者も多くあります。尿失禁、性行時の痛みや出血を愁訴としながら、はじめは恥ずかしくて訴えないこともありますので、患者さんに十分な気配りをしながら問診を行うことが寛容です。 帯下、性器出血、外陰違和感は萎縮性腟炎、帯下の刺激による外陰炎であることがほとんどですが、内診・腟鏡診および超音波検査を同時に行い、子宮・卵巣の異常の有無を診察しておくことが大切です。そして可能な限り、子宮がん細胞診を同時に行います。高齢女性では子宮頸癌は子宮頸管内に潜んでいることが多いため、頸管細胞を採取することが正診率を高めるコツです。

 頻尿・排尿痛を訴える場合は、尿路感染症、排尿困難、尿失禁などを訴える場合は、性器脱などに注意し、婦人科的に診療が困難な場合は、泌尿器科を紹介する方がよいと考えます。腹部違和感を訴える場合は、まず超音波検査により腫瘍・腹水の有無を確認し、悪性疾患が疑われる場合には腫瘍マーカーを検査するとよいでしょう。婦人科外来でかかわりのある精神疾患としては、不眠、抑うつ症状を 主訴とするものが多くあります。これらに対しては薬物療法で対処可能ですが、抑うつ状態がひどい症例や、家族が手をやくほどの痴呆のある症例は精神科に紹介すべきでしょう。

 時間の都合で、「高齢女性のケア」の解説を十分に出来ませんでしたが、内容的に充実した研修ノートが出来あがっていますので、会員の皆様に是非お読みいただきたいと思います。