平成11年7月19日放送

日産婦関東連合地方部会学術集会より

日産婦学会関東連合地方部会会長 麻生 武志

 

 第97回日本産科婦人科学会関東連合地方部会総会ならびに学術集会は去る6月26・27日の両日にわたり、東京新宿の京王プラザホテルにおいて開催されました。約1,100名に及ぶ多数のご参加を頂き、学会の企画と運営を担当致しました者として大変嬉しく存じております。またこの機会に御協力頂いた各位に心から御礼申し上げます。

 今回も会員の皆様から合計207題にも及ぶ多数の一般演題の申込をいただき、学術集会に参加された方は1,100名に達しましたことは、本学会の活発な活動を反映するものであります。

 さて、かねてより、関東甲信地区約6,000名の会員から構成される連合地方部会の学術集会のあり方について、会員の間よりスケジュールの過密化、発表形態の改善が指摘され、種々の検討が重ねられてきました。今回はより余裕を持ったプログラムにする1つの試みとして土曜日の夕刻にサテライト・カンファランスを行うこととしました。これにより今日の産科婦人科医療におけるメインテーマである生殖医療、周産期医療、悪性腫瘍、更年期、感染症を学術集会においてすべてカバーすることが出来たと思われます。

 サテライト・カンファレンスでは、先ず、国立大蔵病院臨床研究部長の名取道也先生に「胎児医療の最先端」についての講演をいただき、現在アメリカにおいて行われている胎児にたいする外科治療の紹介、治療成績・予後、今後の展望を解説され、また我国の現状と今後の取り組みのあり方などについて、先生のお考えをうかがうことができました。次に「子宮内膜症および子宮腺筋症に対する妊孕性温存手術」について、国立京都病院臨床研究部長の杉並先生からビデオ供覧を含めての講演がありました。子宮内膜症の各時期の病変を腹腔鏡所見で分類し、臨床症状との関連から、本症が若年者に増加していることをデータとして示されました。

 また子宮腺筋症の病巣部を切除する術式に対しては、会場からも質疑があり、多くの方が関心を持たれたようであります。

 お二人のエキスパートによるサテライト・カンファレンスに引き続き、約300人の参加をいただき開かれました総懇親会は、これも学会の大きな目的でもあります会員の懇親の場として大いに盛り上がり、主催者として嬉しく存じております。

 学会第2日の午前中には、特別講演2題の発表が行われました。先ず始めの講演は、東京医科歯科大学医学部解剖学・佐藤達夫教授による「女性骨盤内臓周辺の局所解剖:自律神経系・リンパ系・筋膜」でした。今日、全ての外科的手術治療において、根治性と同時に quality of life を重視した機能温存が重大な課題となっております。婦人科領域においてもこの課題へのアプロ−チとして悪性新生物に対する手術療法、また妊孕性を障害しない手術術式の開発を目指し、日々の研鑚と努力が求められております。その際に最も基本なり、手技の改善に直結するのが局所解剖の理解でありましょう。医学の専門教育の当初に私達は解剖学を学びましたが、今再び実地臨床に深くかかわっている段階で、局所解剖に関する知識をリフレッシュすることの意義は大きいと思われます。御講演で、骨盤神経叢の構造と分布、骨盤臓器から出るリンパ管の走行と集合部位、骨盤内の諸構造物を包む筋膜などの解剖所見を示説され、図式的に理解することが出来ましたことは、大変有意義であったと思います。

 もう1つの特別講演としてドイツ・ア−ヘン工科大学生殖生理学研究所の Hennig M. Beier 教授には"The endometrium as a sentive reproductive organ and a never aging reproductive target" というタイトルでの御講演をいただきました。Beier 教授はヨ−ロッパの生殖医学・医療研究の第一線で活躍されており、特に着床の場である子宮内膜の機能・形態に関する分野で数多くの優れた業績をあげておられます。生殖機能の加齢現象を子宮内膜に焦点をあて、その機能と、機能を調節する諸因子についての最新の知見を紹介していただきました。また閉経後の女性の子宮内膜機能を調整することで、着床・妊娠も可能であるとの報告は、正に講演のタイトルにあります。子宮内膜がnever aging reproductive targetであることを明かにされたと言えましょう。

 午後のセッションでは、臨床の現場での今日的な3つの課題を取り上げ、ワ−クッショプが行われました。先ず「新・再興感染症への対応」をテーマとしたワ−クッショプは、獨協医科大学の稲葉先生に座長をお願いし、国立感染症研究所、細菌・血液製剤部長の荒川先生に「バンコマイシン耐性腸球菌等薬剤耐性菌、行政的な危機管理」、旭中央病院の宇田川先生に「劇症型A群レンサ球菌感染症の臨床像」、獨協医科大学の大島先生に「新興肝炎ウイルス感染症−HCV,HGV,TTVの母子感染について」、そして順天堂大学の武内先生には産婦人科臨床で遭遇するSTDの中で急増しているクラミジア感染症が上腹部にまで波及した Fitz-Hugh-Curtis 症候群の病態と治療についての発表を頂きました。次ぎに「更年期外来の役割とそのあり方」についてのワ−クッショ

プでは、慶應義塾大学の太田先生の座長のもとに、聖マリアンナ医科大学の石塚先生には「大学病院における更年期外来の役割とあり方」を、北関東循環器病院院長の市川先生には内科の立場から「循環器疾患とホルモン療法」を、そして小山、堂薗、松峯の各先生には実地医家の立場から「閉経女性の健康管理を考える」というテーマで、各自のクリニックの特徴と、いかに患者さんのニーズに応えるかのノウ・ハウを紹介してもらいました。

 診療現場からの問題提起とそれに対する考え方は、参加者に大変参考になったものと思われます。

 ワ−クッショプ3では、卵巣癌治療:「化学療法の最近の進歩」がテーマとなりました。東京慈恵会医科大学の落合先生が座長をつとめ、東京医科歯科大学の大塚先生が「卵巣癌治療におけるpaclitaxelの効果と問題点−paclitaxel/CDDP療法を中心に−」を、国立がんセンター中央病院腫瘍内科の勝俣先生が「上皮性卵巣癌におけるpaclitaxelの使用経験と評価」、東京慈恵会医科大学の木村先生が「卵巣癌におけるPaclitaxel/Carboplatin (TJ)療法−JKTB(Japan Kanto Taxol Board) & JCGOG(Jikei Clinical Gynecologic Oncogy Group)studyを中心に−」、神奈川県立がんセンター婦人科の中山先生が「paclitaxel(Taxol)併用療法の使用経験と今後の展望」について発表されました。今後の進行卵巣癌に対する化学療法のfirst lineとしてパクリタキセルとパラプラチン製剤が主流になるが、予期せぬ副作用も予想されるので、十分に対応可能な施設での使用が行われるべきであるとの見解が示されました。これら3つのワークショップを通じて、明日の診療に役立つtake home messageを提供できたように思われます。

 今回の学術集会のもう1つの新しい試みとして207の一般演題を全てポスター示説とし、時間に制約をもうけないで自由に討論を展開してもらうスタイルとしたことです。この雰囲気を盛り上げるためにワイン、ビールとスナックを用意しましたところ、普段は余り言葉を交すことのない仲間が打ち解けて、討論の輪があちこちに見受けることが出来ました。初めての試みで、モデュレーターをお願いした先生が戸惑われたことと思いますが、御協力のおかげで新しい学術交流を実感していただけたと思っております。

 今日私達、産婦人科医を取り巻く学問の流れと社会情勢は刻々と変化しており、現状を適確に把握し将来を展望することは容易ではありません。その中で共通の問題点について率直に意見を交換し、お互いを啓発する場としての学会の存在意義は益々重要となりましょう。いくつかの新しい試みで企画、運営しました本学会が、参加された方々にその意図するところを理解していただき、お役に立つものでありましたら、大変幸でございます。

 おわりに学会の企画、運営に御尽力を賜った方々にあらためて心から感謝申し上げます。