平成11年6月14日

少産少子社会と日母

日母産婦人科医会会長 坂元 正一

 

 医学の進歩と高齢者数の増加は、平行して進み、少子化は若いリプロダクティブ・エイジの人々の将来への経済的不安感、不信感、結婚観などの変化に基づくとすれば、到底我々の側で目に見える対策をとれと言っても、それは無理でありましょう。1995年高齢社会に突入した日本で1996年ついに65歳以上の人口が14歳以下の人口を上回りました。経済全般、社会保障、労働市場への影響は既に現実の姿を露呈し、その原因がバブル崩壊後の国上層部の驚くべきスキャンダルに由来すると知って市民は唯色を失うばかり、公的資金という名の税金は30兆も不良債務処理にまわされ、倒産、リストラに泣くのは弱い者のみ、子どもを生む意欲を出せと言うほうが無理なのですが緊急の変化には緊急の対応を以て臨むしかないでしょう。高齢化社会として手を打ったのが1970年、長寿社会の子ども問題が口の端にのぼったのが1989年、約20年のおくれを取り戻すのは容易ではありません。既に概念的少子化対策は出尽くした感があり、組織的実行を直ちに行うことが第一義的に必要だと思います。厚生省も育児支援を先ず取り上げるようなので、当面講ずべき施策を先ず小児科領域から取り上げてみましょう。

 第一は、児童手当支給の拡充で、現行の支給条件の3歳未満を義務教育年齢15歳までOECD加盟国なみに延長し、所得制限は廃止の上、手当額は一律1万円にすること。

 第二は、小児患者の自己負担の軽減で、15歳までの医療費の自己負担分を補助し、入院2割、外来3割を1割に、可能ならばゼロとすべきです。乳幼児医療費ゼロ地域は増えており、元気な世代なので充分可能性はあるはずです。

 第三は、子育て減税で、0歳から7歳未満の者を特定扶養親族にします。現行は16歳以上23歳未満だけです。扶養控除額を増やす、例えば所得税では38万円を58万円に、住民税は33万円を43万円にするわけです。またパートタイマーの課税最低額を現行103万円からもっと引き上げることです。

 第四に、保育所制度などの大幅改善で働く女性にとって切実な問題です。厚生省も取り組む方針のようですので期待したいと思います。短期的改善は数の増加と保育時間の延長でしょう。平成9年22,401ヵ所の内公的なもの58.4%、全体定員192万人の中80%が収容されています。保育時間1時間延長は90%以上実施されていますが、2時間延長は公的なもの1.3%、民間4.6%に過ぎません。平成10年の調書で3歳児まで含めると約4万人が入所待機中です。中長期的には保育所の適正配置、例えば企業内保育所、病院内保育所など期待されています。0歳児や病時保育、幼稚園との連携、小学校低学年を授業後に預かる学童保育の拡大が必要ですし、朝や夜も預けられ十分な保育時間の拡大が出来るための補助は絶対必要です。

 第五として、地域社会に於ける子育て支援体制の整備です。幼稚園医、保育所嘱託医の地域医師会推薦方式の確保、そしてまた社会の子として中高年ボランティアの育児支援推進によって、小さい時から心の教育を目指すべきでしょう。

 第六として、育児休業制度の充実で、両親のいずれかが育児にかかわれ、全労働時間の短縮による家庭生活のよい経験は育児、介護双方に有効です。育児休業の手当を25%から80%と欧州なみにし、また子どもの急病看護体制の制度化を臨みたいものです。

 さて、産婦人科領域の問題を取り上げます。

 第一に、我々の領域には二つの緊急に考える問題があります。一つは、エンゼルプランの遅れを取り戻すには妊孕力や若くて意欲のある世代の出産キャンペーンを地域的推進することです。第二次ベビーブーム(昭和48〜52)の人口は最近で最も多いわけですが、その時の女性の平均第一子出産年齢は26歳、現在の妻の平均結婚年齢が26.4歳、平成11年は昭和48年生まれの女性が丁度26歳になるということは、数こそ違え第三次ベビーブームはこの世代に期待するしかないことを意味します。

 第二点は、周産期にたずさわる医師つまり養成に何年もかかる人たちの人的不足です。数年前まで、5年続けて産婦人科認定医試験合格者が300名をきっていて、これは毎年周産期医の補充が100名以下になることで、新生児専門の医師も同様に減っています。産科施設も最盛期の60%に近づきつつあり、受け皿減少に早く手を打つ必要があります。

 第二は、出産育児手当金の現行30万円は出産費用の平均負担に及んでいないので少なくとも50万の支給を退院前にしてもらうことを若い人たちは望んでいます。100万円の援助が良いという意見も少なくありません。

 第三は、総合周産期センターの指定基準の緩和と担当専門医の適正配置と運営費の補助が必要です。理想の高いのは良いのですが、実際には全国で9ヵ所、専門医の数から考えれば、第二次センターの普及をはかるための規制の緩和で数を増やすことの方が短期構想としては実際的ではないでしょうか。運営費不足の犠牲を出すようでは画餅の構想になってしまいます。

 第四に病診連携と母子健康管理指導連絡カード −これは働く婦人のために労働省が準備したものですが− これを利用することで事業主との連絡が密になり、働く妊婦の予後に貢献します。多くのお母さんが多くは核家族だけに、時間をかけた育児相談や同じ経験のグループ相談を希望しており、診療所や病院内で保育の面倒を認めるよう希望も少なくありません。アメニティ指向を同程度に、助産婦外来も含めて、そういう配慮をすることが大切です。

 第五に、不妊症治療の推進も必要です。年間推定60〜70万の人々が相談や治療を受けていると考えられます。妊娠成功率がおしなべて15〜20%とすると、進歩した生殖補助医療を適正に受ける手だてを妥当と思われる治療で受けられるようにすることは大切です。日産婦学会の1997年のデータではARTによる出産は9,200人で現状では年間1万人のペースに迫っています。ARTにょる治療は述べ約37,000組がうけ治療総数は約54,000回に及んでおり、年間出産数1万の増減に一喜一憂している現状からすればARTの功績は大きくなる一方でしょう。国の推奨した不妊相談センターは総合周産期センター並のところが5ヵ所のみ、患者さんはもっと手軽に話を聞き、その上でセンター的なところへの紹介を希望しており、相談科の補助は可能なはずです。治療費に関しては方法毎にさえも一定しておらず、非常に高額のところもあるように聞いています。学会の統計でも、妥当な費用設定が出来れば80%の医師が保険収載を希望しています。日医総研の試算で年間12万例×1回の治療費40万円÷15%(平均成功率)=3,200億は、1回分として略実情に近いと思われますが、日産婦学会と日母で 実情調査中で治療施設、ライセンス、適応と方法、回数など慎重に検討すべき問題が多く、暫く時間がかかると思われます。適切な対応を希望してやみません。

 第六に、やっとピル及びカッパーTが解禁になり、家庭内の家族構成を自分達で調節できますから、外国のようにかえって「産む人は産む」といういい傾向が出ることを期待します。私としては、生殖生理にからむ問題を相談するなら必ず一度産婦人科の専門医師の門を叩いてもらうよういろいろの機会に強調することが、女性医学の恩恵を一生にわたって受け入れられるメリットにつながることの教育になると思います。

 最後に、男女共同参加型社会が本来の意味で構築されるためには、先進諸国と同傾向の若い人々の結婚観や婚外子観などに対する十分な配慮が必要なことを強調しておきたいと思います。この青い地球の上で我々を守ってくれる最小単位は国である以上、その国の文化を育て環境を美しくしてこそ、住む人々にとってそれは祖国として、かけがえのない存在となり、次の時代に引き継ぐ意欲も湧いてくるでしょう。共生と意欲のないところに発展は望めません。第二の国造りをする位の国家意思の誕生を希望してやまないのは、この国に住むすべての人々に協力していい未来を築いて欲しいからなのであります。