平成11年5月10日
男女雇用機会均等法と母子保健
日母産婦人科医会常務理事 清川 尚

 少子高齢化社会の中で21世紀を迎えるわが国において、本年4月1日より実施されている改正された男女雇用機会均等法とこれからの母子保健について、その内容と現状、対策等につき、若干の私見も含めて述べさせていただきます。
 ご承知のように、合計特殊出生率が1.39という過去最低の数字を示しています。1990年に合計特殊出生率が1.57となりオイルショック、ドルショックとともに1.57ショックとよばれ大騒ぎをした事がありました。しかし、その後も出生率は上昇せず、現在では1.39となりました。合計特殊出生率が0.1違えば、生まれてくる子どもの数が10万人違ってきます。ベビー用品や幼稚園の入園児をはじめ、社会のあらゆる部門での計画の見直しが必要になってきます。
 高齢化社会の出現は、低出生率の結果といっても過言ではありません。少子高齢化社会は現実となり、年金、各種保険などの社会保障負担の増大、経済活力の低下、労働供給の制約、子どもの社会性の低下が進み、日本の活力の低下につながります。人口問題審議会の報告によりますと、少子化の原因は未婚率の上昇を挙げています。さらにまた、仕事と育児の両立に対する負担感や、結婚に対する世間の圧力がなくなり、個人の結婚感や価値観の変化が原因として挙げられています。また少子化は男は仕事、女は家庭という男女の固定的な役割分業や仕事優先の雇用慣行など社会全体の状況に関連していると考えられています。
 結婚や出産の妨げを取り除く方法としては、子育てと仕事の両立、家庭における子育て支援など、子育てを支援するための対策を総合的かつ効果的にすすめることの重要性を述べています。
 今後の子育て支援のための施策の基本的方向については平成6年12月の文部・厚生・労働・建設の4大臣の合意によるエンゼルプランのなかで詳しく述べられています。たとえば子育てと仕事の両立支援では育児休業に対する給付の実施、様々な保育サービスの充実、家庭における子育て支援では、地域子育て支援センターの拡充、母子保健医療体制の充実を重点施策としています。わが国の少子高齢化社会を打破するためには、出生率の向上のために何をすればいいのか、行政はどんな援助をすべきか、出産・育児に掛る費用をどのように援助すればよいのか、出生率低下に伴う人手不足をどう解消するのか、国民一人一人が真剣に考えていかなければなりません。
 昭和61年に男女雇用機会均等法が施行され、10余年が経過しましたが、この間、女性労働者がわが国の経済社会の中で果たす役割は大きく確かなものになりました。そこで法律の再検討が行われ、平成9年に改正の法律が公布されました。改正の趣旨は働く女性が性により差別されることなく、その能力を十分に発揮できる雇用環境を整備すること。また、働く女性が安心して子どもを生み育てる環境をつくること。男女がともに職業生活と家庭生活を両立できる条件を整備することを目指して、総合的に労働省所管の法律の整備を図ったものです。
 改正の具体的ポイントの一つ目は男女雇用機会均等法の改正です。これまで事業主は努力義務であった募集、採用、配置や昇進について、女性に対する差別を禁止することとし、企業名の公表制度の創設やこれまで事業主と労働者間の紛争の調停は、双方の同意がなければ調停を始めることができませんでしたが、本年4月からはどちらか一方からの申請で調停を認めるなど、法の実効性を確保するための措置を強化しました。
 またポジティブ・アクションの促進、セクシュアル・ハラスメントの防止といった新しい課題にも積極的に対応しています。母性保護充実の一環として、妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間の確保や、その指導に基づき勤務時間の変更、勤務の軽減など必要な措置を講ずることを事業主に義務づけること。
 二つ目の労働基準法の改正では女性の職域の拡大を図り、男女の均等取扱いを一層促進する観点から、女性労働者に対する時間外、休日労働、深夜業規制の解消、母性保護充実の一環として、多胎妊娠の産前休業期間を10週間から14週間に延長する等があります。
ポイントの3つ目の育児・介護休業法の改正では、育児や家族の介護を行う一定範囲の男女労働者について、深夜業制限に対する権利の創設を盛りこんであります。母性健康管理の措置等についての詳細は、日母医報・平成10年3月号に掲載してありますので参考として下さい。
 母性保護等に関しては昨年4月より実施されていますが、本年4月からは男女差別の禁止、女子保護規定の撤廃、深夜業の制限を打ち出しています。男女差別の禁止では、新たに募集、採用、配置や昇進での男女差別を禁じています。従来は事業主が差別の是正に努めなければならない努力義務でしたが、これまで認められていた「女子のみ募集」などの女性優遇措置も原則禁止になりますし、セクシュアル・ハラスメント対策を、事業主の配慮義務として規定しました。女性の時間外・休日労働の上限(従来は年間150時間)や原則的に禁止されていた深夜10時から早朝5時までの深夜業などは撤廃され、男性と同等の扱いになります。しかし、育児や介護の家族的責任がある一定の女性労働者が希望した場合は、3年間の「緩和措置」として、従来の水準の保護規定が適用されます。このことは、小学校入学前の子どもや介護を必要とする家族を抱えた一定の労働者が請求した場合、事業主は深夜労働をさせてはならなくなりました。
 私たち医療従事者も社会の一員でありますので、改正された男女雇用機会均等法をよく理解して、はじめて責任を果たせます。例えば人員募集広告を例にとりますと、労働省がつくった言い換えの例ですが、営業マンは営業マン(男女)、営業職、ウエーターはウエーター・ウェートレスまたはフロアスタッフ、カメラマンはカメラマン(男女)、撮影スタッフ、保母は保育士、看護婦は看護婦・看護士、スチュワーデスは客室乗務員・フライト・アテンダント、大学卒男性80名、女性20名募集は大学卒100名となります。適用例外はホスト、ホステス、俳優、モデル、警備員、神父、レースクイーンなどです。
 このように男女の性差ではなく能力を問う時代になっていますが、飲食店やスチュワーデス、旅行添乗員、看護婦など、現在の労働基準法で既に深夜業を認めている業種もありますが、今回の法改正ではこれ以外の業種・例えば交替勤務のある製造業、営業時間の延長をにらむ小売業などにも女性の深夜業が広がることが予想されます。すでに労働省では昨年3月に「深夜業に従事する女性労働者の就業環境等に関する指針」を出しています。この中で、防犯面では、送迎バスの運行や防犯ベルの貸与といった対策を例示しているほか、女性労働者の深夜の一人作業を避けることを事業主に求めています。また休養室や仮眠室を男女別に設けることも指示してあります。しかし、企業側には労働環境の整備が先決の問題でためらいがないわけではありません。このことは女性一生の健康支援を目指す日母会員も十分、認識しなければならないと思います。