平成10年3月2日放送

双胎分娩の管理について

名古屋第一赤十字病院産婦人科 石川 薫

 双胎分娩は、胎位異常・臍帯脱出・弛緩性出血など種々の異常が起りうる High risk 分娩です。『備えあれば憂いなし』の例えもあり、分娩にあったては、次の用意が必要と思われます。即ち、機器としては、分娩監視装置2台・超音波診断装置・吸引分娩装置・インファントウオマー2台を分娩室に用意すべきです。人員としては、産科医二名、内一名は内回転術などに精通した経験のある産科医が better です。新生児科医が二名立ち合えば心強くなります。米国では、加えて麻酔科医もスタンバイするようですが、我が国では、そこまでは残念ながら現実的ではありません。産婦の静脈路を予め確保しておくと、弛緩性出血の時に安心です。

 さて、具体的な双胎分娩管理の本題に入る前に、『いかなる双胎が経腟分娩の適応となるのか、逆の言い方をすると、いかなる双胎は帝王切開の適応となるのか』という問題について触れます。実は、未だこの点について統一見解は得られていず、各施設はそれぞれのポリシーで対処しているのが現状です。その中で、New York ・ Mt.Sinai 病院の Chervenak の提唱したポリシーが有名で、私共もそのポリシーに概ね準拠してきました。Chervenak の提唱するポリシーでは、妊娠34週以降で双胎A先進児が頭位なら、双胎Bの胎位が何であれ経腟分娩が選択されます。そして、双胎Bが骨盤位の時は、双胎A分娩後の外回転術が推奨されます。また、妊娠34週以降で双胎A先進児が骨盤位の場合は、インターロッキングの可能性が勘案され、帝切が原則とされます。一方、妊娠34週未満では、双胎A,B共に頭位の場合のみ経腟分娩が選択され、他のシチュエーションは帝切の適応とされます。

 以上の Chervenak の提唱したポリシーの中で、私共はこれまでの経験より、2点程再考の余地があると考えています。先ず第一点目は、双胎A分娩後の双胎B後続児が骨盤位の時の外回転術です。一時期、双胎B後続児の外回転術がもてはやされまし。しかし最近では、外回転術は、胎児仮死や臍帯脱出の頻度を増加させるので、そのままの骨盤位娩出術の方が良いとの、報告が多いようです。私共も、此れまでの経験より、そのまま骨盤位娩出術を行うのがベターと考えています。但し、双胎B後続児が横位に近い骨盤位では、外回転術は効果的と考えられます。

 第二点目の再考の余地ある点は、双胎A骨盤位なら絶対的に帝王切開であるかという点です。帝切の論拠はインターロッキングの危険性によりますが、インターロッキングは有名な割に稀で、双胎A骨盤位、双胎B頭位の組合せで、頻度は1.1%と報告されています。最近、私共は、妊娠37週、2回経産で、子宮口4cm開大、双胎A骨盤位・双胎B頭位という症例の分娩方針で、多いに迷いました。結局、1.1%のインターロッキングの危険性は高いとの、担当の若い産科医・産婦の考えに押し切られ、帝切となりましたが、歳老いた私は何か割り切れなく、何か道はなかったのかと、考えこんだ次第です。その解答の一つは、双胎A骨盤位の外回転の可能性です。ごく最近、実際にその報告がありました。解答の二つ目は、正側のX線による児頭の位置関係の把握であったかと、反省しています。ともあれ、この双胎A骨盤位なら絶対的に帝王切開であるというポリシーには、見直しの余地ありと考えています。因に、Williamsの教科書にも、双胎A骨盤位なら帝王切開との記載はありません。

 さて、これより双胎分娩管理の本題に入りたく思います。

 双胎の分娩経過は、単胎に比較して、概して分娩第一期は短く、分娩第二期は長いとされています。双胎分娩のスムーズな進行には、人工破膜が極めて効果的です。必要に応じたオキシトシン点滴による陣痛促進も有効です。双胎A先進児の分娩経過でII期遷延の場合は、回旋異常が考えられ、用意した超音波で確認したく思います。回旋異常では、要すれば用意した吸引分娩装置で吸引分娩を行います。

 次に、いよいよ双胎分娩管理の佳境・山場である、双胎Bの分娩管理です。

 従来、教科書的には、双胎A出産後10分経過して陣痛のない時は、陣痛促進し、でき得れば15分以内、悪くとも30分以内に後続児を娩出させるのが、安全とされてきました。双胎A出産後には、胎盤早剥・臍帯脱出・子宮口退縮などが危惧され、できるだけ早く後続児を分娩させたい誘惑にかられるのは、実地産科医の偽らざる心情です。しかし、分娩監視装置で胎児心拍モニタリングに異常がなければ、後続児の分娩を焦る必要はないとの提言もあります。

 私共は、拙速の要はありませんが、従来通り10分経過して陣痛発来がみられない時は、陣痛を促進し、適宜に人工破膜するのが妥当と考えています。それは、後続児の分娩所要時間が長くなると、後続児の帝切の頻度が増す傾向にあるからです。

 さて、双胎A分娩後には、用意した超音波で直ちに双胎Bの胎位を観察診断します。勿論、内診を怠ってはならず、双胎Bの胎児心拍モニタリングも続行します。

 双胎B後続児が頭位で、臍帯脱出が超音波・内診で認められれば、吸引分娩の用意を整えます。双胎Bでも回旋異常の頻度は高く、この際も要すれば吸引分娩の適応となります。

 双胎B後続児が骨盤位の時は、先に述べましたが、そのままの骨盤位での娩出術を選択するのが得策と思われます。骨盤位娩出術は、単胎のそれと同様に、竹岡式横八娩出術で行います。多くの場合、単胎より容易な娩出が可能です。次に、双胎後続児が横位の時は、先に触れた通り、用意した超音波で観察しながらの頭位への外回転術が推奨されます。

 しかし、破水が先行し外回転もままならず、横位に陥る事があります。この際、威力を発揮するのが、現代産科学より今しも葬り去られんとしている、内回転術です。児の足首を探し把持牽引し骨盤位として娩出する訳ですが、そのコツは手技ではなく、沈着冷静に対処するという心構えにあります。即ち、横位に陥った際、情況は切迫し分娩室は戦場と化します。産婦も緊張の極に達し、内診手は容易に子宮腔に挿入できなくなります。内回転術のコツは、切迫した情況を静麻で産婦を眠らせてしまい緩和し、且つ必要ならニトログリセリンで子宮口の緊張をとる事にあります。さすれば、簡単に内診手は子宮腔に達し、児の足を捉える事が可能となります。超音波という強力な助けもあり、沈着冷静にことを運びたく思います。児の足を捉えれれば、勝利は掌中に入ったも同然です。

 以上、双胎A,B児とも無事分娩が終了すれば、ほっと一息入れたいところですが、最後の仕事が私共産科医には残されています。弛緩性出血対策です。オキシトシン10~20単位の十分量の静脈内投与、プロスタグランデインF2α500~1000γの子宮体部局注投与が、効果的です。

 双胎分娩の管理について、実地産科医の立場より、概説させて戴きました。諸家の参考になれば望外の喜びです。