平成10年1月19日放送

アレルギー性結膜炎・花粉症結膜炎

横浜市大眼科 内尾 英一

 

 平成5年度の厚生省アレルギー総合事業疫学調査班によるフィールド調査によれば、眼掻痒感を持つものは、全人口のうち小児(15歳未満)の16.1%、成人(15歳以上)の21.1%で、医師によってアレルギー性結膜炎と判定されたことがあると答えたものは小児の12.2%、成人の14.8%であります。このことから全人口の約15〜20%がアレルギー性結膜炎を有していると推定されます。ただし、アレルギー性結膜炎の発症は生活環境に密接に関連し地域差が大きいので、地域によってはこれより高率のところもあると考えられます。本日はスギ花粉などによるアレルギー性結膜炎の診断と治療について述べたいと存じます。

 日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班の定義によりますと「I型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患で、何らかの自他覚所見を伴うもの」をアレルギー性結膜疾患とし、その中で結膜に増殖性変化が見られないアレルギー性疾患がアレルギー性結膜炎であります。症状の発現が季節性のものを季節性アレルギー性結膜炎とし、特に花粉によって引き起こされるものを花粉性結膜炎と呼びます。花粉性結膜炎はアレルギー性結膜炎の2/3ないし3/4を占めると推定されます。花粉性アレルギー性結膜炎の原因抗原は種々の花粉ですが、関東地方を例にとりますと、2−5月にはスギ科、5−7月はカモガヤ科、7-9月はブタクサ科、10−12月にはヨモギ科と花粉の飛散には実際には切れ目がありません。中でも、スギは北海道を除き、全国の広い範囲で植林事業が行われた結果、大量の花粉の飛散を生じています。とりわけ、雨天の翌日の晴天日に殻が破けて飛散する傾向があります。外国ではいわゆる枯草熱によるものがあり、北海道ではカバによるアレルギー性結膜炎も報告されています。アレルギー性結膜炎の自覚症状は痒み、流涙、異物感が主で、眼脂は多くありません。約60%の症例ではアレルギー性鼻炎を伴い、症状の強い例では咽頭刺激感や発熱などの気道症状を合併することもあります。鑑別診断としては、ウイルス性結膜炎は流涙、眼脂が主で耳前リンパ節腫脹が見られます。クラミジア結膜炎は新生児や性的活動期の成人に見られることがあり、濾胞が強い特徴があります。細菌性結膜炎はアレルギー性結膜炎のように両眼性となることはまれで、粘液膿性の眼脂を呈します。アレルギー性結膜炎の結膜には濾胞や乳頭が見られますが、増殖性病変は通常生じません。結膜濾胞は組織学的にはリンパ球の集まったものであります。乳頭は中等症の通年性アレルギー性結膜炎になると結膜円蓋部を越えて広がるようになります。角膜には点状表層角膜症が観察されることがあります。これは好酸球の組織障害性蛋白の他に結膜杯細胞の減少によるドライアイによるものと考えられるので、アレルギー性結膜炎で掻痒感が長期にわたる場合はドライアイの合併も考慮を要します。角膜輪部に増殖性変化がみられる場合は春季カタルと診断されます。

 検査法について次に触れたいと思います。アレルギー性結膜炎に特異的な検査法はありませんが、臨床レベルで可能な検査は多数あります。それらは眼局所のアレルギー学的検査と全身のアレルギー学的検査に大別されます。眼局所のアレルギー学的検査には好酸球の検出(エオジノステイン、ディフクイックなど)のキットがあります。全身のアレルギー検査には、患者血清を測定材料とする方法が多数あります。ラジオイムノアッセイを使用するRAST、CAP RASTとRIAを用いないMAST、FAST、AlaSTATがすでに広く行われています。CAP RASTはRASTに比較して短時問で測定でき、MASTは多項目のスクリーニングに適しています。最近、in vitroでのアレルゲン刺激性遊離ヒスタミン測定キットであるHRT〔ルシカHRT〕が使用できるようになりました。患者細胞を用い、非特異的な反応や疑陽性が少ない検査であり、他の全身アレルギー検査と同様に健保で10項目測定できます。

 次に、治療について述べたいと存じます。アレルギー性結膜炎は抗アレルギー薬点眼のみで治癒することが多く、ステロイド点眼薬は単独では用いず、抗アレルギー点眼薬で不十分な際に併用します。抗アレルギー点眼薬は化学伝達物質遊離抑制剤単独(例えば、ペミロラストカリウム、クロモグリク酸ナトリウム、トラニラスト、アレキサノクスなど)のものと抗ヒスタミン作用を併せ持つ薬剤(ケトチフェン)とが臨床で使用可能です。プラセボ効果もある程度見られますが、その効果は飛散花粉量に反比例するといわれています。現在、抗ヒスタミンおよび化学伝達物質遊離抑制作用を持つフマル酸エメダスチン、H1特異的拮抗薬のレボカバスチン、血小板活性化因子拮抗薬のアパファントなどが臨床試験されています。なお、点眼薬は長期間の連用により接触性眼瞼皮膚炎を生じることがあるので注意を要します。一方、スギ花粉症のようにあらかじめ発症時期が予測可能な場合には、花粉飛散がピークになる前に抗アレルギー点眼薬を開始することも可能ではないかということから考えられたのが抗アレルギー点眼薬による初期療法です。最近の花粉測定法の進歩により花粉の実際の飛散時期は従来の時期より早期に開始していることがわかってきたため、「予防」というよりも花粉飛散量があまり多くない時期から治療を開始するという意味あいから「初期療法」と呼ばれています。初期療法の開始時期はスギ花粉の飛散開始の約2週問前またはそれ以前、すなわち東京においては通常のスギ花粉前線到来日から計算して1月下旬から2月初旬に抗アレルギー薬点眼を開始します。減感作療法は唯一の原因療法ですが、即効性がなく、頻回かつ長期の注射が必要であり、種々の理由から眼科ではあまり行われてはいません。いくつかの報告はなされていますが、報告により効果はまちまちであり、その原因として現在用いられているスギのアレルゲンエキスに合まれる有効な蛋白成分の量が不足していることが考えられています。抗アレルギー点眼薬は効果発現までに期間を要するので、患者の苦痛をすばやく取り除くためにはステロイド点眼薬をしばしば併用します。眼圧上昇、白内障などの副作用があるので、症状に応じてできるだけ作用の弱いものを用いるのが原則です。抗原回避としては、花粉に接触しないように枠に工夫された防塵眼鏡やフィルターの入った防塵マスクが考案され、すでに用いられております。

 以上述べてきたように、アレルギー性結膜炎には、免疫学的およびアレルギー学的な機序のほか、免疫遺伝学的な特徴や環境要因なども関与しており、解明されるべき部分はまだ多く残されています。今日は治療を中心にアレルギー性結膜炎について概説しましたが、臨床的および基礎的研究の進展による新しい点眼治療薬の臨床応用などの進歩が期待されます。