overview: 女性医療に求められるこれからの医療,未病医療と先制医療―集団から個へ―(太田博明)

高齢化に対峙するための未病医療

 わが国における世界一の高齢化に対峙するためには,自分の健康は自分で守る「セルフケア」や「セルフメディケーション」の実践が今後重要となる.
 わが国の定期健康診断は発症リスクを指摘する制度として定着しており,2008 年から実施されている「特定保健診査(メタボ健診)・特定保健指導」は,開始1 年後に男女で早くも20~30%の脱メタボに成功している.
 しかし,メタボ健診や人間ドック,企業検診は予防医療であり,疫学研究によるリスク因子の抽出とその回避であって,集団への対応である.疾患罹患の有無の判別,すなわち疾患の抽出に重点が置かれており,未病における健康の維持・増進には注力していない.
 「病気ではないが,健康でもない状態」である未病におけるQOL の改善や発症リスクの低減をめざす未病医療がこれからの医療には求められる.

未病への個別的対応と先制医療

○今後は集団への予防医療から,未病医療とともに個人の体質診断による発症前診断に従った個別的な対応,いわゆる先制医療が必要となる.
○高齢者が増加する中問題となるのが非感染性疾患(NCD)で,癌,心血管疾患,認知症,骨粗鬆症などが代表例であり,遺伝素因と環境因の相互作用が考えられる.
○このNCD に対しては,先制医療すなわち個別に遺伝子素因を調べて,ハイリスク者をみつけ,バイオマーカーなどで未病レベルにおける発症前診断の後,積極的な発症前介入を行う.
○加齢に伴う女性の患う症状や疾患はエストロゲンの分泌低下に起因するものがほとんどである(図39).
○エストロゲン低下に起因するものとして更年期の諸症状や泌尿生殖器の萎縮症状である閉経後性器尿路症候群(GSM),メタボに起因する心血管イベント,また,ロコモに起因する転倒と骨粗鬆症性骨折などがあるが,これらには各々タイムコースが存在する.
○これらの疾患における器質的な組織変化が定着する前に早期対応法としてエストロゲン分泌低下をサポートするホルモン補充療法(HRT)を年齢(60 歳まで),期間(閉経後10 年間)限定で考慮すれば,GSM やメタボとロコモの発症を遅延できる可能性がある.

女性医療における先制医療

○女性は生命長寿であるが,不健康期間が長く,健康格差も大きいため,要介護者の70 %を占める.その契機となるのはエストロゲンの分泌低下であるので,HRT を抗加齢のInitial start として再考すべきである.
○ Initial goal はエストロゲンの分泌低下に起因する症状や疾患に対する遅延である.
○ Second goal はGSM・メタボ・ロコモ・認知症・フレイルの発症予防.Final goalは健康寿命の延伸と健康格差の縮小にある.女性医療に課せられた使命は,女性の各Life stage におけるGoal-directed treatment の設定にある.
 わが国の高齢化対策,特に女性医療のあり方は世界中から注視されている.それを担うのは産婦人科の医療で,女性のLife cycle に沿った先制医療的観点からの女性医療の確立が喫緊の課題となっている(図39).