5.後期流産の処置

(1)手続き

○妊娠12 週以降の後期流産(死産)では,死産届書,死産証書及び死胎検案書に関する省令第12 条に基づき,死産証書を作成する(図12).(患者が死産届・死産証書とともに死胎(埋)火葬許可証申請書を市町村役場に提出すると,死胎火葬許可証が発行される.)
○妊娠12 週以降の死産であっても,子宮内容物が胎児の形を成していない場合および胎児と認め得ない場合や,妊婦が死亡し,胎児の死亡も確実な場合は死産証書を作成する必要はない.
○人工妊娠中絶の処置として行う場合は,母体保護法第14 条に基づく夫婦の同意書が必要となる(図13).また,母体保護法第25 条に基づき,都道府県知事への届け出が必要となる.この届け出は母体保護法施行細則第27 条の別記様式第13 号による報告書(図14)によって行う.
○健康保険の被保険者が出産したときは出産育児一時金が,被扶養者が出産したときは出産育児一時金が支給される.この場合の出産とは妊娠85 日(4 カ月)以後の生産,死産(流産),人工妊娠中絶をいう.

(2)流産処置

 子宮頸管拡張→子宮収縮薬投与→子宮内容遺残確認の3 段階で行う.本人とパートナーに手順を説明した上で,書面による同意を得る.

1 )子宮頸管拡張
○妊娠12 週以降の流産処置を安全に行うために最も重要な手順は,子宮頸管拡張である.
○時間をかけて子宮頸管拡張を行うことが,安全な流産処置につながり,かつ2)で述べるゲメプロストの使用量を低減できる可能性がある.
○使用可能な頸管拡張材とその詳細については,次項「Ⅲ- 6.頸管拡張法について」で述べる.図15 に具体的な子宮頸管拡張のスケジュールの一例を示す.

2 )子宮収縮薬
①ゲメプロスト(Gemeprost,プレグランディン®)
○ゲメプロストとして1 回1㎎(1 個)を3 時間ごとに後腟円蓋部へ挿入する.
○1 日最大投与量は5㎎(5 個)までであり,効果の認められない場合は本剤の投与を中止し,翌日あるいはそれ以降に投与を再開するか,あるいは他の方法に切り替える.
○投与は,母体保護法指定医が行う(詳細は平成29 年10 月1 日発行『日産婦医会報』16 頁参照).
○添付文書では,前置胎盤,骨盤内感染がある場合は,投与は禁忌とされている.
○妊娠中期では,経腟超音波検査により内子宮口付近に胎盤辺縁を認めることも稀ではない.このような状況では,人工妊娠中絶の場合は勿論,子宮内胎児死亡となっている場合であっても,大量出血に注意をしつつ慎重に処置を行う.
○既往帝王切開症例,特に2 回以上の既往がある妊婦において妊娠12 週以降に人工妊娠中絶を行う場合は,頸管拡張を十分にするなどして子宮破裂に特段の注意を払う必要がある.帝王切開の既往がある妊婦にゲメプロストを投与することは禁忌ではないが,類似の構造を有するジノプロスト(Dinoprost,プロスタルモンF®),ジノプロストン(Dinoprostone,プロスタグランジンE2® 錠0.5㎎)など他のプロスタグランジン製剤は,帝王切開や子宮切開の既往がある場合には投与禁忌である.
○気管支喘息合併妊娠では,前述のジノプロストおよびジノプロストンは喘息発作を誘発する可能性があるため,添付文書上ジノプロストは禁忌,ジノプロストンは慎重投与となっている.ゲメプロストは禁忌となってはいないが,理論的には発作を誘発しうるため,慎重に投与する必要がある.
②オキシトシン(Oxytocin,アトニン®-O 注)
○ゲメプロスト投与により胎児および胎児附属物が娩出された後,5~10 単位を筋肉内に緩徐に注射する.
○流産,人工妊娠中絶においてゲメプロストのかわりに用いられることがある.
○点滴静注法では,オキシトシンとして,通常5~10 単位を5 %ブドウ糖注射液(500㎖)等に混和し,子宮収縮状況等を観察しながら適宜増減する.
○胎児心拍数のモニタリングを行わずに投与する点および,流産期では子宮が小さいため子宮収縮のモニタリングが困難であることから,過強陣痛には十分に留意する必要がある.
※ Williams Obstetrics (24th edition)では,高濃度オキシトシン静注単独による妊娠中期の人工妊娠中絶法が記載されている.成功率は80~90 %であり,オキシトシンを高濃度とすることで過剰輸液を回避できるため,低ナトリウム血症や水中毒は稀であるとされるがわが国ではこの方法は使用されない。
③ジノプロスト(Dinoprost,プロスタルモンF®)
○治療的流産を目的として本剤を生理食塩液により希釈した液を子宮壁と卵膜の間に注入投与する方法が添付文書に記載されている.

3 )子宮内容遺残
○後期の流産または人工妊娠中絶では,高頻度に胎盤遺残が生じ,放置すると子宮内感染を起こす原因となる.
○子宮内容(胎児および胎児附属物)が娩出された後は,超音波断層法により,子宮内遺残物の有無を必ず確認する.

(3)乳汁分泌抑制

○後期流産または人工妊娠中絶後に,乳汁漏出を来すことがある.
○冷庵法等により軽快することがあるが,ブロモクリプチンメシル酸塩(パーロデル®錠2 . 5 ㎎)あるいはカベルゴリン(カバサール® 錠1 . 0 ㎎)の投与が必要となることもある.
○カベルゴリンについては添付文書で「本剤投与開始に際しては,聴診等の身体所見の観察,心エコー検査により潜在する心臓弁膜症の有無を確認すること.」となっていることに注意する.