(7)低分子化合物および核酸化合物を用いた新規治療開発(豊島将文)

・現在医療用医薬品で最も多く使われているのは,化学合成によりつくられた有効成分が作用する「低分子化合物」であり,分子量は一般に1 , 000 未満である.
・がん遺伝子産物を標的とする分子標的抗がん剤が多数登場しており,低分子性分子標的抗がん剤の半数以上はキナーゼ酵素阻害薬である.キナーゼ以外の標的もテロメア制御・がん微小環境・がん免疫など多岐にわたる.今後はがん幹細胞・がん代謝・エピジェネティクスなどを標的とした新規薬剤が登場してくる見通しである.
・これに対して「核酸医薬」とは,核酸が数個~百個程度結合したオリゴヌクレオチドを薬効の主体とする医薬品であり,蛋白質の発現を介さずに核酸が直接標的に作用するものを指す(表9).
・臨床試験が行われている核酸医薬の多くはアンチセンスとsiRNA である.従来標的にできなかったDNA・RNA などを標的にできるため,がん・希少疾患・感染症などの予防・治療薬として開発が進められている(図21).


・核酸医薬品は分子量が大きく,成分の細胞膜透過性が低くなるという問題を有する.
・アンチセンスやsiRNA は,各組織の毛細血管の内皮細胞シートを通過した後に細胞内に到達するため,全身投与後の組織分布は内皮細胞の構造に大きく依存する.肝臓,腎臓,脾臓,骨髄,固形がんなど内皮細胞シートの構造が緩い部位にオリゴ核酸は集積する.
・核酸医薬は体内で核酸分解酵素により容易に分解されてしまうという欠点があるため,分解の影響を受けにくい局所投与型(例:硝子体内)が先行して開発されてきた.
・ただ近年,核酸を化学修飾することで核酸分解酵素に対する耐性が向上し,生体内での安定性が大きく改善した.
・標的配列との結合性を向上させたり,細胞内への取り込み効率を改善させたりする様な化学修飾の開発も進み,低濃度でも有効性を得られるようになってきている.
・核酸改変およびドラッグデリバリー技術の向上により,今後は適応疾患や投与経路の幅が広がることが期待される