(3)診断

・子宮内膜症は,腹腔鏡検査あるいは開腹手術による肉眼所見によって診断される.
・確定診断は,病理組織標本での「子宮内膜に類似した腺構造と間質」の証明による.
・全事例で直視下の診断が行われるわけではなく,日常診療では自覚症状,診察および検査所見から総合的に診断された場合を臨床的子宮内膜症として取り扱う.産婦人科専門医による臨床的子宮内膜症の正診率はおよそ80%とされる.
・微細な腹膜病変や軽度癒着の診断は直視下でなければ難しいが,卵巣チョコレート囊胞や深部内膜症は診察所見や画像診断から診断することができる.

1 )問診・自覚症状

・子宮内膜症の主な症状は,下腹痛,腰痛などの月経時疼痛であり,およそ9 割の患者に認められる(表4).特徴として続発性であることと,年齢とともに増悪傾向を示すことである.月経時以外にも腹痛や排便痛や性交痛を訴えることも多い.
・子宮内膜症患者の約半数が不妊症を合併し,原因不明不妊症患者の約50 %に内膜症が存在する.不妊の訴えも内膜症を診断する上で重要な問診事項である.

2 )診察

・特徴的な内診所見としては,子宮の後屈と可動性の制限,子宮後面およびダグラス窩の硬結,さらに有痛性で可動性のない卵巣チョコレート囊胞の触知などがある.
・特に,DIE がある場合は,後腟円蓋から両側の仙骨子宮靱帯にかけての硬結と圧痛を確かめることが重要である.術前に所見を有するものでは同部の摘出組織に子宮内膜症が証明されることが多い.
・若年患者や性交未経験者では直腸診が有用であるが,画像診断を優先させてもよい.

3 )血液検査

・CA 125 とCA 19 – 9 が用いられている.両者とも感度・特異度は高くなく診断には用いることはできないが,治療経過の評価に利用されている.

4 )画像診断

①超音波検査

・経腟超音波検査は,子宮内膜症の診断や経過の把握の手段として重要であるが,腹膜病変のように同定が困難な場合もある.
a.卵巣チョコレート囊胞:肥厚した壁を有する単房性もしくは多房性の囊胞性病変を呈し,囊胞内部はびまん性・均一で,典型例では微細点状エコー(scatter)を認める(図5).
〈鑑別診断〉成熟奇形腫や出血性黄体囊胞などがある.ときに囊胞内に凝血塊や囊胞壁の脱落膜化(図6)による充実性病変を認めるが,この場合は悪性腫瘍との鑑別が必要であり,MRI が有用となる(図7).

b.DIE:ダグラス窩の閉鎖や子宮後壁漿膜の肥厚,仙骨子宮靱帯の肥厚などが認められる(図8).

② MRI

・MRI は血液およびその二次成分を特徴的な信号として描出するため,超音波断層法やCT と比べ,血液成分を特異的に診断することができる.したがって,卵巣チョコレート囊胞と他の付属器腫瘍との鑑別において,MRI は非常に有用である.腹膜病変については,小さい病変の同定は困難であるが,DIE やダグラス窩閉鎖は描出可能なことがある.

a.卵巣チョコレート囊胞:一般的には,T 1・T 2 強調像ともに高信号,あるいはT 1 強調像で均一な高信号,T 2 強調像でshading とよばれる低信号を呈する,単房性もしくは多房性の囊胞性病変として描出される(図5).
〈鑑別診断〉成熟奇形腫もT 1 強調画像・T 2 強調画像で高信号を呈するが,脂肪抑制画像により低信号を呈するため,卵巣チョコレート囊胞との鑑別は容易である.
b.DIE:線維化や癒着はT 2 強調画像で著しい低信号を呈するため,子宮後壁漿膜面,後腟円蓋部,ダグラス窩に低信号の帯状構造や結節を認める場合,DIE の存在が強く疑われる(図8).腟と直腸に超音波ゼリーを注入するMRI ゼリー法も有用である.
c.稀少部位子宮内膜症:膀胱や腸管の子宮内膜症において,腫瘤を形成している場合はMRI で病巣の同定が可能となる(図9).症状から腸管子宮内膜症の存在が疑われるが,腫瘤形成がなくMRI で同定が困難な場合は,大腸内視鏡検査や注腸造影検査を併用することで診断が可能となる(図10).






5 )腹腔鏡による診断

・子宮内膜症の確定診断には,腹腔鏡所見もしくは病理学的所見により,子宮内膜症の存在を証明する必要がある.
・しかし,近年の子宮内膜症に対する薬物療法の発展により,必ずしも腹腔鏡による確定診断を行わなくとも,「臨床的子宮内膜症」に対して,特に疼痛などの症状に対してはLEP 製剤などの薬物療法を開始することが増えてきた.
・一方,薬物療法抵抗性の疼痛のある場合は,腹腔鏡によって確定診断を行い,同時に病巣除去術を行う意義がある.
*不妊症患者で子宮内膜症の合併が疑われる事例では以下の理由により,不妊治療の方針に配慮しながら腹腔鏡手術を検討する意義がある.
①不妊女性の約3~5 割に子宮内膜症が合併するといわれている.
②挙児を希望する患者には内分泌療法を行いにくい.
③腹腔鏡による病巣除去が術後の妊娠率を向上させる可能性がある.
※しかし,囊胞摘出が卵巣機能を低下させる可能性があることにも留意する.
*卵管因子,男性因子などを合併し,ART を必要とする可能性が高いカップルでは,ART 前の腹腔鏡の意義は高くないと考えられている.

6 )腹腔鏡でのチェックポイント

①本症の好発部位に着目して観察する.

 骨盤腔内の特に,仙骨子宮靱帯,ダグラス窩,卵巣,骨盤側壁,膀胱表面,腸管表面が好発部位である.横隔膜下面(特に右側),虫垂も観察する.

②子宮内膜症の進行期分類(4,6 頁「3)進行期分類」の項②,④参照)

a.R-ASRM 分類

・子宮内膜症病変の大きさと癒着の範囲によって点数を加算して合計点を算出し,Ⅰ期からⅣ期の進行期に分類する.

b.EFI

・妊娠予後評価に優れ,術後のART のプランを立てる際に有用であることから,不妊症を合併する患者には本スコアリングが用いられる.