(3)妊娠中に見つかったチョコレート囊胞への対応

事例2:30 歳女性.
主訴:無月経.
 妊娠7 週と診断され,その際,はじめて超音波検査上径8 ㎝の卵巣チョコレート囊胞を指摘された.

1 )ここがポイント

・多くの事例で経過観察が可能であるが,妊娠中の囊胞径の増大や囊胞内充実部の出現,感染による膿瘍形成や破裂に伴う急性腹症により手術療法を施行することもある.
・妊娠に伴う高プロゲステロン状態により囊胞径が縮小することもある一方で,増大することもある.
・脱落膜化により囊胞内に充実部分を認め,悪性腫瘍との鑑別が必要なことがある.

2 )治療の実際

・特に卵巣に関して自覚症状が乏しく,妊娠初期にはじめて指摘された卵巣チョコレート囊胞の管理として,妊娠中の手術に伴うリスクなどを勘案すると,原則として手術を先行するよりも経過観察でよいと思われる.

3 )卵巣チョコレート囊胞の妊娠中および分娩時の管理の注意点

・妊娠中に確認されたチョコレート囊胞24 事例の検討で,妊娠中囊胞径は52%の事例で縮小,28%の事例で不変,20%の事例で増大を認めたとの報告がある(Ueda Y, et al. Fertil Steril 2010; 94:78-84.).
・同報告では,囊胞径の増大した5 例のうち3 例が妊娠に伴う異所性子宮内膜の脱落膜化による腫大,1 例が感染による膿瘍形成,1 例が破裂を認めたため,妊娠中に手術療法を施行し,残りの8 割にあたる19 事例は経過観察が可能であったとしている.
・卵巣チョコレート囊胞への感染や破裂に伴う急性腹症が発生する場合があることから,強い疼痛があり,保存的治療が困難な場合には妊娠週数にかかわらず,手術が考慮される.

4 )悪性腫瘍との鑑別

・妊娠に伴う異所性子宮内膜の脱落膜化により,チョコレート囊胞内腔結節像を認め,悪性腫瘍との鑑別が必要になることがある(9 頁 図5 参照)(Machida S, et al. Gynecol Obstet Invest 2008; 66:241-247.).
・画像診断として超音波検査が頻用されるが,パワードブラー法による血流評価では脱落膜化による結節像内に血流を認める事例が多く,評価は難しい.
・MRI やCT 検査が,良悪性の診断に有用なことがある.
*妊娠中のMRI 検査は妊娠14 週以降に行うことが望ましいとされるが,ガドリニウム造影剤の胎児への安全性は確立していないとされている.
*骨盤CT 検査による胎児被ばく量は平均で25 mGy であり,妊娠初期の被ばく閾値である100 mGy よりも低い(Pregnancy and medical radiation. Publication 84 , Ann ICRP 2000; 30).胎児に対するヨード造影剤については,必ずしも安全性は確立されていないとされているが,動物実験において有害事象は確認されていない.
* MRI,CT 検査によるリスクとベネフィットを考慮し,検査を実施する場合には,十分なインフォームド・コンセントを得た上で行うべきである(鳴海ら:造影剤の適正使用推進ガイドFAQ 第7 回 高齢者・小児・妊婦・授乳婦に投与する際の留意点.臨床画像23:1452-1457.2007).

 

コ ラ ム

子宮内膜症・子宮腺筋症の治療方法の選択は未だ議論の余地のあるものも多く,例えば,卵巣チョコレート囊胞の手術適応を囊胞の径のみで評価することは困難で,「4~ 5 ㎝」や「6 ㎝以上」など筆者によって推奨する数値の差異を認めることがある.患者年齢による治療方針の決定なども同様で,この研修ノート内では読者の治療方針選択の参考になると考えて,具体的な数値を載せているが,あくまで参考値としていただき, 他の因子も加味して総合的に治療方針を検討していただきたい.