(2)卵巣癌・卵管癌・腹膜癌に対する手術

1 )手術の基本コンセプト(三上幹男)

 卵巣癌への初回手術(PDS:Primary Debulking Surgery)のコンセプトは「癌の完全摘出」である.しかし最近,Ⅱ期以上が推測される例には術前化学療法(NAC)も初回治療として考慮に入れるべきとの意見が臨床試験の結果をもとに提案されている.進行癌におけるリンパ節郭清に関してその治療的意義は現在のところ証明されていない.将来は術前に内視鏡下診断やPETCT などの最新の画像診断により病変の完全摘出の可否を判定してPDS かNAC かの判定を行うようになるであろう.鏡視下手術も増え患者への負担を軽減する方向に進む可能性も高い.同時に分子標的治療薬を含めた薬物療法の発展が見込まれ,術式にも変化があると推測される(図6)

2 )根治性を追求する手術(寺内文敏)

①初回腫瘍減量術のこれから

 進行卵巣癌(含卵管・腹膜癌・以下同)治療における初回腫瘍減量術(PDS:PrimaryDebulking Surgery)の役割は高い.なぜなら,多くの大規模臨床試験(EORTC55971 / NCICOV13,CHORUS,LION など)の結果から,求められるsurgical outcome は肉眼的残存腫瘍を認めないcomplete surgery の遂行だけだからである.そのためには基本術式(両側付属器摘出術+子宮全摘出術+大網切除術)に追加して,他臓器合併切除が必要不可欠となる.特に横隔膜は好発転移部位であるため,横隔膜切除術はこれからの婦人科腫瘍医が習得すべき手技である(外科に依頼しても,切除経験のない場合が多いことも理由のひとつ).根治性を考えると小腸・結腸・脾臓・膵尾部の切除・再建も必須の手技ではあるが,昨今の医療を取り巻く社会情勢に鑑みて,経験の少ない婦人科医単独の施術に関するハードルは高い.よって,進行卵巣癌に対するPDS の近未来的展望は,横隔膜外科を習得した婦人科腫瘍医と,消化器・呼吸器外科,泌尿器科,病理診断科を擁した「卵巣癌外科チームOCST:Ovarian Cancer SurgeryTeam」の確立にかかっている.すなわち,高度な手術を実践する施設においてのみ進行卵巣癌に対するPDS を行うことが可能となり,地域ごとのセンター化(集約化)がなされていくものと考える.

②二次腫瘍減量術のこれから

 2017 年,二次腫瘍減量術(SDS:Secondary Debulking Surgery)に関するPhaseⅢ試験であるAGO DESKTOPⅢ 試験の結果が報告された.SDS 未施行群のPFS(Progression-Free Survival)中央値14 . 0 カ月と比べ,SDS にてcomplete surgery がなされた群は21 . 2 カ月と有意に予後が良かったことから,今後はSDS の適応拡大が検討されると考えられる.

③進行卵巣癌治療の近未来的考え方

 以上より,「進行卵巣癌(特にⅢ・Ⅳ期)治療のこれからの考え方」を提案する.進行卵巣癌では初回治療が奏効しても,2 年以内に約55 %,5 年以内に70%以上が再発するため,最初から「再発治療」は既定路線と捉え,「初回治療」の一環としてSDSを行う(図7).また,初回診断後にOCST を擁する施設にてcomplete surgery の完遂をめざしたPDS を行う.初回化学療法施行後は,厳重な経過観察を行い,SDS のタイミングを逸しないよう早期の再発診断に努める.再発診断後は速やかに再びOCST を擁する施設にてcomplete surgery をめざしてSDS を行った後に,二次化学療法を行う.ここまでを「初回治療」と考えることで,根治可能な患者を確実に根治させることが可能となる.ポイントは,「PDS におけるcomplete surgery」と従来の知見とは異なるが「再発の早期診断」である(図7).

 

④おわりに

 卵巣癌は抗腫瘍薬のみで根治可能な時代が訪れるかもしれない.特にTypeⅡに分類される卵巣癌は手術不要になるかもしれない.しかし,現在から近未来までは,その実現は難しい.近未来に我々がやるべきことは,高侵襲であってもQOL を損ねることなく,いかにcomplete surgery を達成するか,である.