8.排卵障害の治療薬

世界保健機構WHOは排卵障害、月経異常、無月経について7つに分類しており、排卵障害についてはGroup1から3つに振り分けている。WHOではGroup1は第二度無月経、Group2を第一度無月経、Group3は卵巣性無月経(第二度無月経)と分類している1)。日本語の第一度無月経と、第二度無月経と数字が逆転しているのに注意が必要と思われる。
WHO group2 は、最も頻度が高く、疾患としては多嚢胞性卵巣症候群(以下PCO)や高プロラクチン血症を含み、排卵障害のおよそ85%を占めている2)。今回は、WHO Group2の 疾患でよく使われている排卵誘発剤、クロミフェン、レトロゾール、低用量FSH療法について解説する。

クエン酸クロミフェン

 クロミフェン(クエン酸クロミフェン)は、日本では1968年から市販されている2)。抗エストロゲン作用により、視床下部のエストロゲン受容体において内因性エストロゲンと拮抗し、ネガティブフィードバックが阻害され、その結果下垂体からのgonadotropinの分泌が促進されて排卵誘発を促す3)。また増加した内因性gonadotropinにより複数の発育卵胞を認めることがある4)。
 クロミフェンの投与方法は月経5日目より開始される。50mg/日5日間より開始し、無効な場合は100mgに増量する2)、5)。LHサージはクロミフェン内服終了日から5〜12日後に引きおこされる。抗エストロゲン作用により頸管粘液の減少や子宮内膜の菲薄化が見られることがある5)。

レトロゾール

 閉経後の乳癌の治療薬であるアロマターゼ阻害剤は、排卵誘発には保険適応ではないため自費診療となる。2001年にMitwallyらによりクロミフェン無効例にも排卵が認められたことが報告されてから不妊治療患者にも応用されるようになった6)。
 アロマターゼ阻害剤の排卵誘発機序は、中枢性と末梢性の機序が推定されている。中枢性とはエストロゲンが低下してネガティブフィードバックが解除さる事による、末梢性とは卵巣内に蓄積したアンドロゲンによりもたらさせられると考えられている7)。
 レトロゾールの投与方法は月経3-5日目からレトロゾール2.5mg を5日間から開始し、無効な場合は7.5mgまでに増量される8)。レトロゾール群の排卵率は88.5%(331/374例)はクロミフェン群より76.6%(288/376)と有意に高かった(P<0.001)。妊娠率はレトゾール群では31.3(117/374), クロミフェン群では21.5(81/376)であった(P<0.003)。双胎率はレトロゾール群、3.4%(4/117)、クロミフェン群7.4(6/81) p<.0.32であった8)。PCOに対しては、クロミフェンよりレトロゾールが有益であることが伺える。 ゴナドトロピン療法  ゴナドトロピン製剤の一覧を簡潔に示した。本邦ではクロミフェン無効のPCOではFSH低用量漸増療法を行うことが基本である2)、9)。 ゴナドトロピン製剤の種類と適応疾患2) 一部改編        

製剤種類 製品名 陽性者(人) LH 代表疾患
HMG HMGテイゾー 1 1 視床下部性、下垂体性無月経
HMGフェリング 1 1
HMG TYK 100 1 1
HMG F 1 0.33
FSH ゴナピュール 1 0.0053 多嚢胞性卵巣症候群
フェリルモン 1 0.0053
HMG TKY 75/150 1 0.005
フォリスチム 1 0
ゴナールエフ 1 0

FSH低用量漸増療法の図説 2)より引用

 
ゴナールF(follitropin α)の容量設定試験では従来容量の150単位と比較し、排卵率、単一卵胞発育率は同等で良好であった10)。排卵率は37.5単位が86%(49/57)、75単位は95%(58/61)、150単位では50.9(28/55)(p<0.0001)。単一卵胞発育率37.5単位が64.9(37/57)、75単位は50.8%(31/61)、150単位では7.3%(4/55) (P<0.0001) 11)。ガイドラインが推奨するFSH低用量漸増療法の注意点は、初回投与量50または75単位/日とし、初回投与量を7日間または14日間持続することである。卵胞計測は投与開始の1週間後、その後は週に2-3回程度行う。卵胞径が10㎜を超えたら卵胞の成長速度を1日2㎜と予測する。平均径が16mmを超える卵胞数が4個以上の場合はhCGをキャンセルする。卵胞が10mmを超えない場合はFSHを増量するが、増量幅は初期投与の1/2となっている2)。 1)World Health Organization classification of anovulation;http://cursoenarm.net UP-TODATE/contents/mobipreview.htm?12/19/12600 2)生殖医療の必須知識 2010; JSRM 一般社団法人 日本生殖医療学会編 3) Kousta E1, White DM, Franks S. Modern use of clomiphene citrate in induction of ovulation. Hum Reprod Update. 1997; 3:359-65. 4)田村博史*, 竹谷俊明, 浅田裕美, 山縣芳明, 杉野法広:排卵誘発法. 産婦人科治療 2011; 102: 535-541  5) Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Use of clomiphene cit-rate in infertile women: a committee opinion. Fertil Steril. 2013; 341-348. 6) Mitwally MF1, Casper RF. Use of an aromatase inhibitor for induction of ovulation in patients with an inadequate response to clomiphene citrate. Fertil Steril 2001;75:305-309. 7) Casper RF1, Mitwally MF. Review: aromatase inhibitors for ovulation induction. J Clin Endocrinol Metab. 2006; 91:760-771. 8) Legro RS1, Brzyski RG, Diamond MP, Coutifaris C, Schlaff WD. Letrozole versus clomiphene for infertility in the polycystic ovary syndrome. N Engl J Med. 2014; 371:119-129. 9)吉村泰典 不妊治療における排卵誘発法 日産婦誌 1998; 50: N385-N388 10)Taketani Y, Kelly E, Yoshimura Y, Hoshiai H, Irahara M, Mizunuma H, Saito H, Andoh K, Yanaihara T. Recombinant follicle-stimulating hormone (follitropin alfa) versus purified urinary folli-cle-stimulating hormone in a low-dose step-up regimen to induce ovulation in Japanese women with anti-estrogen-ineffective oligo- or anovulatory infertility: results of a single-blind Phase III study Reprod Med Biol. 2010; 9:99-106 11) Taketani Y, Kelly E, Yoshimura Y, Hoshiai H, Irahara M, Mizunuma H, Saito H, Andoh K, Yanaihara T. Recombinant follicle-stimulating hormone (follitropin alfa) for ovulation induction in Japanese patients with anti-estrogen-ineffective oligo- or anovulatory infertility: results of a phase II dose–response study Reprod Med Biol. 2010; 9:91-97