胎盤性モザイク(confined placental mosaicism : CPM)について

胎児に染色体異常を認めないが、胎盤にのみ染色体異常を認めることを胎盤性モザイク(confined placental mosaicism : CPM)といいます。CPMでの胎盤の染色体核型は、異常核型のみの場合と正常と異常の核型の細胞の混在(モザイク)の場合があります。絨毛採取(chorionic villus samplings: CVS)で染色体検査を行った場合の1-2%にCPMがあると報告されており、CVSで染色体異常のモザイクを認めた場合には、羊水穿刺による胎児染色体検査で再評価する必要があります。また、CPMは2013年に我が国で開始された母体血胎児染色体検査(non-invasive prenatal genetic testing: NIPT)における偽陽性の原因の1つにもなっていることから、最近、再度注目されてきています。

CPMの発生機序

CPMは発生由来別に、染色体異常がcytotrophoblastに限局するもの(type I)、mesenchymal coreに限局するもの(type II)、両方の組織に認めるもの(type III)の三つのタイプに分類され、type Iとtype IIは体細胞分裂由来であり、type IIIは減数分裂由来とされています。その発生には体細胞分裂由来で正常核型の受精卵が細胞分裂を繰り返している中で発生したトリソミーによるものと、減数分裂由来で「トリソミーレスキュー」という現象によるものがあることが知られています(図)。「トリソミーレスキュー」とは、減数分裂時に発生した染色体異常の配偶子が受精してできたトリソミーの受精卵において、細胞分裂を繰り返していく段階で特定の細胞で余剰の染色体を排除する現象が起こり、2倍体化(正常核型化)することをいいます。その結果、胎盤はトリソミーのまま(またはトリソミーと正常核型のモザイク)、胎児では余剰染色体が1本失って正常核型となるCPMが起こります。
トリソミーレスキューは生体が生存するために起こる不思議なメカニズムですが、良いことばかりではありません。もともと3本あった染色体は、父親由来1本、母親由来2本か、または父親由来2本、母親由来1本からなっていますが、レスキューによって失う染色体はランダムに決まります。そうすると、3分の1の確率で2本の染色体が父親か母親のどちらか一方に由来するという現象が起こります。この現象を片親性ダイソミー(uniparental disomy: UPD)といい、CPMの場合には、児がUPDとなる可能性を考慮する必要がでてきます。

CPMに関連する周産期異常

  1. 片親性ダイソミー(UPD):インプリント遺伝子とは父親から受け継いだ染色体でしか働かない遺伝子、もしくは、母親から受け継いだ染色体でしか働かない遺伝子をいい、近年多くのインプリント遺伝子が報告されています。通常、ヒトは父親由来と母親由来の両方の遺伝子を1本ずつもっていることで正常な表現型を得ることができますが、UPDが起こるとその染色体のインプリント遺伝子が働かないことになり、児に表現型の異常が起こることになります。代表的な疾患としてPrader-Willi症候群(15番染色体のUPDで母親由来ダイソミー)、Angelman症候群(15番染色体のUPDで父親由来ダイソミー)、ラッセル・シルバー症候群(7番染色体のUPDで母親由来ダイソミー)などが挙げられます。インプリント遺伝子がある染色体でUPDが起こると、染色体の数的異常・構造異常を認めないにもかかわらず、表現型に異常を認めることになります。
  2. 胎児発育不全(fetal growth restriction: FGR):CPMは胎盤機能の異常の原因となり、胎児発育にも影響を及ぼし、不均衡型のやせタイプの胎児発育不全が増えると考えられます。また、CPMでは胎盤重量が正常核型に比べ小さい傾向にあることも確認されています。胎盤の染色体異常が16トリソミーと正常核型のモザイクの場合、FGRやIUFD、胎児構造異常に関連することが報告されるなど、CPMによる胎児発育不全に関しては多くの症例が報告されています。CPMによりFGRとなった症例では、児に染色体モザイクがなければ出生後には通常の発育が期待でき、児の予後は良好と考えられています。
  3. 妊娠高血圧腎症(preeclampsia: PE):胎盤染色体が16トリソミーのCPMの場合、24%でPEを発症したとの報告があります。胎盤のDNAメチル化に関する研究で、胎盤染色体が16トリソミーのCPMで認める胎盤DNAメチル化異常は、妊娠34週以前に発症した染色体正常例でのPEの胎盤のDNAメチル化パターンと一部似ていることが確認されており、PE発症への関与が示唆されています。
  4. NIPTにおける偽陽性:NIPTは母体血中を循環しているcell-free DNAを解析する検査であり、母体血中cell-free DNAの約10%が胎児・胎盤由来であることに着目して開発された検査です。各染色体由来のcell-free DNA量を測定し全体に占める割合をみることで特定の染色体の過不足を判定するというのがNIPTの原理です。母体血中の胎児・胎盤由来のcell-free DNAの大半は絨毛細胞由来であるため、NIPTの対象妊婦にCPMのある場合、胎児は正常核型であってもNIPTで異常と検出されることになります。この方法で胎盤のCPMのより正確な頻度が明らかになる可能性もあります。

図.CPMの発生機序

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