臍帯動脈血ガス分析の重要性

産婦人科診療ガイドライン2017産科編(2017年4月発刊予定)のCQ801には、『分娩直後の臍帯動脈血ガス分析結果は分娩前・分娩中の胎児の血液酸素化状況を反映する。この評価は「分娩中胎児血液酸素化が障害されていなかったことの証明」に極めて重要であることから可能な限り採取の上、評価、記録することが望ましい』と記されています。臍帯動脈血液ガスを調べる意味は、分娩時に胎児にアシドーシスがあったかどうかを客観的に評価できることにあり、分娩管理の妥当性を証明するためにも有益なデータであると考えます。
出生児は正常でも呼吸性アシドーシスの状態にあります。そこに組織での低酸素・虚血が原因の代謝性アシドーシスが加わると、より重度なアシドーシス(混合性アシドーシス)となり、出生児は新生児仮死を呈することになります。新生児仮死とは、出生時の呼吸・循環不全状態であり、先天異常や未熟性がない場合の多くは分娩中の低酸素・虚血に続発すると考えられます。重度の新生児仮死の場合、全臓器の機能障害が引き起こされ、特に中枢神経系では、低酸素性虚血性脳症に陥ると脳性麻痺、てんかん、精神運動発達障害など重篤な神経学的後遺症を発症することがあります。このため、出生時に臍帯動脈血ガス分析を行うことで重度のアシドーシスの存在を否定できれば産科的管理の妥当性を証明できることにもなり、また逆に、重度のアシドーシスがあれば、低酸素・虚血による神経学的後遺症発症の可能性を考えた集約的な新生児管理に迅速に移行できるかもしれません。
表に、臍帯動脈血ガス検査の正常値を示しますが、重度なアシドーシスの基準となるpHは定まっていません。pH7.0未満では、出生児の新生児死亡や神経学的後遺症が生じるリスクが上昇することは確かですが、それでも多くの出生児は合併症なく発育するのも事実です。そこで、一部でも予後が悪い例が生ずる可能性を考えて、pH7.1未満では注意深い観察または新生児エキスパートへの相談を考慮すべきとの意見があります。
著者は産科医療補償制度の原因分析委員会委員をつとめていますが、分娩経過中の胎児心拍数陣痛図から想定される新生児の状態と臍帯動脈血ガス所見に乖離がみられる事例を高頻度に見かけます。その中には、分娩開始前の段階で胎児脳虚血が起こり、すでに胎児中枢神経障害が形成されていて、その後に胎児循環が回復し、胎児のアシドーシスも改善していたと判断される事例も多く存在します。このような事例で分娩時の管理の正当性を証明できる重要な証拠が臍帯動脈血ガス分析の結果になります。
以上のような理由から、臍帯動脈血ガス分析の重要性を理解していただき、ガイドラインの推奨度はCではありますが、分娩時に臍帯動脈血ガス分析を行うことをお勧めします。

表 臍帯動脈血液ガスの正常値

  平均 範囲
pH 7.27 7.15-7.38
PCO2 (mmHg) 50.3 32-68
HCO3 (mmol/L) 22.0 15.4-26.8
BE (mEq/L) -2.7 -8.1-0.9

(Ramin SM et al. Umbilical cord blood acid-base analysis. UpToDate 2013より引用)