17.子宮頸管長の意義

子宮頸管長の意義 

妊娠中期の経腟超音波のお話しをいたします。妊娠中期に行う経腟超音波の主な目的は、子宮の増大のため子宮口あたりの評価になります。もちろん多くの施設で当たり前に行われているでしょうが、早産兆候の確認としての頸管の観察、前置胎盤の有無のチェックなどで用います。その他では前置血管や臍帯下垂などの分娩時のトラブルの有無のチェックにも利用できます。

日本は欧米に比べて経腟超音波が普及していると思います。産婦人科には内診台が必ずあり、経腟超音波を行う専用の超音波機器をもっているのがほとんどであると思います。ですので、気軽に経腟超音波が施行でき、リスク評価に役立っているのが現状です。

しかし、欧米ではそれほど経腟超音波をしません。なぜなら、体内に器械を挿入する経腟超音波検査は侵襲的手技のひとつで、適応を考えて施行すべきという考え方があるからです。例えば、前置胎盤については、経腹超音波であきらかに常位胎盤であれば経腟超音波で確認する必要はないというスタンスだからです。早産の予測における頸管長測定についても同じです。頸管長をはかることで早産の予知や予防には限度があると考えられており、全例に頸管長を測定するために経腟超音波検査を施行することは、感染などのデメリットも含めて慎重にすべきであるという考えが根底にあるからです。そこで今回は、子宮頚管長の意義についてお話したいと思います。

 

正しい頸管長とは

妊娠中期以降に子宮内腔の増大によって子宮下節がひらきます。正常であればleaf様にみえる部分が頸管で、それ以上の部分は子宮下節と考えます。最近の超音波の解像度の向上に伴って、頸管と子宮下節を区別してみることができます。ですので、子宮下節を含めて頸管長を測定しないように注意をしなければなりません。

まだ開大していない子宮下節(これを頸管長測定に入れない)

下節が開きかけの子宮口付近

 

頸管長はなにをみているか

すべての妊婦の子宮口は分娩に向かってすこしずつ展退し、開大します。頸管長測定はその展退の様子をみていると考えます(1)。展退は内診で主観的に評価しますが、頸管長は画像で測定しますので、ある程度客観的に評価できると考えます。

文献1より

しかし、子宮口は柔らかく、子宮口が開いていても2cmぐらいまでは頸管長は測定できます。つまり、頸管長で子宮口開大は診断できないと考えるべきです。そもそも頸管長は内診で子宮口が閉じている前提で測定するものです。そもそも、子宮口が内子宮口側から開くことを超音波でみつけることで、早産の徴候をはやく捉えることができるのではないかというのがこの検査の発想です。

 また、頸管長は必ず週数の経過に伴って短縮します。どこからが早産ハイリスクであるなどといったカットオフ値はありません。週数の経過ともにただ短縮したと評価するか、異常に短縮し、開大に向かっていると評価するか、そこが重要になってきます。頸管長を含めて妊婦さんの早産になる可能性を総合的にアセスメントをしなければならないので、妊婦さんに頸管長の数字だけを伝えるような説明の仕方はあまり好ましいとはいえません。

文献1より

頸管長スクリーニングの意義

頸管長が測定できるようになって、数多くの研究がされてきました。しかし、期待以上の早産予知ができるわけではないことが分かってきています。図は、子宮収縮や出血などの症状のない妊娠23週の無症候妊婦に、頸管長測定で測られた値と妊娠32週未満の早産率をグラフにしたものです。早産率は、頸管長が15mmまではほとんど変わりませんが、それ以下になると急激にあがることが分かります(2)。このように無症候妊婦のスクリーニングとして妊娠23週に頸管長を測定した場合、よほど頸管長短縮(展退)しないかぎり早産のリスクが高いとは言えないことを示しています。

文献2より

 

頸管長と早産予知

 早産の可能性に最も注意しなければならないのは、前回の分娩が早産であるということです。早産既往や多胎、円錐切除術後などは早産ハイリスク症例と考えられます。頸管長の測定は、そのような早産ハイリスク妊婦に対しては有用であると考えられています。頸管無力症が発生していないかを確認するために、早産ハイリスク例には妊娠14-24週の健診毎に頸管長をチェックすることが推奨されています。

一方、無症候の初産婦や、早産既往のない経産婦(早産ローリスク妊婦)には妊娠20-24週で1回頸管長を測定することが、頸管無力症や早産の可能性のある妊婦のスクリーニングとして有用であると言われています。早産ローリスク妊婦にスクリーニングを行って、頸管長短縮があれば外来で少しまめに経過観察し、開大兆候を伴ってくれば頸管無力症として、子宮収縮を伴ってくれば切迫早産として入院管理などを考慮します。無症候妊婦に、頸管長の短縮のみで子宮収縮抑制薬を投与したり、入院管理する意義はあまりないと考えられます。

 

切迫早産と頸管長

子宮収縮や出血などの症状のある妊婦に対して、子宮口開大や頸管長短縮は1週間以内に早産に至る可能性のリスクアセスメントとして利用できると考えられますが、本当に先々早産に至るかどうかは難しいところであります。

また、妊娠30週以降の無症候の妊婦に、頸管長を測定する意義はほとんどありません。妊娠30週代で子宮口開大していても正期産まで問題ないことはしばしばありますし、逆に、子宮口が閉鎖していても子宮収縮の強い妊婦には破水し、早産に至ることがあります。頸管長の測定は、妊娠中期の頸管無力症の検出には強く、切迫早産には難しいと考えます。

 

  1. Okitsu O, Mimura T, Nakayama T, Aono T. Early prediction of preterm delivery by transvaginal ultrasonography. Ultrasound Obstet Gynecol. 1992;2(6):402-9.
  2. Heath VC, Southall TR, Souka AP, Elisseou A, Nicolaides KH. Cervical length at 23 weeks of gestation: prediction of spontaneous preterm delivery. Ultrasound Obstet Gynecol. 1998;12(5):312-7.