15.超音波検査と染色体検査との関連(出生前診断について)

児や小児に発生する病気は無数あります。出生前診断をうければ、それらの多くを網羅的に調べられるという様に考えられがちなのですが、出生前に知れることの大半は、前述した超音波検査で診断できる形態異常と、本稿で解説する染色体異常に関連する異常の2つしかありません。出生前診断を考える妊婦(クライエント)には、まずこのギャップがないかを確認することが大事です。

染色体異常とは
 体が生きてゆくために必要な遺伝情報(遺伝子)は、凝縮されて染色体という構造を作り細胞1個1個の中にあります。ヒトは22種類の常染色体がそれぞれ2本ずつ計44本と2本の性染色体を持ち、合計46本で構成されます。
染色体異常には多くの種類がありますが、正常カップルであっても受精の時などに偶発的に正常な46本の染色体を構成できないことよって発生します。胎児の形成・発育プログラムを含んだ根本的異常であるため、受精卵が分割せず枯死する場合や、初期の流産の原因の多くに染色体異常が含まれていることが分かっています。
 例えばダウン症候群は、21番染色体が1本過剰で3本あるというトリソミーという染色体の異常が原因となる症候群です。生後に知的な発達障害や運動発達の遅れがみられることや、多種類の合併症を持つことがあります。染色体異常の障害の程度(表現型)は個体によって異なります。ほとんど健常者と差がなく社会的に活躍している人も少数いる一方、ある程度のハンデキャップを負っています。根本的な原因を治す治療法はなく、その子供の発育・発達する能力を最大限に伸ばしてあげる「療育」と呼ばれるアプローチがとられます。
 染色体異常であってもその程度があまり大きくなく、流産(自然淘汰)をまぬがれて育った場合、なんらかの出生前検査で疑われ、胎児診断に至ることがあります。染色体異常を持つ場合、表現型の異常を伴うことがあり、大きな形態的異常(消化管や心臓など)や、その異常が複数重なる場合(多発奇形)はその可能性が疑われます。ただし、形態異常があっても染色体が正常な場合もありますので、超音波検査のみでは染色体異常かどうかがあるかは診断できません。その様な場合、診断を確定するためには染色体検査を実施しなければなりません。

染色体検査
 前述のように、超音波検査の所見から胎児の形態異常がみつかり、染色体検査が考慮される場合もありますが、ダウン症候群などの軽微な染色体異常については形態異常を持たない場合が多くあります。ですので、ダウン症候群をはじめとする染色体異常の有無を明らかにしたいクライエントには、超音波検査とは別に、はじめから染色体検査を行うことを考えてもらう必要があります。生まれたあとの児ですら、染色体異常の有無を診断するためには染色体検査が必要であるということを説明し、形態異常と染色体異常の違いを十分に理解してもらうことが重要です。

  染色体検査には、絨毛検査と羊水検査の2種類があります。これらの検査は、児の染色体を直接採取し、分析しますので確定的検査と呼ばれます。また、子宮の中からその細胞を集めますので、穿刺手技を伴いますから、侵襲的検査とも呼ばれます。破水、出血、感染などのリスクはわずかながらある侵襲的検査ですが、確定的検査はこれらしかありません。
 クライエントが、もともと染色体異常があるか否かの100%の診断を求める場合か、前回説明したマーカー検査で染色体異常の確率が高く、染色体検査をしたいと思う場合か、なんらかの超音波検査による形態異常の診断がなされて染色体異常の有無の確認が必要と思う場合に施行される検査です。

染色体検査の種類と特徴

染色体検査は高齢だからする検査ではない

 ダウン症候群を含め、多くの染色体異常は卵の細胞質の加齢による変化に起因すると考えられているため、妊娠女性の年齢の増加とともに増加します。おおよその確率は表に示す通りですが、染色体異常をもつ児はそれほど高頻度に生まれてくるわけではありませんので、医療者が推奨するようなことがあってはなりません。
 41歳で生まれた児がダウン症である確率は1/86とありますが、パーセントに直せば98.8%(85/86)はダウン症候群ではないことを示します。43歳でも98%大丈夫です。98%大丈夫なことを、「可能性が高い」のひとことで染色体異常に誘導することのないような配慮が必要です。逆に20代でも1000人に1人の確率でダウン症候群の児が生まれます。これらの数字の捉え方は人それぞれであることに配慮した説明が求められます。実際、ダウン症候群のお子さんを育てている母親はいわゆる高齢でない方が多いということが知られています。 

逆に20代でも1000人に1人の確率でダウン症候群の児が生まれます。これらの数字の捉え方は人それぞれであることに配慮した説明が求められます。実際、ダウン症候群のお子さんを育てている母親はいわゆる高齢でない方が多いということが知られています。

 最後に、私の施設で使っている妊婦さんへの出生前検査のご案内を添付いたします。適宜、それぞれの医療施設にあった形で修正しご利用いただいても構いません。参考にしていただければと思います。

出生前検査のご案内:出生前診断