11.PARP阻害薬による新規卵巣癌治療 ―PARP阻害薬の作用機序―

2018年4月から卵巣癌新規治療薬としてPARP阻害薬が登場した。効能・効果として白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣癌における維持療法として使用することになった。

<効能・効果に関連する使用上の注意>
1.再発時の白金系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法で奏効が維持されている患者を対象とすること。
2.臨床試験に組み入れられた患者における白金系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法終了後から再発までの期間(PFI)等について、「臨床成績」の項の内容を熟知し、本剤の有効性及び安全性を十分に理解した上で、適応患者の選択を行うこと。

文字通り解釈すると、卵巣癌で初回治療に手術と抗癌剤による治療としてTCあるいはdd-TCを行ったあとに、6か月以上の間隔をあけて再発した場合(プラチナ感受性)に、プラチナを含んだレジメンで化学療法を実施し、奏効が維持された場合の維持療法としてPARP阻害薬を使用することになる。

PARP阻害薬の作用機序

PARP阻害薬を知るためにはPARPを正確に理解することが必要である。
 DNA修復に関する役者として、PARPとBRCA1/2が登場する。PARP(ポリADP-リボースポリメラーゼ)はDNA一本鎖切断を認識し、この修復に関連する塩基除去修復蛋白を運んでくる運び屋(酵素)である。また、BRCA1/2を含む多くの蛋白は相同組み換え修復に関連し、DNA二本鎖切断修復に重要な働きをする。DNA一本鎖切断が起こると塩基除去修復の作用でDNAが修復され、細胞生存する。一方、DNA一本鎖切断が修復されないと、DNA二本鎖切断が起こってしまうが、相同組み換えという機序でDNA修復され、細胞生存する。DNA修復は2種類の修復機能により守られており、何らかの原因でPARPが機能しない場合でもDNA二本鎖切断修復を行うBRCA1/2の働きにより、DNA損傷は修復される。もし、BRCA1/2が欠損するなど、相同組み換えがうまくいかないと細胞死を誘導することになる。

卵巣癌の一定数がこの相同組み換え修復がうまく機能しない状態に陥っている。すなわち、BRCA1/2をはじめとする相同組み換え修復に関与する遺伝子の生殖細胞系列あるいは体細胞系列で変異が起こっている場合には、PARPの働きを止めることによって、細胞死を誘導することができる。これがPARP阻害薬の作用機序である。

 

PARPの作用

PARPはポリADP-リボースポリメラーゼという酵素である。酵素であるからには基質が必要である。その基質にあたるのがNAD (ニコチンアミドジヌクレオチドnicotinamide adenine dinucleotide)であり、生体高分子のpoly(ADP-ribose)(ポリADPリボース)を標的蛋白に結合させる。つまり、PARPはNADをADPリボースとニコチンアミドに分解する酵素である。最終的には図のようにDNA一本鎖切断に結合したPARP自体にADPリボースが付加重合され、枝が伸びていきこれに塩基除去修復を担うタンパクを結合して連れてくるのである。これが繰り返されることにより、効率的にDNA一本鎖切断が修復される。つまり、PARPはDNA一本鎖切断修復を行う塩基除去修復を連れてくる運び屋として働くのである。

プラチナ感受性があるとなぜPARP阻害薬は効果があるのか?

効能・効果に関連する使用上の注意として、「再発時の白金系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法で奏効が維持されている患者」と記載されている。すなわち、プラチナ感受性 = PARP阻害薬の効果、はどうしてなのか以下に説明する。

 プラチナ製剤によるDNA二本鎖間の架橋修復機構には、相同組み換え修復が含まれる。そのためプラチナ製剤に感受性を示している卵巣がんでは、相同組み換え修復機構が破綻している場合が多く、PARP阻害薬によって細胞死に至る。この機序を理解するためには、相同組み換え修復機序を学ぶ必要がある。

  相同組換えでは、DNA二本鎖切断が生じるとヌクレアーゼ等の働きにより3′突出末端が作り出され、姉妹染色分体中に存在する相同な配列を探索する。相同な配列が見つかると姉妹染色分体と対合し、相同な配列を鋳型としてDNA合成を開始する。その後、元の鎖と再連結し、修復が完了する。この一連の流れを図に示した。

すなわち、シスプラチンによるDNA障害が起こっても相同組み換え修復ができる卵巣癌細胞は、シスプラチンが効かない。逆に言えば相同組み換え修復ができない卵巣癌細胞は、シスプラチンによるDNA障害を治せない。すなわちシスプラチンが効いている。したがって、相同組み換え修復ができない卵巣癌は、PARP阻害薬が効く、ということである。