10.必ず妊娠初期に確認! 合併異常のチェック

若い妊婦さんだったりすると、妊娠に気づいたのが初めての産婦人科受診ということも少なくありません。子宮はあっという間に大きくなってしまい、全景を超音波で観察しにくくなりますし、子宮の裏側にある付属器やダグラス窩の様子などは観察できなくなってしまいます。
初診時などには婦人科検診と同様に、くまなく婦人科臓器のチェックを行いましょう。

子宮全体の観察
子宮筋層の形、前傾後傾の確認、筋層の厚さ、子宮、体部のバランス、形状、筋層内や子宮内の異常構造の有無を確認します。双角子宮のような場合もあるので、子宮の左右外側も確認する癖をつけたほうが良いです。

付属器の観察
子宮付属器は子宮の頭側背面にありますので、妊娠によって子宮が大きくなった後では経腟でも、経腹でも超音波が届きにくく観察困難となりますので、早いうちのチェックがポイントとなります。
卵巣腫瘍や黄体出血などを合併する場合もあるだけでなく、子宮外妊娠のチェックとしても重要であることは言うまでもありません。

異常例の超音波診断

・子宮筋腫
子宮筋腫は症状がないものまで含めると5人にひとりは有しているともいわれ、珍しい異常ではありません。妊娠中に血流の変化の影響をうけて増大するものもあれば、縮小するものもあります。また、極端に筋腫核自体が虚血になったりした場合、変性し、炎症性変化を起こして子宮収縮を惹起し、妊娠中期の切迫流早産に関連する場合があります。
妊娠初期に、どれぐらいの大きさのものがどこにあるかは把握するようにしておきます。

子宮筋腫合併7週

子宮の増大に伴って、子宮筋腫の位置も変わってみえることがあります。初期に子宮の下部にあって経腟分娩が難しそうに見えても、妊娠後期には児頭が筋腫を超えて正常分娩に至ることもあります。有茎性子宮筋腫が捻転を起こしたり、稀ではありますが、巨大子宮筋腫によって子宮自体が回転や屈曲してしまい、骨盤内などで嵌頓するようなこともありますので、妊婦健診における超音波検査で、位置の変化を見ていくようにします。

巨大子宮筋腫合併14週
(経腹矢状断:panoramic view)子宮下部に胎児を含む胎嚢があり、子宮底側に巨大子宮筋腫があり、頭側では変性して液体貯留をみとめた。

・双角子宮
妊娠子宮が大きくなってしまうと双角子宮の診断は困難です。双角子宮では、子宮容積が小さくなっている状態ですので、胎児発育不全、子宮破裂、微弱陣痛などとの関連がありますので、あらかじめ知っておきたい異常です。

双角子宮(右)の妊娠10週
この時期の左右の子宮に大きな違いはないが、週数とともに分かりにくくなる

・既往の手術創部のトラブル
既往の帝王切開や子宮筋腫核出術後の筋層が菲薄化していることがあります。そのような手術創部に着床、胎盤の成長がみられると癒着胎盤や子宮破裂に至ることがあります。既往の手術情報をもとに、子宮創部に異常が無いかを確認しておくことも重要です。

帝王切開瘢痕部妊娠9週
前回帝王切開創部が菲薄化し胎嚢で膨らんでいる

・卵巣腫瘍
卵巣腫瘍の自覚症状はほとんどありません。ですので、これも妊娠初期に偶然に発見されることが少なくありません。

単純卵巣嚢胞合併5週
妊娠初期に発見されたが、もともともっていたかは不明

卵巣嚢腫のなかでもデルモイドは、若年に多いため、妊婦が合併する頻度が高いです。ある程度の大きさがあり典型的なものであれば診断は容易です。しかし、自然軽快することはありませんので、妊娠初期に手術をするのかどうかのinformed consentが重要となります。
デルモイドは硬さがありますので、大きくなくともダグラス窩にはまってしまった場合、経腟分娩の妨げとなり帝王切開を余儀なくされるかもしれません。また、子宮増大によって動きやすく、妊娠中の茎捻転による緊急手術となるかもしれません。

6cmのデルモイド腫瘍
良性であるものがほとんどであるが、初期に妊娠中の取り扱いのICは重要!

一方、子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢腫)の場合は、妊娠による無月経で小さくなるかもしれません。

さらに、妊娠初期に見られる機能的な卵巣嚢腫(ルテイン嚢胞)のような経過観察でよいものもあります。さらに、体外受精などで卵巣刺激をしている場合は多彩な見え方となります。
卵巣内の血腫像は多房性であったり、内部が不整にみえたり、悪性腫瘍との鑑別が難しいものも少なくありません。しかし、ルテイン嚢胞であれば経過で見え方が変わってきますので、経過を比べた注意深い観察が必要です。

自然妊娠6週の卵巣嚢腫合併
多房性の卵巣嚢腫で壁も厚く、内部も不整。妊娠13週には自然消失した(ルテイン嚢胞であったと考えられた)。